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139話 突発的な護衛

 乗合馬車の護衛依頼の件だが、サラは最初断るつもりだった。

 だが、隊長に、

 

「日程を考えると護衛募集に費やす時間を作るのが難しいんです!」

 

 と泣きつかれた。

 護衛を引き受けた場合、今回の運賃は返金される上、護衛報酬も支払うと言われたがサラ達は金に困っていないので全く魅力を感じない。


「ですが、私達は全員Eランクですよ」


 と、サラは抵抗を試みるが、


「あなた方はランク以上の強さを持っています。それにあなたのような強い力を持つ神官がいますと道中心強いです!」


 と、隊長は引き下がらなかった。

 サラは困った事があれば助ける気でいたが、隊長は乗客に治療させるのは気が進まなかった。

 以前、事故が起きた時に客として乗り込んでいた神官に助けを求めたら法外な額をふっかけられた事があったからだ。

 今回、護衛に神官がいなかったこともあり必死であった。


「強力だなんて、私の力は普通ですよ」


 サラは極力力を抑えてチンピラ付きパーティの傷を治したのだが、それでも強力と言われて複雑な心境になる。

 お世辞だと思いたいが、隊長の表情を見る限り本心から言っているように見えた。


(第二神殿の神官であれば平均的な力だと思うけど他の神殿の神官はそんなに力がないのかしら?)


 サラの未来予知を信じるなら、近い将来、魔族襲来があるのだ。

 神官の力の底上げが必要なのではと二級神官ながらに心配になる。


(他の人もナナル様の特訓を……いや、無理ね)


 サラはナナルとの特訓を思い出し、身を震わせる。

 サラは特訓の途中で何度も死にかけたのだ。

 

(あんな特訓を行えば一体何人生き残れることか)


「あの、」


 隊長に控えめに声をかけられサラは現実に戻された。

 

「あ、すみません、リオ」


 サラはぼーとしているリオに声をかける。


「ん?」

「どうしますか?」

「あの、」


 隊長が不安気な顔でサラを見る。

 その顔を見て隊長が言いたい事がわかった。


「リオが私達パーティのリーダーです」

「あ、ああ。そうなのですね……」


 隊長はサラがパーティのリーダーだと思い込んでいたようだった。

 だが、そう思うのは当然であろう。

 交渉はすべてサラが対応していたからだ。

 サラは改めてリオに確認をとる。


「リオ、護衛を引き受けますか?」

「いいよ」


 リオの何も考えていないような軽い一言でリサヴィは護衛を引き受けることになったのだった。



「なんかボロくなったね」


 乗客から護衛に降格?したリサヴィは護衛用馬車に移り、リオが車内を見回して正直な感想を口にする。


「乗客用ではないですからね。でも、それほど悪くもないでしょう」

「ざっく。お前の固い尻ならどんな椅子に座っても問題ないだろうな」

「なんですって!?」


 サラがヴィヴィを睨みつける。


「こうなった原因はあなたがやり過ぎたからなんですよ!少しは反省していますか!?」

「ざっく。だからこうやって神妙な顔をしているだろう」


 そう言ったヴィヴィの顔は仮面で見えない。

 更にくいっと少し顎をあげ、発した言葉に反してどこか誇らしげに見えた。


「態度を見る限り全くそうは見えません。本当にそう思っているなら仮面を取って見せなさい」

「ざっく。そんなに私の顔が見たいか?

「ええ。あなたが神妙な顔をするなんて今までに一度もないことですからね!」

「ざっく。だが断る」

「……」

「ヴィヴィは恥ずかしがり屋だからね」


 空気を読めない事には定評のあるリオがそう言うとヴィヴィは頷きながら今度はこちらのターンとばかりにサラに反撃を開始する。


「ざっく。大体、いつも問題を起こしているお前に言われたくはない」

「なっ!?私は巻き込まれているんです!」

「ざっく。私もだが?」

「くっ……」


 サラは言い返せず、唇を噛み締めた。


(これも全部あのストーカーのせいよ!!)


 サラは頭の中で「呼んだか?」とニヤけ顔でやって来る大男をボッコボコにするのだった。



 護衛だが、チンピラ付きパーティの他にもうひと組雇われており、キャンプの時は交代で護衛を行っていた。

 彼らはチンピラ付きパーティがヴィヴィ一人にボコられるのを見ていた。

 そして姿から戦士だと思っていたサラが実は神官で、彼らを治療するのをその目で見ていた。

 だから、Eランクのリサヴィが護衛を引き受ける事になっても文句を言わなかった。

 リオ達の会話がひと段落したのを見て、そのパーティのリーダーがヴィヴィに声をかけてきた。


「ヴィヴィだったか。奴らをボコったの、ありゃ魔法か?魔装士みたいな格好しているが、実は魔術士なのか?」


 リーダーの問いにヴィヴィは無言で、顔を向けることすらしなかった。

 リーダーは先ほどのサラ達の話を盗み聞きして、いや、しなくても聞こえていたが、ヴィヴィが気難しい性格だとわかっていたので、深く追求する事はぜず、肩をすくめるとサラに顔を向ける。

 その頬が自然と赤く染まる。

 サラは彼らに挨拶をする際にフードを脱いで素顔を見せていたからだ。


「あ、あんた、サラだったよな?」


 ヴィヴィの時とは打って変わり、リーダーは緊張した表情を見せる。

 彼らはCランクの冒険者で今までに“いろいろ”経験を積んでいるが、それでもサラほどの美人に会うことは滅多にない。

 それも冒険者の、となれば尚更であった。


「はい」

「神官だろ。なんでそんな格好……はまあ、いいとしてEランクなんだ?神官ならDランクから始められただろう?クラスは戦士で登録しているのか?」


 サラが答えるよりヴィヴィが先だった。


「ざっく。ショタコンだからだ」

「ヴィヴィ!」


 リーダーは先ほど無視された相手が会話に入ってきた事に少し驚きながら、リオを見る。


「ああ。そいつにランクを合わせたのか」


 とリーダーがヴィヴィの説明で納得してしまった。

 もちろん、サラは納得出来ず、抗議の声を上げようとした。


「あのっ」


 サラが否定する前に他のメンバーが会話に入ってきた。


「でもよ、そいつショタって歳じゃないだろ」


 その男がリオを観察しながら言った。


「そ、そうでしょ、だから私は……」

「見た目で判断するなよ。これでも十二歳くらいかもしれんだろう」


 彼らはサラがショタコンである事を事実であるかのように話を進める。

 サラは何故かあっさりショタコンである事が受け入れられて焦る。


「ですから……」

「じゃあよ、精神がショタなんじゃないか」


 クラスが盗賊の男が笑いながら言った。


「は?精神がショタ?」


 サラが一瞬、?顔をした後、彼が知能遅れや考え方が幼いという意味で言っているのだと気づく。


「失礼ですね」

「あ、ああ、悪い悪い!」


 盗賊が謝った相手はリオではなく、不機嫌な顔をしたサラである。


「悪い意味じゃねえんだ!気分悪くしたら謝るぜ!」


 サラには悪い意味以外思いつかなかったが、すでに一組のパーティを間接的にとはいえ解雇に関係した手前、これ以上の揉め事はごめんと深く追求しなかったが、釘を刺すのを忘れない。


「どちらにしろ、その言い方はよくないと思いますので気をつけてください」

「あ、ああ。わかったっ」


 盗賊にリーダーを含め他のメンバーも「余計な事言いやがって」と睨みつける。

 彼らのパーティは戦士三人、盗賊一人と神官と魔術士がおらず、偏っており、回復役を欲していた。

 だから、サラやヴィヴィをパーティへ引き込めないかという下心があったのだが、盗賊の失言でパーティ勧誘は実行される事なく失敗に終わった。

 もっとも誘ったとしても断られるという結果は変わらないのだが。


 なお、悪口を言われたリオは自分の事だと思わなかったのか、全く無反応であった。


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