123話 金色の傷跡
サラはやっとストーカーカリスと別れられるとほっ、としていたが、その望みは叶わなかった。
街に着いてすぐ金色のガルザヘッサが現れたという情報をローズが持って来たのだ。
カリスの喜びようは尋常ではなかった。
「こりゃ別行動してる場合じゃないな!サラ!」
「……」
「見てろよサラ!お前には俺が必要だと証明してやるからよっ!」
「……」
ウィンドとリサヴィは金色のガルザヘッサが現れたという村へ直行した。
その村にはリサヴィより先にその情報を得た賞金目当ての冒険者達が向かっているはずだった。
「もう倒されていたりしてな」
ナックが冗談で言ったことはもちろん現実になることはなかった。
「これは……」
村に到着してウィンドの面々が見たモノ。
それはベルフィ達ウィンドには何度も見たことのある光景であり、リオも自分の村で見た光景であった。
至る所に死体の山。老若男女等しく死に絶えていた。
リオが見た光景と唯一違うものと言えば村人に混じって冒険者が何人もいたことである。
「これほどとは……酷い」
サラは話には聞いていたが実際の惨劇を目の当たりにして動揺を隠せなかった。
「そうだなっ」
カリスが無神経に笑みを浮かべながらサラの肩に手を乗せようとしたのでサラは乱暴に弾く。
「なっ……」
ヴィヴィはといえば内心どう思っていたにせよ、特に動揺した様子は見せなかった。
「また遅かったか」
ベルフィが怒りに肩を震わせながら呟く。
生存者を探しているなかでリオはある物を見つけた。
「ヴィヴィ」
ヴィヴィはリオが示す冒険者に目を向ける。
それはフェラン製魔装士の死体だった。
背中に受けた傷が致命傷になったようだ。盾はパーティを守るために飛ばしたのか離れたところで半壊していた。ヴィヴィは魔装士のそばに落ちていた魔装士用の槍を拾い上げる。
ヴィヴィはしばらく槍と魔装士を見比べていたが、興味を失ったかのようにポイと槍を捨てた。
「使えないのか?」
そう尋ねたナックにヴィヴィは小さく頷く。
「そうかあ、それは残念」
「遺体漁りするほど俺達は落ちぶれてないぞ!なっサラ?」
金魚の糞のようにサラの後をくっついてくるカリスが「いいこと言ったぜ」とキメ顔をしたがサラは無視した。
ナックはキメ顔をスルーされたカリスに反論する。
「何言ってるんだ。魔装士の装備は手に入り難いんだぞ。それに敵討ちに使うんだ。こいつだって使ってやったほうが報われるってもんだ」
「どうしてもだめなのかな?この槍は無傷に見えるけど」
リオがヴィヴィが捨てた槍を拾い軽く振ってみた。
リオは槍を扱った事はないはずだが、その姿は不思議と様になっていた。
そんなリオの様子を黙って見ていたヴィヴィはリオの視線を受けて魔装士の背中を指さす。
「ぐふ。マウンタが合わない。私の魔装具ではその槍に魔力を供給できない」
「そうなんだ」
そのときである。
「生存者がいたよっ!」
ローズの叫び声に皆が駆け寄るとそこにまだ幼い少女が震えながらローズにしがみついていた。
このときのローズは別人かと思えるほど少女に優しかった。
結局、生存者はこの少女一人だけだった。
ウィンドは、というよりベルフィは過去の自分の事を思い出し、村人達の遺体をこのまま放置してはおけないと、簡単にだが埋葬をすることにした。
ナックが魔法で地面に穴をあけ、そこに遺体を入れるのだ。
家族や知り合いを失ったばかりの少女にはキツイと思ったが彼女に遺体が誰かを尋ね、できる範囲で家族を一緒の場所に埋めてやり墓標を立てる。
作業を手伝うサラにカリスが、
「汚れるからよせっ。俺達のする事じゃない。リオや棺桶持ちに任せておけ。なっ?」
と言って何故かキメ顔をしたがサラは当然無視した。
その言葉はサラだけでなく、皆のひんしゅくを買った。
「カリス!邪魔するならどっか行ってろ!」
「そうだよっ、あんたっ、ほんとどうしようもない奴に成り下がったねっ!」
ローズがしがみつく少女を慰めながらカリスを怒鳴る。
「じょ、冗談だっ!なっ?サラ、お前はわかるよなっ?」
何故かサラだけはわかってくれると疑わないカリスがサラに同意を求めるが、
「冗談で言っていい話ではありません」
サラはカリスの言い訳を切って捨てる。
「さらぁ……」
「気持ち悪いっ」
結局、サラのそばから離れたくないカリスは嫌々埋葬作業を手伝った。
その後、金色のガルザヘッサの情報を聞きつけた冒険者達が駆けつけてきた。
金色のガルザヘッサが去った後だと知り、そのまま去って行くもの、埋葬を手伝うもの、様々だった。
中には明らかに死体漁り目的の者達もおり、埋葬をしている間にあの槍はなくなっていた。
更に家に勝手に入って物品を漁る、野盗紛いの者までいた。
ウィンドとリサヴィは埋葬を終えると唯一生き残った少女を連れて近くの街へ向かった。
街に着くとウィンドがギルドに村全滅の説明に向かい、リサヴィが少女を教会へ連れていく事になった。
カリスがサラについて行こうとして止められたことは言うまでもない。
サラが教会の神官に事情を説明し、少女が行くあてもないことを説明すると教会で面倒を見てもらえることになった。
サラ達が教会を出るとすぐにストーカーが姿を現した。
ベルフィの命令を無視してサラの後を追って来たのだ。
「大丈夫だったかサラ!」
サラはため息をつき、冷めた目で答える。
「……何が大丈夫かは知りませんが、それより何故ここにいるのですか?」
「そりゃお前が心配だったからに決まってるだろ」
カリスはそう言ってキメ顔をする。
「私には近づくな、と言われているのを忘れたのですか。また命令無視してベルフィに怒られますよ」
「はははっ!気にするな。もう慣れた」
「ぐふ。慣れるなバカが」
「なんか言ったか棺桶持ち!」
「ぐふ」
ヴィヴィはそっぽを向いた。
サラは肩に手を伸ばしてきたカリスの手を弾き、ため息をついた。




