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133話 悪あがき その1

 日が暮れ、ベルフィ達が街道脇でキャンプしていると、近づいてくる者がいた。

 最初に気づいたのはローズだった。


「誰か来る……って、カリス!?」

「何!?」


 そう、それは渓谷に向かってジャンプし、川に落ちて流されていったカリスだった。


「……カリス、お前、不死身か」


 それがナックをはじめ皆が思った正直な感想だった。


 カリスがナックに威勢よく答える。


「ったりめえだ!リオの野郎に不覚をとったがよ、この俺が崖から突き落とされたくらいで死ぬかよ!」

「いや、普通は死ぬぞ。てか、落とされたってなんだ?お前、自分で死のダイブかましただろ。リオの方がお前に突き落とされたんだろうが」

「はははっ。面白くねえぞナック」

「だろうな。冗談言ってねえし」


「笑ってんじゃんっ」というローズの呟きをよそにカリスに怒りの表情が現れる。


「確かに俺もよ、リオ如きにしてやられたのは我慢できねえぜ!」

「「「……」」」


 ベルフィ達はまたもカリスが妄想で現実を上書きしたのだと悟る。


「ともかくだっ。岸に上がってやっとここまで来たんだが、流石の俺も限界だぜ。何はともあれまずは腹ごしらえだな」


 カリスはそう言い、リッキーの串焼きを許可なく取ると喰らいついた。


「ちょっと何勝手に食ってんだいっ!」


 カリスはローズの言葉を聞き流し、「はふはふ」言いながら味に文句をつける。


「味付けがイマイチだな」

「ふざけんじゃないよっ!」


 調理したローズが顔を真っ赤にしてカリスを怒鳴る。

 しかし、カリスは気にしない。

 

「やっぱサラの料理が一番だな!」

「「「……は?」」」


 サラのクソ不味い料理、実際にはリオがコピーして作ったものだが、を思い出し首を傾げる。

 あの料理に一番文句を言っていたのはカリスだったはずだ。


「なんだなんだその顔は?キャンプするときはいつもサラの手料理食ってただろう。美味かったよなあ」


 その言葉を聞いて、カリスの妄想話の中ではリオが作ったすべての料理がサラが作っていたと置換されているのだと察する。



 カリスは言いたい放題しながらも串焼きを三本平らげた。


「よしっ!飯も食ったし、そろそろ行こうぜ!」

「「「は?」」」


 ベルフィ達が首を傾げる。


「どこに行くつもりだ?」

「サラのところに決まってるだろ。サラが俺の助けを待ってんだぞ!」


 カリスの妄想にベルフィが首を横に振る。


「もう諦めろ。サラ達とは少なくとも半日以上の差がついてるんだぞ」

「だからだろ!奴らも今頃キャンプをしているはずだ!夜通し歩けば追いつける!」

「バカ言ってんじゃないよっ!」

「なんだと!?」

「落ち着け。大体お前、サラちゃん達の行き先知ってんのか?」

「知らん!だが大丈夫だ!」

「「「……」」」


 ナックは聞きたくなかったが誰も聞かないので仕方なく聞いた。


「……何が大丈夫なんだ?」

「俺がサラに選ばれた勇者だからだ!」

「……ダメだこりゃ」


 ベルフィがカリスを説得にかかる。


「カリス、お前は疲れているんだ。じっくり休んで今までの行動を冷静に考えてみろ」

「ふざけんな!お前らはなんでそんなに冷静でいられるんだ!?」

「そりゃ、サラちゃんが決め……」

「くそっ!まさか棺桶持ち野郎もサラを攫うのに手を貸すとは思わなかったぜ!」

「は?攫う?」

「リオの野郎が嫌がるサラを無理やり攫っていったのをお前らも見ただろう!?」

「「「……」」」

「ナック!手っ取り早くサラを探す魔法はないか!?」

「そんなのあるかよ」

「使えねえ奴だな!」


 カリスの乱暴な言い草にナックはカッとなり文句を言おうと口を開きかけたが、それをベルフィが止める。


「サラは自分の意志でリオ達と出て行ったんだ。お前と一緒にいるのが嫌でな」

「そんなわけあるかっ!」

「あんたっ、ストーカーって言われてだろっ」


 ベルフィに続き、ローズもカリスを説得にかかる。


「ふざけんな!」

「ショタ神官はそう言ってじゃないかいっ」

「違う!例えそう言ったとしても本心じゃない!リオの野郎!いや、棺桶持ちの野郎に魔法か何かで操られていたんだ!そうでなければ勇者となる俺にそんな事言うわけがない!!」

「「「……」」」

「目を瞑ればサラの笑顔が浮かぶんだ!俺を見るときだけ見せるあの笑顔が!」

「それはお前の妄想だ」


 そう言ったベルフィをカリスが睨みつける。


「……わかった」

「そうか。それなら……」

「その代わりサラを助けるのを手伝ってくれ」

「一体何がわかったんだいっ!?」

「全然わかってないぞ、お前」

「手伝わないなら俺はウィンドを抜けるぞ!それでもいいのか!?」


 その言葉を聞き、皆は唖然とする。

 カリスは自分でウィンドを抜けると宣言した事を忘れ、脱退を脅しに使おうと言うのだ。


「……あんた、今更何を言ってんだい。もうあんたをパーティメンバーと思ってないよっ」

「なんだと!?」

「あんた、ショタ神官達と別れる時にウィンドを抜けると言ってただろうっ」

「はあ!?言ってねえ!俺はそんな事一言も言ってねえぞ!まさかローズ!お前もリオとグルだったのか!」


 カリスが大剣を抜く。

 ベルフィが同じく剣を抜き、ローズの前に立つ。


「カリス、俺達はサラ達を追わない。ヴェインに戻る」

「リーダーの言う事が聞けねえのか!」

「リーダーは俺だ」


 カリスは「あっ」と呟き、


「副リーダーの言う事が聞けねえのか!」


 と言い直して叫ぶが、もちろん言う事を聞く者は一人もいない。

 ベルフィは冷めた目で言い放つ。


「結論は変わらん。サラ達を追いたければ一人で行け」

「くっ……もう頼まん!俺はウィンドを抜けるからな!」


 そう言うとカリスが走り出す。


「だからもうあんたをウィンドの一員だと思ってないって言ってんだろっ!」


 ローズがカリスの後ろ姿にそう吐き捨て、ナックがぼそりと呟く。


「……あいつ、どこ向かったんだ?」



 翌朝。

 朝食をとり、ヴェインへの旅を再開したベルフィ達は先行したはずのカリスに追いついた。

 街道脇に座っていたカリスはベルフィ達の姿を見つけると昨夜の威勢は何処へやら、「まいったなぁ」というような表情をベルフィ達に向けた。

 しかし、ベルフィ達は誰もカリスと目を合わせる事なく前を通り過ぎる。

 それでもカリスはベルフィ達が立ち止まって引き返して来ると疑っていなかったが、本当に去って行くのを見て慌てて立ち上がると後を追ってきた。


「待ってくれ!」

 

 ベルフィは仕方がない、とでも言うような表情で足を止め、やって来るカリスを待つ。


「何か用か」


 ベルフィの冷めた言葉にカリスは苦笑いで答える。


「おいおい、冷てえな。副リーダーがこんだけ怪我してんだぞ」


 どうやらカリスは魔物に襲われたようだった。

 昨夜見た時より怪我が増えていた。


「お前は副リーダーではないし、もはやパーティメンバーですらない」

「何度も言わせんじゃないよっ」

「ちょ、ちょ待てよっ。昨日は悪い!言い過ぎた!確かに俺は焦ってて無茶言った。本当に済まなかった!」

「「「……」」」

「なあ、許してくれよ」

「……それで何の用だ?」

「だから勘弁してくれ。反省してる。だから置いてかないでくれ。ほれ、こんな怪我したままじゃ次の街までも辿り着けないかもしれんだろ。な、ナック早く治してくれよ」


 しかし、ナックは無言で魔法を唱える様子もない。


「おいおい頼むぜ。仲間だろ?」

「自分のポーションでも使え」


 ナックがカリスに吐き捨てる。


「そんなの使い切っちまったぜ」


 それを聞いてもナックは心を動かされることはなかった。


「……ナック。治してやれ」

「……わかった。ベルフィの命令だからな」


 ナックは嫌々呪文を唱えてカリスの傷を治す。


「助かったぜ、ナック!」

「さあ、ベルフィ、先を急ごうぜ」


 ナックはその後に「もうコイツとは関わりたくない」と心の中で付け加える。


「よし、行くぞ」

「おうっ」

「「「……」」」


 カリスはベルフィ達に「サラはどこに行ったんだ?本当は知ってるんだろ?」としきりに聞いて来たが「知らない」としか答えなかった。

 カリスはその言葉を信じていないようだったが、本当にベルフィ達はサラ達がどこに行ったのか知らない。

 うっかり口を滑らせるのを恐れて敢えて行き先を聞かなかったのだ。



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