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140話 第三の魔法

 リサヴィは乗合馬車が目的の街へ着くと、そこからは乗合馬車を使わず、徒歩でフルモロ大迷宮へ向かう事にした。

 まさか護衛に絡まれるとは思わず、当分乗る気にならなかったのだ。

 緩やかな山道を歩いていると前方から喧騒が聞こえた。


「なんだろう?」


 魔獣の咆哮が聞こえた。


「……ざっく。戦いが起きているな」


 サラとヴィヴィがリオを見た。

 リオは二人が自分の判断を待っているのだと気づいた。


「行こう」


 サラは「はい」と返事をし、ヴィヴィは無言で頷いた。

 近づくにつれサラは敵が何なのか察した。


(この感じ……まさか魔族?!)


「気をつけて!魔族かもしれません!」

「わかった」


 リオが返事をするが、その声に緊張はまったく感じられなかった。

 実際、リオは緊張していなかった。



 駆けつけると敵はサラの予想通り魔族であった。


「待ってください!」


 救援に向かおうとしたリオをサラが止める。


「どうしたの?」

「ざっく。手助けは必要なさそうだ」


 リオの問いに答えたのはヴィヴィだった。

 リオは相手が魔族と聞いて死闘が繰り広げられていると考えていた。

 だが、魔族と戦っているのは戦士一人で残りのパーティは戦闘に参加していなかった。


「なんでみんなで戦わないんだろう?」


 リオの呟きが聞こえたのだろう。パーティの魔術士がリオの顔を見て笑いなら言った。


「まあ、見てろよ。おーい、グエン!観客が心配してるぞ」


 その声に応え、グエンを呼ばれた戦士の顔に笑みがこぼれる。

 一方、魔族は怒り心頭であった。

 下等な人間相手に本気で戦っているにダメージを与えられないのだ。


「じゃあ、そろそろ決めるか」


 グエンがそうつぶやくと彼の手にした剣が突然、青白く発光し始めた。

 それを目にしサラは思わず叫んでいた。


「ラグナ!?」


 グエンは青白く発光した剣で魔族を斬りつける。

 さっきまで全く刃がたたなかったのがウソのように易々と魔族の体を斬り裂いた。

 魔族から絶叫が響く。


「すごい」


 リオは珍しく“本当の感情”を表に出した。


 間を置かず、グエンは更なる斬撃を魔族に放つと魔族はあっけなく消滅した。

 ガルザヘッサに化けた魔物と死闘を繰り広げた自分達が滑稽に思えるほどグエンはあっさり魔族を葬ってしまった。

 リオはサラが叫んだラグナについて尋ねる。


「ラグナって魔法?」

「そうとも言えますね。実際、“第三の魔法”とも呼ばれていますから』

「第三の魔法?」

「ざっく。第一の魔法は神官が使う神聖魔法、第二の魔法は私達、魔術士が使う詠唱魔法。そして第三の魔法がラグナだ。ラグナは神の力も呪文も必要とせず、自らの力のみで発動する」

「自らの力のみで……」


 その言葉はリオの心に強く響いた。

 ヴィヴィが更に補足する。


「ざっく。勇者になるために必要な力だ、という者もいるな」

「ええ」

「そうなんだ」



 魔族のプリミティブを回収したグエンのパーティがリオ達の元へやってきた。

 

「……ん?カルハンの魔装士か?」

「ざっく」


 グエンの言葉にヴィヴィはいつものように肯定も否定もしない。

 リオがパーティの一人をじっと見ていたのに気づいたサラ。


「リオ、どうかしましたか?」

「男の神官かな?」


 リオのさりげない一言にサラが敏感に反応する。


「ええ、そうですね。男だと何か問題がありますか?」

「ナックが旅する神官は女性しかいないって……」

「また彼ですか」


 呆れた顔でサラが答える。

 

「以前、あなたは私を男だと疑っていませんでしたか?」

「そうだった」


 サラはこめかみに指を当てる。

 

「いいですかリオ。ナックの言った事を信じてはいけません。全てが嘘とは言いませんが、彼には虚言癖が見られます」

「そうなんだ」


 そのやり取りを聞いていた神官が笑いながら答える。


「確かに女性が多いのは確かですね。有名な神官はすべて女性ですし。でもこの通り男性もいるのですよ」

「そうなんだ」


 男の神官は笑顔を絶やさず続ける。


「私は人々を救いたい。勇者は生まれつきの資格が必要だと思っています。でも神官は誰でもなれます。もちろん相性はあるのでしょうが、それでもある程度は努力でなんとかなります」

「そうなんだ」

「リオが失礼な事を言ってすみません」

「いえ、私は気にしていませんよ。ところで先ほどの話からすると、そのような姿をしていますがあなたも神官なのですか?」


 今のサラは神官服ではなく冒険者の格好をしているので知らない者が見たら神官とは思わないだろう。

 サラは神官に頷く。


「はい、サラといいます」

「私はミドです。よろしく」

「こちらこそ」

「あとそこのカルハンの魔装士。私はカルハン魔法王国に敵意はありませんよ。あれは異端審問機関が悪いと思っています」

「ざっく。いいのか?そんなことを言って。このサラが異端審問官だったらどうする?」


 その言葉にサラが心外とでも言うかのようにヴィヴィを睨む。


「ざっく」


 グエンが興味深そうにサラとヴィヴィを見比べる。


「しかし、妙な取り合わせだな。ジュアス教団の神官とカルハンの魔装士が一緒に行動しているとは。そこまで関係が改善したのか?」

「さあ、私は聞いたことありませんね」


 ミドがグエンの問いに首を振る。


「ざっく。私はカルハン製の魔装具を使っているが、カルハンの魔装士だと言った覚えはない」

「カルハンの者ではないのか?」

「ざっく」


 ヴィヴィは肯定とも否定とれない返事で答えを濁す。

 それにグエンのパーティの女盗賊が口を挟んだ


「グエン、グエン、あんまり人のプライベートに突っ込むんじゃないよ」

「おお、そうだな。済まないな」

「ざっく。気にしていない」

「ほんと悪いね!自己紹介がまだだったね。あたしはミスト、クラスは見ての通り盗賊よ」


 ミストは軽装で見るからに盗賊という感じだった。

 パーティ最後の一人、魔術士が挨拶をする。


「俺はノックノック。魔術士だ。誰も言わないから言うが、全員Bランクの冒険者でパーティ名は“ひらめき”」

「よろしくお願いします。先ほどから話していた魔装士がヴィヴィ、で、こちらの戦士がリオ。私達のパーティ“リサヴィ”のリーダーです。あと全員冒険者ランクはEです」


 グエンをはじめ“ひらめき”の面々が驚いた表情をする。


「へえ、お前がリーダーなのか。てっきりサラだと思ってたぜ」

「そうなんだ」

「リオにはもう少し、いえ、もっとリーダーとして自覚を持って欲しいのですが」

「そうなんだ」


 サラが深いため息をつき、ひらめきの面々に笑いが起きる。

 そんな中でリオがグエンに尋ねる。


「ねえ、グエン。僕にラグナを教えてくれないかな?」


 グエンは苦笑しながらリオを見た。


「いきなりだな」

「ダメかな?」

「ダメというか……説明するのは難しいんだ。どうやったら使えるようになるのか俺も知らない」

「そうなんだ」

「え?そうなんですか?」


 サラも思わず口を開く。

 表情だけで見ればリオよりサラの方が驚きが大きい。


「ああ。気づいたら使えていた。使えることができればその応用とかはアドバイスできるんだがな」

「そうなんだ」

「ざっく。グエン、私からもいいか」


 ヴィヴィがグエンに話しかけてきた。


「なんだ?」

「お前は気づいたら使えたと言った。では、どのような状況でラグナに目覚めたのだ?」

「魔装士のお前もラグナに興味があるのか?」

「ざっく。私はあらゆる物事に興味がある。ラグナもそのひとつだ」

「お前のその探究心、ノックノックより魔術士みたいだな」

「失礼だな、グエン」

「ははは、悪い悪い」

「まあ、その気持ちわかるぞ。魔法がダメだったからラグナを欲するんだな」


 魔装士は魔術士の落ちこぼれがなるもの、という思い込みからヴィヴィが魔法を使えないと勘違いしていた。

 それはひらめき全員が思っていた事で、ヴィヴィも否定しなかったのでその間違いが訂正される事はなかった。


「ざっく。それでどうなのだ?」

「まあ、別に隠すことじゃないから教えてやるよ……そう、あのときも今日と同じで魔族と戦っていた」

「え!?魔族ってそんなにいるのですか!?先ほどの魔族もどこから来たのか気になっていたのですが」

「さあ。どうなんだ?ミド」

「そうですね。最近多い気がしますね。私達は魔族を先ほどのを合わせて六体葬っていますが、そのうち四体はここ最近です」

「そうなんですか」

「そうっ、ちなみにさっきの魔族はここいらに珍しい魔物が出現してるってギルドに討伐依頼が来てたんだ」

「そうですか」

「ざっく。私はそんなことより続きが聞きたい」


 サラがムッとしてヴィヴィを睨む。


「そうだったな。ちょっと話が逸れたが、ともかく、最初に魔族と遭遇したとき、頭の中は絶望でいっぱいだった。だってよ、剣は当たるのに全くダメージを与えられないんだぜ!それでも俺は死にたくなかったから夢中で剣を振るった。そのときだった。俺はラグナに目覚め、気づいたら魔族は四散していた。剣も四散して全身傷だらけになったがな」

「……」

「今思えば絶望的な状況でも生にしがみつく。その生への渇望が秘めたる力を、ラグナを呼び覚ましたのかもしれないな」

「絶望……生への渇望……」


 リオがそう呟く。


「おお。つまりだ、剣は折れても心は折れなかったって事だ。って、今、俺かっこいいこと言ったよな?」


 グエンはリオ達にどこか誇らしげな顔で言った。

 それを見てミドが顔をウンザリした顔をする。


「そろそろ出る頃だと思いましたよ、そのセリフ。最初聞いたときは感動しましたが、今は正直ウザいですね」

「ひでぇ」


 ミドの言葉にグエンは胸を押さえるが、その顔は笑っていた。


「……剣は折れても心は折れない……」


 リオがボソリと呟くのに気づいてグエンが慌てて付け加える。


「おいおい、だからってな、俺のマネをして死んでも恨むなよ!」

「わかった。ありがとう、グエン」

「いや、大して役に立てなくて済まんな」

「ところで魔装士」

「ざっく?」

「魔装士がバインダーなしってどうなんだ?いや、戦いで失ったんだろうがよ」

「ざっく。途中でなんとかする」

「そうか。悪いな、余計な事だったな」

「ざっく」


 グエン達とは行き先が逆だったのでこの場で別れた。



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