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143話 逆ハレパ

 四人の冒険者がこちらへ向かって来るのが見えた。

 近づくにつれて何か言い争っているように見え、ハッキリと声が聞こえるところまで近づくとそれは疑いのないものとなった。

 その話を耳にしてリオが首を傾げる。


「ねえ、サラ、あの人達は何を言ってるのかな?」

「し、知る必要はありません!」


 サラは顔を少し赤くしてリオを睨む。

 リオはヴィヴィを見た。


「ざっく。サラに聞け。専門分野だ」

「そうなんだ」

「そんなわけないでしょ!」


 サラがヴィヴィを睨みつける。

 前方の冒険者が言い争っている内容、それは夜の営みについてであった。


 そのパーティは男三人、女一人だった。

 装備を見る限り、男女の戦士、魔法使い、神官のパーティ構成のようだ。

 言い争っているのは戦士の男女である。

 神官が言い争ってる二人に声をかける。


「そろそろやめろよ。向こうの奴ら、引いてるぜ」

「ああん?あんた、あたいに指図すんのかいっ?!」


 女戦士は身長が高く体格もガッチリしている。

 露出度がやや高く肌には無数の傷跡が見える。

 神官がいながらそれらの傷が残っているということは、神官が仲間に入る以前に負った傷で消す事が出来ないほど時が過ぎていたか、戦歴を誇るために意図的に残しているかのどちらかだろう。


 女戦士がリオ達に視線を向ける。その瞳は八つ当たりする気満々に見えた。

 だが、リオを見た瞬間、その表情が緩み、妖しい笑みを浮かべる。


「あちゃ、また始まったかぁ?」

「なんか言ったかい?」

「なんでもない」

「ふん」



「喧嘩は終わったの?」


 相変わらず空気の読めない言葉を発するリオ。


「はっ、面白いこと言うねえ!」

「面白い?」

「ああ、面白いね!あんた、あたいが怖くないのかい?」

「何故?」


 リオは首を傾げる。

 その姿を見て女戦士が大笑いをする。


「あははははっ!あんた、気に入ったよ!あたいの男にしてやるよ!」

「ん?」

「ちょっと待って下さい!」


 サラが会話に割って入る。


「あたいになんか文句あるのかい?」

「あります。リオは私達のパーティのリーダーです。引き抜きは困ります」

「は?リーダー?こいつがかい?」


 女戦士はリオに顔をグッと近づける。

 サラがリオを下がらせ、女戦士の前に立ち塞がる。

 しばし、睨み合う二人。

 先に口を開いたのは女戦士の方だった。


「声からしてあんた女だね。突っかかってくるって事は、それはあんたの男かい?」

「違います!さっきも言いましたが私達のパーティのリーダーです!」

「そうかい。でも関係ないね。パーティから引き抜こうなんて思ってない。ちょっと味見するだけさっ」

「ダメです」

「へえ、あんた、あたいとやろうってのかい?」


 二人が険悪な雰囲気になり、女戦士のパーティの神官が仲裁に入る。


「落ち着けって。とりあえず自己紹介しようぜ」

「なんでさ?必要ないわ、そんなもん」

「ええ。必要ないですね」

「「……」」

「まあまあ、オレ達は“真なる牙”ってパーティで、オレの名はジェイク。見ての通りクラスは神官だ」

「俺はハル。魔法使いだ」

「俺はトール。戦士だ。ほれ、次お前だ」


 女戦士はチッと舌打ちしながらも名乗った。


「あたいはグレイス。真なる牙のリーダーで、コイツらはあたいの男だ」


 サラは次は自分の番と名乗ろうとしたが、グレイスの最後の言葉が引っ掛かり一瞬、思考が停止した。


「……あの、今、なんといいました?」

「グレイスだ」


 グレイスがニヤリと笑って言った。


「そうではなく、あの、三人ともあなたの、その、男と言ったのですか?つまり、恋人という意味ですか?」

「なんだ、ちゃんと聞こえてんじゃないか。耳が遠いのかと心配したよ」

「心にもない事を」

「なんか言ったかい、トール?」

「別に」


 リオがヴィヴィを見た。


「サラは何を驚いてるの?」

「ざっく。自分には男が一人もいないのに向こうは三人もいて羨ましくて嫉妬してるのだろう」

「そうなんだ」

「違います!」


 サラがリオの頭をどついた。


「すみません。今まで、その、そういう関係の方を見た事がなかったので」

「女をはべらす男がいるんだ。男をはべらす女がいたっておかしくないだろ」

「そうなんだ」

「おうっ。言い寄ってきたコイツらを断りきれなくてねぇ」


 その言葉に男達は言いたい事がありそうだったが口に出しはしなかった。


「あんたもあたいの男にしてやろうか?あと二人くらいは同時に相手できるぜっ」


 そう言って、グレイスの手が卑猥な動きを見せる。


「お断りします!」


 リオが返事する前にサラが叫び、顔を赤くしながらグレイスを睨む。


「あたいの体力を見くびってもらっちゃ困るねぇ」

「そんな心配はしてません!」

「おいおいグレイス。いい加減、純情娘をからかうのはやめろよ」

「あたいも純情だよ」

「おお?俺、“純情”って言葉の意味勘違いしてたか?」


 グレイスの鉄拳を腹に受けのたうち回るトール。

 

「さて、お嬢ちゃん。あんたらの自己紹介がまだなんだけど?」

「……私はサラ。ジュアス教団の神官です」

「神官?」


 サラの服装、装備からは戦士にしか見えない。

 その事に気付きフードを脱いで補足する。


「神官の格好をしていますと色々面倒な事がありまして」


 ジェイクはサラの美しい姿に一瞬見惚れたが、その名に心当たりがあり、我に返る。


「サラって、もしかしてあのサラか?」

「どうしたジェイク?」

「サラ。あなたはあの“鉄拳制裁のサラ“なのか?」

「違います」

「ざっく。今更隠してどうする」

「ヴィヴィ!」


 グレイスがニヤけた笑みを浮かべる。


「ああっ、あれかいっ!思い出したよ!確かショタコン趣味を隠すために気に入ったガキを勇者だとか言い張って引っ張り回してるっていう」

「な、ななな、なんですか!その出鱈目な噂は!?」

「おやぁ、何怒ってんだい?あんたは違うんだろ?“鉄拳制裁ショタコン”のサラとはさぁ」

「ち、ちちち違いますけど!何も知らない人の事の悪口を言うのはどうかと思います!」

「そんなのあたいの勝手さ。本人見るまで訂正する気はないさ。……訂正する必要はなさそうだけどね」

「ぐ……」

「僕はリオ。クラスは戦士。パーティ名はリサヴィ。僕がリーダーだよ」


 空気を読まない事には定評のあるリオが自己紹介を始める。

 今回に限っては空気を読んで話題を逸らしたようにも見えるが、言うまでもなくリオにそんな気配りなどない。


「ざっく。魔装士のヴィヴィ」

「そのまんまだな。仮面を取って素顔を見せてくれないのか?」

「ざっく」

「ヴィヴィは恥ずかしがり屋で目立つのが嫌いなんだ」

「いや、魔装士は目立つぞ。すごく目立つぞ」


 代表してツッコミを入れるトール。



「ねえ、グレ……」

「グレイスだ。あんた、馬鹿なのかい?」

「はっきり言ってやんなよグレイス」


 グレイスがはんっ、と鼻で笑う。


「で、なんだい坊や」

「グレイスはラグナ使える?」

「ラグナだって?」

「うん、僕、ラグナ使いたいんだ。あ、えーと……」


 と言いながらトールを見る。


「トールだ。俺は使えねえ。グレイスもな」

「そうなんだ」


 その言葉を聞いてリオは彼らに興味を失った。



「ケンカ続けていいよ」

「は?」

「僕達があなた達のケンカを止めたみたいだったから」

「……くくくく、あはははははっっ!マジおもしれ!あんた、馬鹿なだけかもしれないけど、いい!いいじゃないか!」

「ん?」


 何がおかしいんだろうと首を傾げるリオ。


「気にしてなくていい。さっきのは喧嘩ってほどでもない。いつもの事だ」


 グレイスと口論していたトールが言った。


「そうなんだ」

「確かに大した事じゃないさ。この先の街に娼館があってね」

「グレイス!そういう話は……」

「まあまあ、男なら誰でも通る道、いや入る館だ」

「そんなことはありません!」


 サラの拒否をスルーしてグレイスは話を続ける。


「でだ、トールのレベルアップのために通うのを許可してやったのに全然効果なし!で、一体何を学んできたんだと文句を言ってたところだったのさ」

「そうなんだ」

「リオ、そんな話は聞かなくていいです」

「そうなんだ」

「お前、自分の意思とかないのな」


 トールがリオを呆れた顔で見ながら言った。



「さあ、もう行きましょう」

「わかった。じゃあ、僕達行くね」

「そうかい。今度一緒に冒険者しようぜ。色々教えてやるよ」

「ありが……」

「結構です」


 サラはリオの言葉を遮り、先を促す。

 街へと続く道を進むリオ達の後ろ姿をグレイスはしばらく見送った後、真なる牙も歩みを再開した。


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