127話 金色のガルザヘッサ その3
リオは自分でも気付かぬうちに少しずつ金色のガルザヘッサへと近づいていた。
「おい、リオ!止まれ!」
それに気づいたナックの注意でリオは一旦は足を止めたものの、また歩き出す。
「おい!」
「僕も行くよ」
リオの言葉を聞いてローズが怒鳴りつける。
「何言ってんだいっ!あんたが行ったって何の役にも立ちはしないよっ!!」
「どうだろう?」
「あんた何調子乗ってんだっ!あんたが行ったらベルフィの邪魔になるって言ってんだよっ!!このバカっ!!」
リオは首少し傾げ、「わかった」と言った。
「わかりゃいいんだよっ。ったく……」
「ヴィヴィ」
「ぐふ」
ヴィヴィがもう片方のリムーバルバインダーを肩からパージし、リオのそばへ移動させると格納扉を開く。
リオは中から弓と矢筒を取り出した。
「!!棺桶持ちっ!弓持ってんならなんであたいによこさないんだい!……え!?」
リオは矢筒のかけ紐を肩にかけると矢を一本引き抜き弓を構えた。
その一連の動作は美しく、ローズですら文句を言うのを忘れて思わず見惚れてしまうほどだった。
ちょうどその時、体勢を崩したベルフィを喰らおうと金色のガルザヘッサが口を大きく広げたところだった。
リオの手から魔法を帯びた矢が放たれ金色のガルザヘッサの右目を射抜いた。
「ぐああああっ!!」
金色のガルザヘッサが初めて悲鳴を上げた。
突然の矢にベルフィは驚きはしたもののこのチャンスを逃す気はなかった。
「よくやったローズ!」
矢を放った者が誰か確認もせず言葉を発したベルフィがこの隙に体勢を整える。
リオはベルフィの間違いを訂正する事なく再び矢を放った。
しかし、先程の不意打ちとは異なり今度は避けられた。
「流石だね」
「何敵を褒めてんだいっ!」
ローズはリオの腕前を見た後なので流石に弓をよこせとは言わなかった。
ローズは悪態をつきながらもリオの弓の腕を認めないわけにはいかなかったのだ。
今の矢も外れはしたものの金色のガルザヘッサが避けなれけば命中していたのだ。
ベルフィは目が潰れ死角となった右側の回り込んで攻撃を仕掛ける。
その様子はローズ達の位置からみると形勢が逆転し、ベルフィが優勢のように見えた。
「このままいけば勝てるよっ!」
「……そうだといいな」
楽観的なローズとは対照的にナックは慎重だ。
ナックは内心、このままではまずいと思っていたのだ。
実際、ベルフィは金色のガルザヘッサに思ったほどダメージを与えていなかった。
ナックがチラリとサラとカリスに目を向けると、相変わらずカリスはサラの行く手を遮るだけで戦闘に参加する様子はまったくなかった。
「くそっ、なんて硬いんだっ!」
思わずベルフィが愚痴を吐いた。
サラの中で金色のガルザヘッサに対する疑惑が強くなる。
(確かにベルフィの言う通り硬すぎるわ。リオが放った矢はヴィヴィによって強力な魔力が込められているはず。本当なら頭を吹き飛ばしてもおかしくない気がする。……やはり、あの金色のガルザヘッサは……)
ガルザヘッサの攻撃に耐えていたリムーバルバインダーはマジックアイを破壊されて落下し、そのまま動かなくなった。
その衝撃が伝わったのかヴィヴィは思わず跪き、仮面の押える。
防御が低下した機を逃さず金色のガルザヘッサがベルフィをとらえた。
凶悪な口を広げると構えをとったベルフィの盾ごと左腕を食い千切ったのだ。
「ぐあーっ!」
ベルフィは絶叫し剣を落としてその場にうずくまる。
「ベルフィ!」
ローズが悲鳴を上げる。
ナックが唇を噛む。
彼らに出来る事は何もない。
金色のガルザヘッサが噛み砕いた盾を吐き捨て、トドメをさそうとベルフィに迫る。
今まさにベルフィを食らおうと大きく口を開けた金色のガルザヘッサに向かってリオが矢を放つ。
それを察知した金色のガルザヘッサはベルフィを喰らうのを後回しにして飛んできた矢を前足で弾いた。
金色のガルザヘッサは顔を歪め、その前足に怪我を負っていることに気づく。
更に矢が迫るのをみて金色のガルザヘッサがべルフィから離れる。
その動きを読んでいたかのように更に矢が迫る。
更に更に。
たまらずガルザヘッサは後方へ大きくジャンプして弓の射程から逃れた。
サラはベルフィに加勢したいのだが、「今までのストーキングは伊達ではないぜ!」とでも言うようにカリスがサラの動きを先読みし行手を塞ぐ。
そうこうしているうちにベルフィが金色のガルザヘッサに左腕を食いちぎられた。
サラはベルフィの治療に向かおうとしたが、カリスが立ち塞がる。
「退きなさいカリス!ベルフィの命が危ないんですよ!」
「俺の役目はお前を守る事だ!」
カリスはキメ顔でそう言ったのを見てサラは決断する。
(このバカを説得するのは無理ね。もう手段を選んでいられないわ!)
サラがカリスを横をすり抜けようとするとカリスが回り込んで前を塞ぐ。
「サラ!金色のガルザヘッサの野郎は俺に任せろって言ってるだろ!」
サラはカリスのその言葉をもちろん信じていない。
「カリス!」
「おうっ!」
カリスがバカの一つ覚えのように名前を呼ばれてキメ顔をした瞬間、サラは今まで見せたこともない素早い動きでその顔面に鉄拳を放った。
「ふぁふぁー!?」
避けることができずもろに鉄拳を食らったカリスは顎を砕かれ、歯を撒き散らし、驚きの顔を見せながらぶっ飛んでいった。
邪魔な肉壁が消え、サラがベルフィの元へ走る。
しかし、肉壁、もとい、カリスにもナックの防御強化の魔法がかけられていたためか、気絶も行動不能にもなっていなかった。
カリスはすぐさま立ち上がるとサラの後を追ってきた。
「ふぁふぁ!ふぉふぉのふぉふぁふぉふぁふぁふぇふふぁ!」
「……しつこい」
サラにはカリスが何を言ってるのかサッパリわからないが、彼の言うことなど聞く気はないし、聞かなくてもその行動からまた邪魔する気である事は明らかだった。
サラはこの邪魔者を完全に排除することを決断する。
強力なパーティであっても足手纏いがいればそれが元であっけなく全滅する事もある。
まさに今がその状態だった。
カリスはウィンドとリサヴィを全滅に追いやろうとするガンであった。
幸い、リオの弓による攻撃で金色のガルザヘッサをベルフィから遠ざける事に成功している。
(今、この時しかない。ここでバカリスを完全に排除する)
「ふぁふぁー!」
わざとスピードを落としたサラに追いついたカリスが大剣を振るう。
手段を選ばないのはカリスも同様だった。
サラの手足を奪ってでも金色のガルザヘッサの元へは行かせないつもりだった。
サラはカリスの大剣をあっさりかわすと、振りきって隙の出来たカリスの右腕を鉄拳で砕いた。
「ふぁー!!」
カリスは大剣を落とすが、「ストーカーランク一位の座は伊達ではない!」とでもいうように左腕を伸ばしてサラを掴もうとする。
しかし、サラはそれも回避し、その腕も鉄拳で砕く。
それでもカリスは「まだ終わらんよ!」とでもいうように両腕をぶらぶらさせながらサラに迫る。
サラは蹴りを放ってカリスの右足を砕き、転倒したところで左足を踏み砕く。
「ふぁふぁっー!!」
カリスがサラの名らしきものを叫ぶがサラは攻撃の手を緩めない。
サラは止めとばかりに顔を上げて叫ぶカリスの頭を蹴り飛ばした。
カリスは宙をくるくると派手に回りながら落下し、更にしばらく地面を転がり、ピクリとも動かなくなった。
(これでもう邪魔は出来ないでしょう)
サラはカリスが死んだかも知れないが罪悪感は全くなかった。
今までの鬱憤を晴らし、気分爽快だった。
サラがナックに指示を飛ばす。
「ナック!このバカに魔法の援護は不要です!」
ナックはカリスがサラになす術なくボコられる姿を呆然と見ていたが、声をかけられ我に返る。
「お、おうっ!」
サラはベルフィの元へ向かった。
サラがカリスを戦闘不能にしたことに同じウィンドのパーティメンバーであるナックとローズに文句はない。
カリスは敵対行為をしていたのだから。
「強過ぎるぜサラちゃん。流石“鉄拳制裁のサラ”だな!」
もはやナックはサラが“鉄拳制裁のサラ”であること信じて疑わない。
ローズがふんっ、と鼻を鳴らす。
「何出し惜しみしてんだいっ、ショタ神官がっ」
「まあまあ。だが、これで勝機が見えてきたぜ!」




