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129話 金色のガルザヘッサ その5

 金色のガルザヘッサは元々魔界とのゲートを開くために、“魔の領域”を広げるために魔王のひとりが先兵として送りだした下級魔族の一人だった。

 その名をウルドヴァという。

 ひとえに魔族と言ってもその姿は千差万別で、人間と全く同じ姿をした者からスライムのように無形のものまでいる。

 ウルドヴァは牛魔と呼ばれる魔族で、その名の通り体は牛に近く、その頭が人型であった。

 当初、ウルドヴァの力は下級魔族の中でも平均で突出したものなど何も持っていなかった。

 それでも魔族特有の物理攻撃への高い耐性から魔の領域に侵入してきた人間を返り討ちにしていた。

 しかし、ある時、魔法を主体とした強力なパーティがこの魔の領域を消すために現れた。

 このパーティによって魔物はいうまでもなく他の下級魔族も次々と倒されていった。

 ウルドヴァも冒険者に深手を負わされたが、死が迫る中でウルドヴァはリバースし、冒険者達を返り討ちにしたのだ。

 ウルドヴァがリバースして手に入れた特殊能力は変身、食らった相手の姿を手に入れる能力だった。

 ウルドヴァはリバースとはいえ、その力は中級魔族には及ばない、その程度の程度の強さだった。


 最初、不意打ちをしやすいという理由で人間の姿になってみたが、二足歩行である人間の動きをするのは難しかった。

 そこで同じ四足歩行の魔物の姿に化けることにした。

 いろいろな魔物を食いまくった結果、一番気に入った姿がガルザヘッサだった。

 以降、ウルドヴァはガルザヘッサの姿で行動するようになった。



 ウルドヴァは魔の領域へ侵入してくる人間ども殺しまくり、気付けば中級魔族に匹敵する力を得ていた。

 力をつけたウルドヴァは魔王の手先という役に不満を持つようになった。


(オレは、いや、オレ様は強い!なんでオレ様が他人のためにゲートを開くなんて下っ端魔族の仕事をしなければならんのだ!魔王の命令だから?ならばオレ様が魔王になってやる!そうすれば魔王を呼ぶ必要などなくなるではないか!!)


 こうしてウルドヴァは魔の領域を飛び出したのだった。



 ウルドヴァは慎重だった。

 警備の薄い村をガルザヘッサの姿で襲撃し、目撃者がいないように皆殺しにしていた。

 しかし、ある時、村を襲っているところに強力な冒険者が救援に現れ、一人だけ殺し損った。

 それからしばらく経ち、ある村を襲っている時、救援に現れた冒険者がウルドヴァに向かって「仇!」と叫んだ。

 その冒険者は以前殺し損った者だったらしい。

 結局、その冒険者はウルドヴァの敵ではなかった。

 その冒険者の怨嗟の声を聞きながら食らった時、今までにないほどの力が漲った。

 その理由を知るため、ウルドヴァは以降、村を襲うとき一人だけ生かすようにした。

 その後、自身の姿を動物に変えたりして生かした人間達を近くで観察した結果、何人かは常人では考えられないほどの成長を見せた。

 彼らを喰らうと通常をはるかに超える力を手に入れる事が出来る事ができた。

 結局、その理由はわからないままだったが、ウルドヴァは襲撃の際、必ず生存者を一人だけ残すことにした。

 姿を通常のガルザヘッサよりひと回り大きく、そして体毛を金色に変えたのはこの頃からだ。

 それは自分の存在を生存者の記憶に焼き付けるためだった。

 急激な成長を見せる者達のほとんどが冒険者となり、自分を仇として追ってくる。

 ならば放っておいても向こうからやって来るので所在を探る手間が省けるというものだ。

 そうして上級魔族に匹敵する力を得たウルドヴァが、今、戦っている冒険者達を強敵と判断し、久しぶりに本当の姿を現したのだった。



「まさか、魔族だと!?」


 ナックが驚きの声を上げた。

 サラはやっぱり、と思うと同時に自分の力を過信したことを恥じていた。


(ずっと感じていた違和感はこれだったのね!神聖魔法デテクトアライメントを誤魔化せる、そんな魔族がいるなんて!)


 ウルドヴァが吠えた。

 と同時にベルフィ達が動きを止める。

 魔の波動であった。

 ウルドヴァが放った魔の波動は相手を金縛りにするものだ。

 これを解除するには魔族自身が解除するか、状態異常解除魔法を使うか、自ら打ち破るしかない。

 

「まずは貴様だ!」


 ウルドヴァが口から放った魔弾が身動き取れなくなった無防備のヴィヴィの顔面を直撃した。

 仮面が砕かれ、鮮血をまき散らしながらヴィヴィは倒れた。

 制御を失ったリムーバルバインダーが地面に落下する。

 ナックはヴィヴィが倒れたのはわかったがその位置からではヴィヴィの怪我の具合はわからない。

 

(生きていたとしても早く治療しなくては!)


 そうは思っても回復魔法が使えるサラもナックも金縛りで身動きできない。

 皆が絶望を味わう中、ただ一人リオは別の感情を抱いていた。

 リオが金色のガルザヘッサを追い求めていたのはベルフィのように殺された者達の仇を討ちたい、という明確な理由があったわけではなかった。

 ただ、もう一度見てみたい。

 それだけだった。

 そしてその願いが叶った今、金色のガルザヘッサが死のうが生きようがどうでもよくなっていた。

 だが、


(……僕は騙されたのか。あの姿は仮の姿だったのか。僕はあんなものを追い求めていたのか。あんな偽物を……!!)


 リオの中に芽生えた感情、それは怒りだった。

 失った感情を取り戻したのか、新たに生まれたものなのかリオにはわからないし、興味もなかった。

 ただ、自分を騙した(とリオは思っている)魔族にこの怒りをぶつけなければ気が済まない。

 リオの心が怒りで満たされ、リオの中のなにかを引き千切った。

 そのことにウルドヴァはもとよりリオ本人も気づいていなかった。

 ただ、サラだけがキィーン、という嫌な響きを聞いていたが、それがどこから聞こえてきたのかわからなかった。



 ウルドヴァが満面の笑みを浮かべながらリオに近づいてくる。


「魔装士とやらは仕留めた!もう貴様を守る者は誰もいないぞ!」

「……」

「ははははっ!恐ろしさに声も出ないか。いや、悪い悪い。オレ様が黙らしたんだったな!」

「……」

「お前は簡単には殺さんぞ。苦しみ悶えながら死んでいけ!」


 勝利を確信したウルドヴァは体から触手を発生させてリオを襲う。

 その攻撃にリオは反応せず、ただじっとウルドヴァを睨んでいた。

 リオを襲った触手がその体を貫き、肉体を吸収する。

 はずだったが、触手は突如リオの前に現れたリムーバルバインダーによって防がれた。


「なんだとっ!?奴は殺した!!なぜ動く!?」


 ウルドヴァは思わず視線をヴィヴィへと向ける。

 その隙を狙い、リオはリムーバルバインダーの影から飛び出すとウドルヴァを剣で突いた。

 ウドルヴァはリオの動きに気づき、慌てて避けようとするが間に合わず、剣がわき腹へ深々と突き刺さった。


「ヴァオオオオオオ!」


 リオは剣を引き抜くと更なる一撃を食らわそうとしたがこれはウドルヴァに避けられた。

 

「き、貴様!オレ様の魔の波動を破ったのかっ!?」

「……」


(いや違う!効いていなかったのだ!こいつには最初から!こいつはオレ様の魔の波動をレジストしていたのだ!)


 リオのこの一撃はウルドヴァに直接与えたダメージ以上の効果をもたらした。

 ベルフィをはじめ、みんなから魔の波動による金縛りが解けたのだ。



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