138話 八つ当たりの代償
「皆さーん、お食事の準備が整いましたよ〜!」
この乗合馬車の隊長の声を聞き、サラ達は食事に向かった。
料理は美味い方ではあったが、正直に言えばリオの方が上だとサラは思った。
もちろん、そんな事を言ったりはしない。
「いいご身分だな」
背後から声が聞こえ、振り返ると護衛の一人が立っていた。
その護衛は冒険者という職業に飽きていた。
毎日が変わらぬ同じ事の繰り返しに当初抱いていた夢はとうの昔に消え去っていた。
そんな中、自分より明らかにランクが下と思える冒険者が乗客として乗り込んでいる。
コイツらは俺らと違って成功したんだ、そう思うと面白くなかった。
難癖つけずにはいられなかった。
「何か?」
サラがその護衛の態度にムッとしながらも用件を尋ねる。
「お前ら冒険者だろ?」
「それが何か?」
「冒険者が乗客として乗り込むなんてよ、なんか当てたか?」
「冒険者だって乗客として乗る事もあるでしょう」
「ちっ……おいっ」
その護衛がリオを小突いた。
「ん?」
「お前、ランクは?」
「Eだよ」
「はっ、Eだとお!?」
その護衛が大袈裟に驚いたふりをする。
「俺はてっきりFだと思ってたぜ!」
リオには貫禄が全くない、オーラもなかった。
ともかく、どこから見ても強そうには見えなかった。
それゆえ、良くてもEランク冒険者としか見られない。
いや、実際にリオはEランク冒険者なのだが、その腕は既にBランクに匹敵するなど誰も夢にも思わないのだった。
「そうなんだ」
リオはいつものように感情のこもってない返事をし、食事に戻ろうとしたが、その護衛がリオのスープ皿を蹴り上げた。
「舐めてんじゃねえぞ!」
「ん?」
リオが首を傾げる。
どれもリオのいつもの行動なのだが、リオの事を知らない者はなめられた、バカにされたと思い込む。
この護衛もそうであった。
自分から絡んで来て迷惑な奴であった。
「おいっ!やめろ!」
その男の行動に気づき、その冒険者と同じパーティのリーダーらしき男が止めに入る。
「コイツが悪いんだぜ!俺達を馬鹿にしやがって!」
「絡んで来たのはあなたの方です」
サラがキッパリいうとその護衛は顔を真っ赤にして睨んで来た。
「てめえ……」
「やめろっ!相手が誰であろうと客だぞ!」
その言い方だと私達が悪いように聞こえるわね、とサラは内心思ったが、これ以上絡まれたくないので黙っていた。
その護衛はリーダーらしき者に諭されて離れていった。
結局、彼らから謝罪はなかった。
だが、それで終わりではなかった。
今度はその様子を離れたところから見ていたヴィヴィにその護衛が絡みにやって来たのだ。
「おい、棺桶持ち!お前もあいつらと同じパーティか?」
「……」
「棺桶持ちがよ、棺桶持ってねえでどんな仕事が出来るんだ?ああ?」
「……」
ヴィヴィが叫き続けるその護衛を無視していると、その護衛は切れた。
「てめえ、聞こえてんだろう!」
その護衛がヴィヴィに蹴りを入れた。
瞬間、悲鳴が上がる。
それは蹴った護衛の方からだった。
見れば蹴った足がおかしな方向に曲がっていた。
「おいっ、どうしたっ!?」
「い、痛え!あ、足がっ!俺の足が!」
「お前、何をやった!?」
パーティのリーダーらしき男がヴィヴィを睨みつける。
「ざっく。お前がそのチンピラのパーティのリーダーか?」
「な、何だとっ!?」
「ざっく。チンピラの躾けくらいきちんとしておけ」
「き、貴様……」
「ざっく、次は殺すぞ」
「ひっ……」
ヴィヴィの仮面の上から放たれた殺気に当てられ、リーダーは尻もちをついた。
足を骨折したチンピラ冒険者は恐ろしさのあまり、失禁した。
「ざっく。汚ない奴だ」
これで話は終わらない。
彼らは一旦は引き下がったものの、リオ達のパーティが金を持っていると見て、図々しくもヴィヴィに法外な治療費を請求してきたのだ。
もちろん、ヴィヴィが言いなりになるはずもなく、逆に彼らの態度の悪さを指摘し、迷惑料を請求した。
その争いに隊長が遅まきながらも気づいた。
彼らの横暴さに腹を立てていた乗客は他にもおり、リオやヴィヴィが彼らに絡まれていたのも見ていたので、彼らの証言もあってヴィヴィ達は責任を問われる事はなかった。
だが、その判定に納得せず、いつまでもグチグチと絡んでくるチンピラにヴィヴィがキレた。
ヴィヴィはチンピラを放置したのはパーティ責任としてパーティメンバー全員に土下座の謝罪を要求した。
ヴィヴィ達と関わっていない、完全なとばっちりを受けた他のメンバーが反抗の意思を示すと、ヴィヴィは容赦なくその者達の足をへし折り、立てなくした。
ヴィヴィは魔法で身体強化をしていたのか、軽く蹴ったように見えたが、蹴られた足は簡単にポッキリと折れた。
ヒイヒイ泣くのも聞き流し、彼ら全員に土下座謝罪をさせたのだった。
彼らはヴィヴィに恐怖を抱き、最弱クラスと言われる魔装士に屈した事で完全に自信を喪失した。
以降、その護衛達はリオ達に絡んで来ることはなかったが、肝心の護衛も出来なくなり途中で解雇された。
その結果、何故かリサヴィが護衛役を引き受ける羽目になってしまった。
ちなみに彼らの骨折の治療はサラがしたが、痛みを和らげる事はしなかった。
魔力の節約ではなく、不良パーティにそのような優しさは不要と判断したからだ。
後日談。
彼らはヴィヴィに絡んだチンピラを吊し上げた挙句にパーティから追放した。
だが、それだけではとばっちりでヴィヴィに足を折られた者達は納得せず、リーダーに彼を野放しにしていた責任を問い、結果、パーティは解散することとなった。
そしてしばらくして彼ら全員が冒険者を引退した。
思えば、これがリサヴィが死神パーティ、と呼ばれる始まりの出来事だったのかもしれない。




