148話 サラへの手紙
リサヴィはギルドに向かうとリッキー退治の完了報告を行い、約束通り無料宿泊チケットをもらった。
三人とも金には困っていないが、だからといってせっかくの好意を無駄にするつもりもなかった。
「この宿屋とても評判がいいんですよ。露天風呂もあるんです」
受付嬢が無料チケットを渡しながら笑顔で言った。
「そうなんだ」
「それは楽しみですね」
「ざっく。リオ、気をつけろ」
「ん?」
「どういう意味かしらヴィヴィ」
「ざっく。そういう意味だ」
「「……」」
サラ達がギルドから出ようとした時、受付嬢が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「すみません、サラさん!ちょっとお待ち下さい!」
「はい?」
「サラさん宛に手紙がある事をお伝えするのを忘れていました」
「誰からですか?」
サラの頭に浮かんだ相手はナナル神官長だった。
「すみません。そこまではわかりませんが、現在、ギルド本部に保管されておりますので今から手続きすれば明日の夕方にはお渡し出来ると思います」
冒険者ギルドではギルド間での荷物の転送を有料で行っている。
それに用いられるのは魔道具“転送くん”だ。
転送くんはどこのギルドにでも自由に送ることが出来るわけではない。
ギルド本部にある転送くんはどの支部にでも転送が可能であるが、支部にある転送くんは廉価版でギルド本部にしか転送できないのだ。
そのため、例えば、ギルド支部Aからギルド支部Bへ荷物を送る場合、ギルド支部Aからギルド本部へ送り、ギルド本部からギルド支部Bへ転送する事になる。
今回のサラのように送り先が不明な場合、品物はギルド本部に保管され、受け取り希望のあったギルドへ転送する事になる。
ただし、転送くんはすべてのギルドにあるわけではないので、受取人が転送くんのないギルドで荷物を受け取る場合、まず転送くんがある近くのギルドに転送され、そこから人手で受取人の希望するギルドに運ばれる事になる。
今回、このギルドには転送くんがないため、時間を要するというわけだ。
サラは二人に確認をとり、明日受け取ることを受付嬢に伝えた。
宿泊先の宿屋は改装したばかりのようで部屋は綺麗で、食事も美味しかった。
ちなみに露天風呂は男女別々であり、特にイベントは起こらなかった。
「ざっく。私の監視が効いたな」
ヴィヴィがどこか誇らしげに言った。
「ん?」
「リオ、ヴィヴィの言うことは気にしなくていいです」
「そうなんだ」
次の日の夕方。
サラは受付嬢から何十枚もの手紙を受け取った。
差出人を名前を見てサラが顔を顰める。
「皆、同じ相手の方ですね。もしかして恋人ですか?」
サラの表情の変化に気づかなかったらしく、受付嬢は軽い気持ちでそう話しかけた。
だが、
「ストーカーです」
「……え?」
サラの言葉を聞き、受付嬢の表情が固まる。
そう、手紙は全てストーカー、カリスからだったのだ。
「相手はストーカーです」
サラは大事な事だからか、もう一度言った。
「え?え?」
受付嬢が動揺するなかで、サラは乱暴に封を切り、ざっと目を通す。
内容はすべて同じで要約すると「助けに行くので居場所を教えろ」というものだった。
「一体何から助けると言うのかしら……。あなたが来ないことが一番の救いなんだけど」
サラはカリスの相変わらずの妄想癖に深いため息をついた。
タイミングを逸し、その場に留まっていた受付嬢にサラが目を向けた。
「コレのストーカー登録手続きをしたいのですが」
「え?……あ、はいっ!し、しばらくお待ちください!」
受付嬢が慌てて奥へ消えた。
サラの言葉で全てを察したヴィヴィが言った。
「ざっく。やはり生きていたか」
「ええ。しかもまだ諦めていないわ」
「ん?」
「カリスです」
「そうなんだ」
サラは手紙をクシャクシャに丸めるとゴミ箱に捨てた。
ストーカー登録には二通りある。
1.ストーカーにストーカー登録したと宣言する。
2.ストーカーにストーカー登録したことを隠す。
1の場合はストーカーから登録者に関する問い合わせがあった際にストーカー登録されている事を本人に告げ、ストーカー行為をしないように警告する。
2の場合はストーカーから登録者に関する問い合わせがあっても聞くだけで何も対応しない。
どちらの場合でもストーカーから問い合わせがあった事は登録者に連絡される。
登録者がストーカーと出会った場合、自衛的攻撃行動が許されている。
ただし、2の場合は相手はストーカー登録されている事を知らないのでストーカー登録している事を宣言するまで自衛的攻撃行動は許されない。
今回、サラはとりあえず2を選択した。
また、ストーカー登録するには第三者の証人が必要であり、リオとヴィヴィが証人となった。
更に別パーティの証人としてウィンドのベルフィ、ナックの名をあげた。
「……はい、これでサラさんの登録作業は完了です。あとはベルフィさん、あるいはナックさんの確認が取れ次第、登録が完了致します」
「よろしくお願いします」
サラはその場でベルフィとナックにカリスのストーカー登録の協力をお願いする手紙を書き、転送くんでの送付を依頼した。




