128話 金色のガルザヘッサ その4
「ローズ」
「あ?……って、ちょっとっ!」
リオは矢筒と弓をローズへ向かって放ると金色のガルザヘッサに向かって走り出した。
弓を格納していたリムーバルバインダーがその後を追う。
「おいっ、待てリオ!」
「ナック、金色のガルザヘッサは僕が倒すよ」
リオはナックの制止を聞かず、そう言った。
(金色のガルザヘッサは強力な魔法がかかった武器じゃないとダメージを与えられない。僕の剣じゃダメだ)
リオはマジックアイを破壊されて落下したリムーバルバインダーに駆け寄ると格納庫のドアを開ける。
幸いにも武器は壊れておらず、中から剣と槍を取り出す。
これらの武器は質のよいものにしたので今までのように一振りで壊れることはないだろうが、何度も使えるものでもない。
サラはリオの動きを見て、ベルフィを後回しにしてリオの元へ向かう。
「リオ!」
リオは駆け寄ってきたサラに視線を向けることなく、声がした方へ槍を放り投げた。
飛んできた槍を慌てて受け止めるサラ。
「ベルフィに渡して。僕とヴィヴィで時間を稼ぐよ」
「無茶です!あなたは……」
「でも早く戻ってこないとベルフィの分なくなっちゃうよ」
サラの声を遮って発したその声に恐怖は全くなく、それどころかこの状況を楽しんでいるようだった。
金色のガルザヘッサは標的をリオに変更し迎え撃つ態勢をとる。
サラはベルフィのもとへたどり着いた。
「遅くなりましたベルフィ!」
「カリスは!?」
ベルフィは顔を真っ青にしながら尋ねる。
「排除しました」
「わかった」
ベルフィはカリスに何があったか聞かなかった。
カリスの参戦がないことだけわかれば十分だった。
「俺の腕を治せるか!?」
「はい」
「本当か!?頼む!」
再生魔法は高位の神官、一級神官レベルしか使えないと思われていた。
実際には今の一級神官は名ばかりの魔法をろくに使えない者が多いのだが、そのことはあまり知られていない。
「ただし、再生しても今すぐ今まで通り動くわけではありません」
「構わん!」
「急速再生の副作用で再生中と再生後しばらくは激痛が襲います。この痛みを消すことはできません」
「やってくれ!それで死んでも恨みはしない!」
「わかりました。耐えてください」
サラはベルフィの失った左腕の辺りに手を添え急速再生の魔法を発動する。
「!!」
失った部位を短期間で再生させるため術者の魔力消費は激しいし、治療を受ける側には激しい痛みが生じる。
ものの数秒で腕が再生したが、サラの言った通り再生後も激痛が続いているらしくベルフィの表情は歪んだままだった。
「いかがですか?」
「……問題ない。これで戦える!」
サラはベルフィの忍耐力に感心する。
「ではこれを」
ベルフィは剣を鞘に収めてサラから槍を受け取ると再生したばかりの左手を添える。手の感覚はほとんどなかった。
「リオから伝言です。早く来ないとベルフィの分はなくなるそうです」
「はは。それは困るな」
べルフィが冷や汗を流しながら笑みを浮かべる。
べルフィが金色のガルザヘッサへ向かって走り出す。
サラは邪魔者のカリスの様子を窺い、ピクリとも動いていないのを確認してからベルフィの後を追う。
サラは走りながらマナポーションを取り出し、グッと一気に飲んだ。
リオと金色のガルザヘッサの戦いは拮抗していた。
力は言うまでもなく金色のガルザヘッサの方が圧倒的に上であった。
金色のガルザヘッサはリオに致命的な一撃を放つチャンスが何度もあった。
しかし、その攻撃はことごとくヴィヴィのリムーバルバインダーに防がれた。
リムーバルバインダーが金色のガルザヘッサの顔をぶん殴った。
思わず金色のガルザヘッサはバランスを崩す。
その隙を逃さずリオが懐へ飛び込むと魔法剣を振るいガルザヘッサの右前足を一刀両断した。
「ぎゃおおおおおおおお!!!」
金色のガルザヘッサが悲鳴を上げる。
「リオの奴やりやがった!」
「ぐふ」
「おおっ!お前もなヴィヴィ!お前らいいコンビだぜ!」
「ぐふ」
「……ふんっ」
ナックが興奮する中、リオから受け取った弓を構えたローズは内心ほっとしながらも素直ではないので不満げな声を上げた。
金色のガルザヘッサがリオから大きく距離を取ると同時に失った足を一瞬で再生させた。
「嘘だろっ!?」
その足は再生直後真っ黒であったがすぐに金色に変色した。
そして潰れたはずの右目を開く。
右目も再生していた。
「あんなの反則だよっ!!」
ローズが思わす叫ぶ。
「マジかよっ!?ガルザヘッサに再生能力があるなんて聞いたことないぞ!」
「まさかあいつっ、ガルザヘッサのリバース体かいっ!?」
ベルフィが戦いに復帰し、サラがリオに回復魔法をかける。
痛覚神経の鈍いリオはヴィヴィのお陰で致命傷は避けていたものの傷を負っていた事をその魔法で気づいた。
サラは金色のガルザヘッサの攻撃方法が気になった。
辺りに散乱している冒険者の死体は爪で切り裂かれたものばかりだった。
しかし、リオとベルフィには爪で切り裂くよりも鋭い牙を使うほうが多い気がした。
(リオ達を食らうことに執着しているように見えるわ。やはり金色のガルザヘッサの襲撃で生き残ったことに意味がある!?)
一方、金色のガルザヘッサは奇妙な感覚にとらわれていた。
リオはベルフィと比べあらゆる点で劣っているにも拘わらず未だ食らうことができない。
隙だらけで本当なら今頃は腹の中のはずだった。
リオの攻撃を金色のガルザヘッサは難なくかわし、無防備な状態のリオを食らおうと背後から襲いかかるが、リムーバルバインダーに邪魔された。
ベルフィの放つ鋭い突きを金色のガルザヘッサはかろうじて回避した。
(……あいつか!)
金色のガルザヘッサはヴィヴィのリムーバルバインダーのコントロール精度が先ほどまでと全然違うことに気づいた。
(さっきまでは手を抜いていたということか?)
だが、それだけでもないことに気づいた。
リオはこの戦いの中で成長していた。それも目に見えるほど急速に。
普通の人間にはあり得ないことである。
それができるということはすなわちリオが特別な人間だということだ。
(このガキは間違いなく当たりだ。こいつを食らえばオレ様の力は大幅にアップするだろう。だが、このガキの成長速度は異常だ。今までの奴とは明らかに違う!このまま戦いが長引けば槍使いより厄介な相手になる。……まさかあの魔装士はそれを見抜いてこのオレ様をガキの糧にしようとでもいうのか!?)
実際、リオの剣技は一振りごとに鋭く無駄がなくなっていく。
リオの剣が金色のガルザヘッサにヒットした。
かすった程度であるが今の攻撃は不意打ちでもヴィヴィの援護もない、リオだけの力であった。
(やはりこのガキは危険だ!危険すぎる!)
金色のガルザヘッサは最後の手段を使うことにした。
「もう遊びはやめだー!」
突然、金色のガルザヘッサが人の言葉を発した。
そのことにも驚いたがそれだけで終わらなかった。
「「「「な!?」」」」
「ん?」
「ぐふ……」
ローズの推測は半分合っていた。
金色のガルザヘッサは確かにリバース体だった。
だたし、ガルザヘッサの、ではなく、魔族のリバース体だったのだ。
金色のガルザヘッサの体が発光したかと思うと、人の頭に牛に似た体の姿に変態した。
金色のガルザヘッサが本来の姿、魔族の姿を現したのだった。




