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132話 別れ その2

 カリスの言葉を聞いてもサラの意志が変わることは当然ない。


「ストーカーの許可などいりません」

「だ、誰がストーカーだ!」

「あなた以外に誰がいるのですか?」

「なっ……」

「おいおい、落ち着け」


 ナックが二人の、というかカリスを落ち着かせようとするが、頭に血が上ったカリスには通じない。


「おいっサラ!俺は……」

「それではお元気で」


 サラはもう話すことはないと強引に話を終わらせた。

 しかし、


「待てサラ!!」


 サラ達の行手を塞ぐカリス。

 

「もう話すことはありません」


 だが、カリスはサラの言葉が聞こえていなかったかのように満面の笑顔で言った。


「決めたぞサラ!俺がお前達のパーティに入ってやるっ!」

「はあ?」


 サラは不機嫌さを露わにする。

 しかし、自己中のカリスはまったく気づかない。


「入ってどうするのです?」

「決まってるだろ!俺がお前の勇者だと気づかせてやるんだ!」


 そう言ってカリスがキメ顔をした。


「悪いなベルフィ、ナック、ローズ。そう言うわけで俺はウィンドを抜けるぜ!止めても無駄だぜ!」

「「「……」」」


 ベルフィ達は無言だった。

 それはカリスに言われるまでもなく、カリスをパーティから追放しようと思っていたからだ。

 それでも皆ほんの少し迷いがあったが、カリス自ら決断してくれたので手間が省けたと思っていたのだ。

 そんなことも知らずカリスがサラにキメ顔を向ける。


「安心しろサラ。リーダーはBランクの俺がなってやるっ」


 何が安心なのかさっぱりわからないサラ。

 いや、ここに居る者は誰もわからなかった。

 サラが深いため息をつく。


「カリス、やはり先程私が言ったことが理解できなかったようですね」

「ざっく。お笑い要員は不要だ」


 ヴィヴィが不機嫌さを隠さず言った。


「なんだと!?誰がお笑い要員だ棺桶持ち!パーティを追い出すぞ!」


 リサヴィのリーダーどころかまだ加入すらしていないのに脱退させると脅すカリスに皆呆れる。

 サラはやっぱり治すんじゃなかった、と後悔した。



 結局、ウィンドとリサヴィは次の街まで一緒に行動し、そこでサラとカリスは改めて話し合う事になった。

 もちろん、サラはこの話し合いでカリスを説得できるとは全く思っていないし、そもそも説得する必要もなかった。

 カリスがサラについて来ようとすることは想定の範囲内だったのだ。

 ただ、カリス一人がこれからもサラと一緒に行動できると思い込んでおり、話し合いもしていないのに今後の予定を楽しそうにサラに話していた。

 言うまでもなく当のサラはまったく聞いていなかったが。

 


 「気持ち悪いっ!」とサラにどつかれたカリスが嬉しそうな顔をするのを見て、ナックは引きながらもカリスに素朴な疑問を口にする。

 

「なあ、カリス。なんでお前はサラちゃんに好かれてるなんて思うんだ?近づけば気持ち悪がられて殴られるんだぜ。誰が見てもお前が嫌われてるってわかるぞ」


 その言葉を聞いてカリスが笑った。


「お前、気づいてなかったのか?」

「なにを?」

「これはサラの愛情表現だ!」

「あ?」

「は?」


 ナック、サラが呆れた顔をする。

 それに構わずカリスは続ける。


「サラはな、ツンデレなんだ!こうやって殴ることでしか愛情表現が出来ないんだ!」

「そうなんだ」


 リオの適当な相槌を聞き、サラがリオをどつこうした。

 しかし、それを読んだカリスは先回りしてリオを突き飛ばし、サラの拳を自らの顔で受けて満足げな笑みを浮かべる。

 その行動を見て全員が引いた。



 ウィンドとリサヴィは山道を進んでいた。

 右側は渓谷で下には川が流れている。

 はるか先には向こう側の山へ渡る吊り橋が見え、予定ではその吊り橋を渡る事になっていた。

 カリスはリオさえいなくなればサラは自分を勇者として選ぶ事を疑っていなかった。


(そうだ。リオさえ、いなくなれば……)


 カリスはベルフィの注意をいつものように無視して後方に下がり、サラの隣にきた。

 サラはカリスを無視するつもりだったが、カリスは隣に来ただけで一向にサラに話しかけてこない。

 そして、しばらく経った時それは起きた。


「おいリオ、あそこ」

「ん?」


 リオがカリスが示す先、下を流れる川に目をやった時だった。


「おっと手が滑った!!」


 カリスはワザとらしい声を上げてリオにタックルをかました。

 いつぞやの時のようにかわされないように細心の注意を払ってのタックルだ。

 リオはカリスのタックルをモロに食らい、


「ん?」


 と全く緊張感のない声を出して渓谷へと落ちていった。

 勢い余り、カリス自身も渓谷へ落ちかけるが素早く岩を掴み落下を免れる。

 そしてカリスは自力で山道に這い上った。


「安心しろっサラ!俺は無事だ!……あれ?サラ?」


 カリスは周囲を見渡すがサラの姿はなかった。


「何処だサラァー!!」

「……お前、そこまでやるか」


 カリスはナックの怒気を含んだ声を聞き流す。


「そんな事よりサラはどこだっ!?」


 ベルフィがカリスを冷めた目で見ながら渓谷を指差す。

 カリスは振り返って唖然とする。

 サラは渓谷の上に浮いていた。

 いや、サラだけではない。

 ヴィヴィ、そして渓谷へ落ちたはずのリオもだ。


「どういうことだ!?」


 カリスは何が起きているのか理解できなかった。

 実際に浮いているのはヴィヴィとリオだ。

 サラはヴィヴィが背負う木箱に手をかけていた。

 宙に浮いているのはヴィヴィの魔法ではなく、大破したリムーバルバインダーから抜き取った空中移動の魔道具の力だ。

 サラが冷めた目でカリスを見ながら言った。


「カリス、私達はあなたから、ストーカーから逃れるためにこの山道を選んだのです」

「何!?」

「本来の計画では隙を見てヴィヴィの魔道具で渓谷を横断するはずでしたが、まさかリオを突き落として殺そうとするとは……」

「ち、違う!足を滑らせたんだ!お前なら信じてくれるよなっ!?サラ?」


 誰がどう見てもワザとだとわかるのに平気で嘘をつくカリスにサラは軽蔑した目を向けたまま言った。

 

「ストーカー、私はあなたを信じた事など一度もありません」

「だ、誰がストーカーだ!」

「ざっく。私はお前がリオを突き落とすと信じていたぞ。だから前もってリオに魔道具を渡しておいたのだ」

「棺桶持ち!余計なことしやがって!」

「……」

「いやっ、違う!今のは冗談だ!冗談!ちゃんと話し合おう!だから戻ってこいサラ!なっ?」


 カリスはまだ関係修復が可能と信じており、サラに一度も効果があったことのないキメ顔をする。

 もちろん、今回も効果はない。

 サラ達は山道から既に十メートル近く離れており、カリスがジャンプして届くような距離ではなく、更に距離は開いていく。

 カリスは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「棺桶持ち!さっさと戻って来い!リーダー命令だぞ!」

「ざっく。寝言は寝て言え」

「てめっ!棺桶持ち!サラ!戻って来い!サラ!お前の勇者はここだぞ!」


 サラはカリスの言葉をスルーしてベルフィ達に視線を向ける。


「では、ウィンドの皆さん。私達はここで失礼します」


 サラはウィンドに別れの挨拶をする。


「さらぁ!!」


 サラがカリスを冷めた目で見る。


「ストーカー、本当に迷惑なのでもう二度と追って来ないでください。私はギルドであなたをストーカー登録しますので私に近づくだけで犯罪行為になります」

「ちょっ、ちょ待てよっ!!サラ!俺が今助けに行くぞ!」

「はあ?」


 カリスの言葉に皆が頭に「?」を浮かべるなか、カリスは助走をつけて勢いよく渓谷へジャンプした。

 カリスが手を伸ばすが、サラは遥か先だ。

 カリスが落下を始める。


「サラ!!手を伸ばせっ!!」


 助けが必要なのはカリスの方なのにどちらが助けを必要としているのかわからなくなるほど堂々とした叫び声だった。

 サラが手を伸ばす事はなかった。

 仮に手を伸ばしたところで到底届く距離でもない。

 サラは冷めた目で落下していくカリスを見送る。



「棺桶持ち!俺を助けろ!!サラァ!さらぁ!さ〜らあああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜……」


 カリスは叫びながら、ぽちゃん、と川に落ち、下流へ流されて消えた。


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