14話 旅立ちの朝
次の日の朝。
サラは旅の装備を整えてリオ達ウィンドが泊まっている宿屋に向かった。
神殿を出る途中でカナリアが見送っているのに気づき小さく頭を下げた。
(ーーあなたと会うのはこれが最期になるかも知れないわね)
サラは待ち合わせより少し早く宿屋に着いた。
一階の酒場には朝っぱらから酒を飲んでいる者が少なからずいた。
入って来たサラの姿を見て驚いた表情を見せる冒険者が何人もいた。
(やっぱりムルトは目立つわね。早く街を出ないと落ち着かないわ)
サラは隅のテーブル席にぽつんと座っているリオを見つけた。
冒険者には見えず一人だけ浮いている。
「おはようございます、リオ」
「あ、サラ、おはよう」
サラは周囲を見渡しリオのパーティらしき人がいないのを不審に思った。
「リオ、パーティの方々はどちらに?」
「うん、実は昨日帰ってこなかったんだ」
「帰ってこなかった?」
「うん。困ったよね」
リオは言葉ではそう言ったもののサラにはリオが困っているようには見えなかった。
「心当たりはないのですか?」
「うん」
「冒険者ギルドには行きましたか?」
「冒険者ギルドに?」
リオは不思議そうな顔をする。
(……なんて事。リオは冒険者ギルドの事何も知らない?)
「冒険者ギルド同士は魔道具で情報交換ができるのです。依頼先近くの冒険者ギルドからこちらに何か連絡が来てるかもしれませんよ」
「そうなんだ。サラは物知りだね」
「……そんな事はありません」
私は何であなたが知らないのか不思議です、とサラは口に出かかった。
「もうここには戻って来ないかもしれませんが、出かける準備はできていますか?」
「うん」
「パーティの方々の荷物は?」
「出かけた時に全部持って行ったよ」
「そうですか。では行きましょう」
「うん」
二人は冒険者ギルドに向かった。
「ごめん。そういう事って僕が気づくべきだったんだよね」
「大丈夫です。私もちょうど冒険者ギルドには用事がありましたので」
「そうなんだ」
「はい。冒険者カードを受け取りに行く予定でした」
「サラも冒険者ギルドに入ったばかりなんだ?」
「はい」
二級神官になると希望者は試験免除で冒険者ギルドに入会できる。
サラはまだ冒険者ギルドに入会していなかったので、昨日、リオと別れてから冒険者ギルドの入会手続きをしたのだ。
昨日の今日で冒険者カード発行までしてもらえるのはナナルに一筆書いてもらった事が大きい。
冒険者ギルドには数組のパーティがいた。
サラの姿を見て彼女を知る者達は皆驚いた。
サラは気にすることなく受付に向かう。
朝早いからか、たまたまなのかサラにはわからないが受付には誰も並んでいなかった。
「すみません、冒険者カードを受け取りに来たのですが」
「あ、サラ様。はい、出来ております。少々お待ちください」
受付嬢は机の引き出しから冒険者カードの束を取り出し、中から一枚引き抜いた。
「こちらでお間違いありませんか」
サラは冒険者カードを受け取り内容を確認する。
「ーーはい。問題ありません」
サラは受付嬢が何か言いたそうにしているのに気づいた。
「何か?」
「……あの、サラ様は神官ですし、教団での魔物討伐の実績がございますので申請していただければ、Dランク、いえもっと上からでもスタート出来るはずです!今からでも申請しませんか?」
受付嬢はサラの実力を知っていたため、最低ランクのFからのスタートは失礼だと思ったようだ
サラは受付嬢の申し出に首を小さく横に振る。
「このままで大丈夫です」
受付嬢は納得いかないというような顔を一瞬した。
冒険者にとってランクが全てと言っていい。
ランクが高いほどギルドでの待遇はよくなり、当然報酬も高くなる。発見されたばかりのダンジョンの探索も優先的に受けることが出来るようになる。
故に冒険者ランクが上がることを断るのは珍しいことで、断るにしてもその理由はまだそのランクには早いと慎重になるものがほとんどだった。
だが、サラは既に教団で十分実績を積んでおり、その理由だとは思えなかったのだろう。
サラが断った理由はリオがFランクだったからだ。
稀にではあるが、緊急クエストが発生すると、パーティに関係なくランクにより召集されることがある。もちろん断ることも可能だが、納得できる理由であってもギルド、冒険者ともにいい印象を与えない。
受付嬢はすぐに営業スマイルに戻り、それ以上勧めることはしなかった。
「ところでウィンドから何か連絡は入っていませんか?」
「サラ様にですか?」
「あ、いえ、私ではなくーーリオ!」
サラは依頼掲示板をボーと眺めていたリオを呼ぶ。
「ん?どうしたのサラ」
「どうしたの、ではありません。あなたは自分がここに何し来たのか忘れたのですか?」
「ああ、そうか」
リオはサラと入れ代わり受付嬢に話しかける。
「僕、リオと言います。べルフィから何か連絡来ていませんか?」
「リオさんですか。ーー冒険者カードはお持ちですか?」
「はい」
リオは冒険者カードを受付嬢に見せる。
「ーーはい。少々お待ちください」
そう言って、一旦奥へ消え、すぐに戻ってきた。
「お待たせ致しました。こちらを預かっております」
受付嬢は一枚の紙をリオに手渡す。
「ありがとう」
それはべルフィからのリオへの伝言だった。
『ムルトにはしばらく戻らない。来る気があるならヴァーシュの街の冒険者ギルドまで来い』
であった。
リオはその紙をサラに見せる。
リオはヴァーシュの街に一度行ったことがあるが本人は覚えていなかった。
何も考えずベルフィ達の後について来ただけだからである。
「ーーいつまでヴァーシュの街にいるかは書かれていませんね」
(本当に待っているか怪しいものだわ。もしかしてリオはパーティに見限られたのではないしら?)
それならそれでもいいか、とサラは思う。
「サラはどうしたらいいと思う?」
「リオはどうしたいのですか?」
「うーん……べルフィ達がいつ戻ってくるかわからないからその街に行きたいかな」
「寂しいですか?」
「ん?違うよ。お金があまり残ってないんだ」
リオが感情ではなく現実的な理由を言った事にサラはちょっと驚いた。それが本当なのかその表情からは読み取れない。
「なるほど、わかりました。ではヴァーシュの街へ向かいましょう」
「サラもそれでいいの?」
「ええ。私も早く任務を遂行しなければなりませんので」
「じゃあ、行こう」
「はい」
サラはギルドを出るとき、ある事に気付いた。
それはヴァーシュの街へ向かう事をベリフィ達に伝える事である。
本来であればその事をリオに伝えるべきであったが結局言わなかった。
リオが気づくべき事であり、伝えたとしてもギルドに伝言を依頼するのはタダではなく、手持ちが少ないと言っていたリオは支払えない可能性が高い。
そしてこれが一番の理由であるが、サラ自身はどうしてもウィンドに合流したいと思っているわけではなかったのである。
(……合流できなければユーフィ様のところへ向かう口実にもなるし)
サラはコートのポケットのひとつから折りたたんだ紙を取り出した。
「サラ、それは?」
「地図です。神官長から譲っていただいたものです。古いものですから新しい道や街などはわかりませんが、これでも十分役に立つでしょう」
「それは助かるね」
「ここからですと東の聖道を通ってフェムの村を経由して行くのが安全そうですね」
「そうなんだ」
リオがべルフィ達とどうやって合流するかまったく考えていないことにサラは呆れた。
(……本当にあの夢は未来予知だったのかしら?それともあの魔王はリオではなかったのかしら?)
最初の決意とは裏腹にリオと接すれば接するほど魔王どころか勇者になるとも思えなくなるのだった。




