136話 遠くへ行こう
話は少し戻る。
サラ達はカリスが川に流されて行くの見送り、反対側の山道に着地した。
「ざっく。強敵ストーカーカリスから逃れたサラ。しかし、ほっとする間もなく、第二、第三のストーカーが現れるのだった」
「ヴィヴィ!変なナレーション入れるのやめなさい!本当になりそうでしょ!」
ヴィヴィはぷいと顔を背ける。
「ったく」
「ざっく。真面目な話、カリスはあれで死んだと思うか?」
「どうだろう?」
「やめて!私は考えない事にしてるんですから!」
「そうなんだ」
「ともかくっ、カリスは下流へ流されましたので私達は上流へ向かいましょう。そして近くの街で乗合馬車にでも乗って遠くへ移動しましょう」
「遠くって何処?」
「ざっく。奴が生きている事を想定して、奴が想像出来ないところがいいだろうな」
「そうですね。そうするとリオの村は避けた方がいいかもしれませんが」
「そうなんだ」
「とはいえ、リオも早くお父さんに報告したいでしょうし……」
「ざっく。リオの村はどの辺りにあるのだ?」
「どこだろう?」
リオは他人事のように言った。
「「……」」
サラが頭を押さえながらリオに確認する。
「……もしかして自分の村がどこにあるのか知らないのですか?」
「ざっく。どこの国の、なんという名の村だ?」
サラとヴィヴィに尋ねられてリオは首を傾げる。
「サラ、知らない?」
「……何故、私が知ってると思うのですか?私はリオの村に行った事ないですよ」
「ざっく。私もな。ちなみにサラが知っていたとしても辿り着かんぞ。方向音痴だからな」
「そうだった」
「し、失礼ですね!場所がわかれば辿り着けます!」
だが、サラの言葉を二人はスルー。
「ざっく。ベルフィ達に確認しておくべきだったな」
「そうだね」
「でも今すぐでなくていいのでしたら、ギルドを通してベルフィかナックに場所を聞いて、折を見て向かうのはどうですか?」
「そうだね」
「ざっく。お前はそれでいいのか?父親の墓前に敵討ちをした事を早く報告したいのではないのか?」
「どうだろう?」
「『どうだろう』ってあなたのことですよ?」
「じゃあ、今すぐじゃなくていいよ。父さんはもう死んでるんだ。急いでも生き返るわけでもないし」
「「……」」
確かにリオの言う通りではあるが、あまりに冷た過ぎないかとサラは思ったが、本人がそれでいいと言うのだからそれ以上問う事はしなかった。
「では、ベルダに行きませんか?」
「ベルダ?」
「六英雄の一人ユーフィ様がいらっしゃいます」
「ざっく。それはお前の任務か?」
「任務ではありません。私が個人的に会ってみたいのです」
「ざっく。却下だな」
「何ですって?」
「ざっく。任務であろうとなかろうとお前のために行くなどまっぴらゴメンだ」
「……」
二人が険悪な雰囲気になる中でリオが呟いた。
「僕はフルモロ大迷宮に行きたいな」
「そういえば以前にもそんな事言ってましたね」
カリスがサイファのラビリンスへリオを行かせまいと嘘をついた時の事を思い出す。
ラビリンスへ行く代案としてリオが示したのがフルモロ大迷宮であった。
「ざっく。何故行きたいのだ?」
「ナックが言ってたんだ。フルモロには一度は行くべきだ、って」
二人はフルモロ大迷宮の事を知っていたが、ナックが好きそうないかがわしい場所ではない。
二人はナックの真意を読み取れなかったが反対する理由もない。
「私は構いません。私も行ってみたいと思っていた場所の一つです」
「ざっく。私も構わん。ここから結構距離もあるし、ストーカーを撒くのにも丁度いいだろう」
「そういえばヴィヴィ、魔装具はいいの?」
ヴィヴィは金色のガルザヘッサとの戦いで仮面とリムーバルバインダーを失った。
今、つけている仮面は以前に冒険者の街ヴェインで購入したものだ。
外見は以前のものに似ているが、所々異なっている。
仮面の予備はあっても肝心のコントロールするリムーバルバインダーがない。
魔装士としてはなんとも頼りない姿だ。
リムーバルバインダーを揃えるにしても魔装具は扱う店は少なく、大きな街でなければ入手は困難であろう。
もし、ヴィヴィが普通の魔装士であったら、何がなんでも魔装具の入手を優先した事だろう。
しかし、ヴィヴィは普通の魔装士ではなかった。
魔術士としても優秀である事を金色のガルザヘッサとの戦いで証明している。
「ざっく。構わん。あるに越した事はないがなくてもなんとかなる。途中で手に入るかもしれんしな」
「そうなんだ。じゃあ、フルモロに行こう」
「はい」
「ざっく」
サラはとても気分がよかった。
理由は言うまでもなくストーカーカリスと別れたからだ。
ホッとしたためか、魔装士として役に立たないにも関わらず、頑なに仮面をつけて顔を隠すヴィヴィにサラがちょっかいをかける。
「ヴィヴィ、当分の間は魔術士として活動するんですよね。わざわざ仮面をつける必要はないのではないですか?それとも顔を見せたくない理由があるんですか?例えば指名手配されているとか」
「……」
「聞こえませんでしたか?その仮面、壊れてるんじゃないですか?」
「……ざっく。うるさい奴だな。私はお前と違って目立ちがり屋ではない」
「失礼ですね。私も違います」
「ざっく。考えてもみろ。お前ごときでもギャーギャー騒がれるのだぞ。私が素顔を晒せばどんな騒ぎになるか容易に想像がつくだろう」
「そうなんだ」
「それはそれでとても興味深いわね。ぜひ、その騒がれるところを見てみたいわね。自意識過剰でなければいいですけどね!」
「そうなんだ」
「「……」」
リオの感情のこもっていない相槌を受けて、二人は口論する気が削がれた。
二人が沈黙するとリオが、「あれっ?」と声を上げた。
「そういえばヴィヴィ、口癖が違うよ」
「ざっく。そのようだな」
「今更ですか……」
「ん?」
「いいです。ヴィヴィ、それ、本当にわざと言ってるんじゃないんでしょうね?」
「ざっく。私はそんな暇人ではない。お前と違ってな」
「一言多いわね!」
「ざっく。お前は一言どころではないがな」
「……」
二人が睨み合う中、空気を読まないことには定評のあるリオがなにか重大な事を思い出したかのように再び「あっ」と声を上げた。
「ヴィヴィ」
「ざっく?」
「お金」
「……ざっくざっく」
「バッチリだね」
そう言ったリオの表情は特に変化はなかったが、どこか誇らしげに見えた。
「……何やってるんですか」
サラは疲れがどっと出た。




