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131話 別れ その1

 皆が落ち着いたところでベルフィが今後の事を話し始める。


「予定が前後したが、ここでお別れって事でいいか?ああ、金色のガルザヘッサの賞金は後で各自のギルド口座に振り込んでおく」

「ありがとうございます。私はそれで異存はありません」

「うむ」

「リオはどうですか?」

「うん、いいよ」

「そうか。俺達は一度ヴェインに戻るつもりだが、お前達は……、いや、聞かないでおこう」

「うむ。それでアレはどうするんだ?」


 ヴィヴィの言うアレとは言うまでもなくカリスであった。

 皆がヴィヴィの視線の先を見ると「ふぁふぁ」と何かよくわからない言葉を発しながら、ミノムシのように地を這ってこちらにやって来るのが見えた。

 その顔は何故か嬉しそうに見える。


「お前がキチンと仕止めておかないから余計な問題が増えた」

「……」


 サラはカリスを打ち倒した時、死んでも構わないと思っていたが殺そうとまでは考えていなかった。

 結果、死んだらそれも仕方ない程度だったのだ。

 サラが本気だったら、最初の一撃で頭が吹き飛び終わっていたのだ。


「……どうしましょう?」


 サラが困った顔でベルフィに問いかけるとベルフィも珍しく困った顔をした。


「今回、奴のやった事は許されることではない。裏切り以外の何物でもないからな。だが、俺も我を忘れて突撃して皆に迷惑をかけた側だからな。あまり強く言えない。ナック、ローズはどうだ?」

「うわっ、こっちに振るかよ。……まあ、正直俺も許せねえけどよ、結果とはいえ、みんな無事だったし、アイツがマトモだった時の事を思うとなあ……という事でローズ!」

「あんたらねえ……まあ、棺桶……ヴィヴィのいう通り死んでりゃそれでよかったけど。という事であんたが決めなショタ神官!」

「……ヴィヴィは名前で呼んだのに私は最後までそれですか」

「はんっ、あんたの実力は認めてやるよっ。しかしねっ、あたいがあんたを嫌いなのとあんたがショタコンである事は変わらないからねっ」

「私はショタコンではありません」


 サラはムッとして言い返す。

 サラがリオを見た。


「リオはどう思いますか?」

「あんたよりによって……って、ショタコンだから仕方ないか」


 サラはローズをキッと睨みつける。


「ん?」

「カリスの事です」

「いらない」


 リオの何の感情もこもっていない言葉を聞き、サラをはじめ皆の背中に冷たいものが走った。

 それはいつもと変わらない口調なのに死刑判決を下したかのように思えたのだ。


「……リオ、それはどう言う意味ですか?」

「ん?いるかいらないかって話じゃないの?」 

「カリスの罪を許すかどうかです」

「どうでもいい」

「そうですか……では、ちょっといいですか」


 サラは「ふぁふぁ」と言いながらもそもそ這って近づいてくるカリスに聞こえないようにみんなに自分の考えを話した。



「ったく。金色のガルザヘッサを倒した立役者を放置ってどうなんだ?なあ、サラ?」


 サラが治したくもないカリスの傷を治して開口一番がコレであった。


「「「「「「????」」」」」」


 多少なりとも反省しているかとほんのちょっぴり期待していた彼らであるが、想像を遥かに超えた発言に皆言葉を失う。

 

「なんだなんだその顔は?まったく、俺とサラの活躍がなけれりゃみんな死んでたぜ!サラも今回のことで俺がお前の勇者だとはっきりわかっただろっ?はははははっ!」


「一体こいつは何を見ているんだ!?」と皆が思うなか、カリスの口は絶好調だった。


「おいおい、何黙ってんだよ。なあサラ?」


 顔を寄せて来たカリスの顔を無言で殴りつけるサラであったが、殴られたカリスは何故か嬉しそうだった。

 以前、買った予備の仮面をつけていたヴィヴィがぼそりと呟く。


「ざっく。やはり仕止めておくべきだったな」



「カリス、お前の頭の中じゃ、金色のガルザヘッサとの戦いはどうなってるんだ?」


 ため息を吐きながらのナックの問いにカリスは「何言ってんだ」と前置きして妄想話を自慢げに語り出す。

 

 その妄想話によれば真っ先に退場したのはリオとヴィヴィだった。

 ベルフィ達も早々にリタイアし、残されたカリスは金色のガルザヘッサと一騎打ちを繰り広げる。

 一進一退の攻防の末、サラの協力もあって見事金色のガルザヘッサを倒したらしい。

 なんとか我慢してカリスの妄想話に最後まで付き合った後の第一声はナックからだった。


「お前の話が本当だとして、なんでお前はボコボコにされてたんだ?」

「手足折られてどうやって戦ったって言うんだいっ?」


 ナックとローズの問いにカリスは、


「愛の力だ!」


 とバカな事を口走ってサラにキメ顔をする。

 カリスはサラにボコられた事も覚えていないようだった。

 

「寝言は寝て言え」


 サラはすぐさまそう吐き捨てた。


「ベルフィ、これ以上、バカに付き合っても時間の無駄です」

「おいおい、サラ、誰がバカなん……」

「そうだな」


 ベルフィはサラが先ほど提案した手順で進めていくことにした。


「死者の埋葬をするぞ」


 ベルフィの言葉に一人を除いて皆が頷く。

 その一人にナックが念を押す。


「お前も手伝うんだぞカリス」

「おっ?俺“達”もか?」

「そのためにあんたの傷を治してんだよっ!」


 ローズがキレ気味に叫ぶ。


「ったく。だってよ、人使いが荒いぜ。どうするサラ?」


 カリスがキメ顔をサラに向けるが効果はなかった。


「もちろん手伝います」


 サラはカリスに顔を向ける事なく答えた。


「そうかっ。しゃーない。俺“達”も手伝ってやるぜ!」


 カリスは何故かサラと一緒に行動するのが当然のように振る舞うのだった。



 村に戻り、村人の埋葬をしていると金色のガルザヘッサの情報を聞いた冒険者達が次々とやって来た。

 埋葬を手伝う者、漁る者、そのまま去る者、様々だった。

 そんな中で埋葬を手伝う者達にカリスが金色のガルザヘッサ討伐の妄想話を自慢げに語るので、このバカを止めるのにサラ達は余計な労力を使うことになった。

 生存者だが、納屋の中で少年が一人見つかった。

 幸い、というべきか、やって来た冒険者の中にこの村出身の者がおり、その者が引き取ることになった。

 村の事はその冒険者のパーティに任せ、サラ達は村を出発する事にした。

 それはリサヴィとウィンドの別れの時でもあった。



「じゃあ、リオ、元気でな。サラにヴィヴィ、リオを頼む」

「はい」


 ベルフィの言葉にサラが返事をし、ヴィヴィは無言で小さく頷いた。


「ん?」


 と経緯を知らないカリス一人が首を傾げる。

 

「おい、一体何の話をしてる?」


 しかし、カリスの質問をみんなスルー。


「僕はもっと強くなるよ」

「ああ」


 ナックがふと思った事を口にする。


「そうだリオ」

「ん?」

「お前が勇者になったら俺をお前の“星”にしてくれな」

「わかった」


 ナックは軽い冗談のつもりだったし、リオもナックの言った勇者の星がなんなのか知らずに頷いた。

 話について行けず、置いてけぼりのカリスが騒ぎだす。


「おいおい!だからなんの話をしてるんだ!全く話が見えないぞ!なあサラ?」


 カリスのキメ顔にサラが小さく首を横に振る。


「私達、リサヴィはここでウィンドと別の道を進みます」

「なっ?聞いてねえぞ!俺は聞いてねえ!お前の勇者の俺は全く聞いてねえぞ!」


 カリスが喚き出す姿にサラが深くため息をつく。


「何度も言いますが、私はあなたを勇者だと言ったことも思ったこともありません」

「おいおい、ベルフィが聞いてるからって気を使うことはないぞ。もう隠すことないだろう」


 カリスが勝ち誇った表情をベルフィに向ける。

 ベルフィはカリスの態度を不快に思ったものの、サラの邪魔をすべきではないと沈黙を保つ。

 サラは「ダメだこいつ」と首を横に振る。


「カリス」

「おうっ」

「私はあなたの事をストーカーとしか見ていません」

「ははははっ。面白いことを言うなぁ」


 カリスがサラの肩に手を伸ばすが、それをサラは冷たく弾く。


「な……」

「私の任務の一つはリオが勇者か確かめる事です。あなたなど全く眼中にありません」


 サラの言葉を聞き、ベルフィ、ナックは「やっぱりな」という表情をする。

 ローズは興味ないという態度をとり、ヴィヴィは仮面が邪魔して表情は読めない。

 名指しされたリオはといえば微かに表情が変化したが、どう思ったのか判断できない。

 カリスはサラの言葉を聞いて笑った。

 いや、笑おうとして失敗した。

 全ての言葉を自分の都合のいいように変換していたカリスであるが、流石に今の言葉だけは変換できず、怒りの表情に変わる。


「おいっサラ!流石にそれは冗談じゃ済まないぞっ!」

「私はさっきから一度も冗談など言っていません」

「俺がこんなガキの何処に負けるというんだ!!言ってみろ!言えるものならな!!」


 サラはカリスの希望に応え、今までのリオの活躍、カリスの無能ぶりを淡々と述べる。

 サラの言葉の中にカリスを褒める言葉はひとつもなかった。

 カリスは顔を真っ赤にして怒鳴る。


「ゆ、許さん!俺は許さんぞ!絶対許さーんっ!!」


 カリスはまるで娘の結婚を反対する時の父親のようなセリフを吐いた。



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