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134話 悪あがき その2

 ウィンドは街に着くと冒険者ギルドに金色のガルザヘッサを討伐した事を告げ、その証拠に金色のガルザヘッサが落としたプリミティブを提出した。

 そのプリミティブが魔道具“鑑定くん”で上級魔族との判定が出て大騒ぎになった。

 プリミティブはすぐに換金される事になったが、金色のガルザヘッサの報奨金については事実確認のためもうしばらくかかるとの事だった。

 ローズが喜びの声を上げる。


「すごいよ!あのプリミティブだけでも相当の金が入るよ!」

「おう、これでまたお姉ちゃんと豪遊するぜ!」

「……あんたって奴はブレないねえ」

「なあ、賞金について相談があるんだが」


 皆の冷たい視線がカリスに向けられる。


「……なんだいっ?もしかしていらないって言うのかいっ?」

「そんなわけないだろ。逆だ逆」

「逆?」

「おうっ。ほら、リオとヴィヴィにはやる必要がないと思うんだ。だからその分を俺にくれないか?」

「「「……」」」


 またもカリスが妄想話を始めたとわかり、皆に怒りが込み上げて来る。


「なんでお前に渡すんだ?」

「そりゃ、活躍した奴が多めに貰うのは当然だろう」


 カリスは上から目線で言ってきた。


「カリス、お前、何やったんだっけ?」


 ナックが怒りを必死に押さえ、冷めた目をカリスに向けて問う。


「おいおい冗談はよせよ」

「それはこっちのセリフだ。金色のガルザヘッサを倒したのはベルフィ、リオ、サラちゃん、ヴィヴィちゃんだ。お前は何もしてない。いや、サラちゃんの邪魔をして俺達を危険に晒したな」

「な……」


 ナックの後をベルフィが続ける。


「お前はさっきヴィヴィを外したが、ヴィヴィの魔法と魔法の武器がなければ厳しかった。先の戦いで一番の活躍をしたと言っていい。それに魔装具もほぼ一式ダメになった。ヴィヴィの報酬を上げるなら理解できるが、何の役にも立たなかったお前の報酬を上げる理由はどこを探しても見つからん。ナックの言う通り下げる理由ならいくらでもあるがな」

「ふざけんなよ!」

「じゃあ、どう活躍したのか言ってみなよっ!」

「ローズ!てめえ!お前何もやってねえくせに!」

「ああ、そうさっ。だから報酬の分担には口を出してないだろうっ」

「カリス、早く報酬を上げる理由を教えてくれ」

「俺が金色のガルザヘッサに倒し……」

「「「倒してない」」」

「なっ!?お前ら、人の活躍を奪う気か!?」

「その言葉そっくりそのままお返しするぜ!」

「お前は金色のガルザヘッサと一度も剣を交えてすらいない」

「なんだと!?この盗人野郎どもが!!」


 その言葉にベルフィ達は頭にきた。


「わかった。そこまで言うならギルドに調停を頼むか」


 報酬の分担で揉めた場合、ギルドに調停を求めることができ、ギルドの決定は絶対で異論を唱える事はできない。

 ただ、その時の状況や各自の聞き取りを詳細に行うため判定が下るまで時間がかかり、その間、報酬はギルド預かりとなる。


「そうだな」

「それがいいねっ。そうすりゃカリスの分もあたいらに回ってくるよっ!」


 ベルフィの言葉にナックとローズが同意する。


「お前ら、グルになる気だな!だが、サラが黙っちゃいないぞ!」


 カリスが自信満々にそう言うが、誰にもその脅しは効果がなかった。


「だといいな」


 ナックが冷めた目で言った。


「カリスも調停に異論はないということだな。では、ギルドに申し込んで来るとするか」


 カリスはベルフィ達の自信満々な態度に焦り出す。


「ちょ、ちょ待てよっ」


 カリスがベルフィの前に回り込む。


「なんだ?」

「いやっ、そのよっ……」

「ベルフィ、その前にまずカリスの脱退手続きしてしまおうぜ」

「そうだよっ。もうこんな奴、顔も見たくないよっ」

「な……」

「ああ、そうだったな」

「ちょ、ちょ待てよ!なんだよそれ!?聞いてねえぞ!」

「はあ?」

「お前が言い出した事だ。脱退すると」

「しかも二回もねっ。いやっ三回だったかいっ?まあともかく何度もねっ!」


 カリスはやっと状況が不利だと悟る。


「わ、わかった!報酬は均等でいいぜ。その代わり……」

「その代わりなどない!!」


 ベルフィに怒声にカリスが怯み、卑屈な笑みを向ける。


「さ、最後まで聞いてくれって。なっ?分配は均等でいい。だが、サラの分は俺が預かっておくぜ。それならいいだろう?」


 もちろん誰もその提案を受け入れたりしない。


「何がいいんだかサッパリだ」

「ああ。リサヴィの分は各自のギルド口座に直接振り込む」

「ちょ、ちょ待てよ!サラは俺が助けに来るのを待ってんだ!」

「あんたの妄想だよっ!」

「仮にお前の妄想が事実だとしてもだ、お前に渡す理由がわからん。ギルドに預けた方がすぐに使える」

「サラを探すのには金が必要だ!」


 ナックは怒りを抑え切れず、怒気のはらんだ声でカリスに尋ねる。

 

「お前、自分はサラちゃんの勇者だから見つけることができる、みたいなこと言ってなかったか?」

「おうっ。そうだがよっ、人も使ったほうが早いと思うんだ」

「それでサラちゃんの金をどうする気だ?」

「サラを探すために使うに決まってるだろ。それならサラも文句は言わないだろう」


 カリスの自信満々に答えを聞き、ナックが切れた。


「何がサラちゃんのためだ!お前のためだろう!ストーカーに自分の金渡して自分を探させるバカが何処にいる!?」

「だ、誰がストー……」

「もう黙れカリス!!!」


 ベルフィの一喝で、カリスがビクッとして言葉を飲み込む。


「お前、本当にどうしようもない奴に成り下がったな!」

「ベルフィ、さっさと脱退手続きしてきなよっ」

「ああ」


 カリスが慌てて再びベルフィの前に回り込む。


「ちょ、ちょ待てよ!わ、わかったぜベルフィ、もう文句言わねえ!だから脱退は待ってくれ!なっ?」

「「「……」」」


 カリスが卑屈で情けない、擦り寄るような笑顔をベルフィに向ける。

 その姿を見てベルフィは悲しくなった。

 昔のお前は本当にどこに行ったのか、と。


「……何故そんなにウィンドにいたがる?俺達はサラ探しの手伝いなどしないぞ。お前一人になったほうが自由に行動できるだろう」

「そ、それはそうだけどよっ。その、なあ、わかるだろう?」

「「「……」」」


 カリスがウィンドに残りたい理由、それはサラ、あるいはリサヴィの誰かから連絡が来る可能性があるからだろう。

 仮に連絡があったとしてもベルフィ達はカリスに教える気など全くない。

 だが、


「……わかった」


 ベルフィはカリスの残留を認めた。


「サンキュ!ベルフィ!」

「ちょっとベルフィ!」

「おいっ!本当にいいのか!?」


 カリスとは対照的にローズとナックが不満を口にする。


「慌てるな。無条件じゃない」

「なに?」


 今度はカリスが図々しくも不満顔を見せる。


「脱退させるかの最終判断はヴェインに戻るまでの間のお前の態度を見て決める」

「甘すぎだよっ」


 すぐさまローズが文句を言う。


「おいおい、ベルフィ。俺はそんなに信用ないか?」


 カリスの笑っての問いかけにベルフィは真面目な顔で、

 

「ああ、まったくないな」


 とハッキリ言うとカリスの笑顔が固まった。



 この後、ベルフィは納得できないと詰め寄る二人にこっそりと真意を語った。


「今のカリスは全く信用できない」

「だったら……」


 ベルフィがローズの言葉を手で制する。


「最後まで聞け。今、奴を野放しにすると何をするかわからん」

「……ああ、そういうことか」

「なんだいっ?」

「ほら、カリスの奴、サラちゃん達の報酬を奪おうとするくらい見境がないんだぞ。ここで切って、奴が先にヴェインに着いてみろ」

「……ああっ、家に置いてあるあたいらの持ち物にも手を出すかもって事だねっ?」


 ベルフィが頷く。

 

「そういうことだ」

「了解だ」

「わかったよっ、ベルフィ」

「だが、ほんの少しだが、昔のカリスに戻ってほしいという気持ちもある」

「そうだな」

「……まっ、あたいはもう諦めたけどねっ」


 第二部完です。


 第三部は死神パーティ編となります。

 ストーカーの魔の手から逃れたサラですが、ある事件がキッカケで“鉄拳制裁のサラ”の名が広まり、冒険者達によるサラ争奪戦が起こります。

 サラはただリオが魔王になるのを阻止したいだけなのに、次々と絡んでくる図々しいパーティに悩まされ、そのパーティは勝手にザマァされていきます。

 それがいつの間にかリサヴィに関わると不幸になると、“死神パーティ”の二つ名を与えられる事になり……という話になる予定です。


 また、リサヴィに待望の?新メンバーが加わる予定です。


 これからもよろしくお願いします。 

 また、よろしければブックマークと評価もお願いします。


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