121話 サラの提案
ストックがなくなりましたのでこれからは毎日一話の投稿になります。
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サラはベルフィからカリスに厳重注意をしたと聞いたが、あまり期待しておらず、実際、効果はないに等しかった。
移動時は前衛がウィンド、後衛がリサヴィが担当していたが、カリスは勝手に隊列を崩してサラの隣りにやって来ては今まで通り自慢話を続けた。
ベルフィやナックが注意すると、その時は渋々戻るのだが、すぐにサラの横へやって来るのだ。
そして、魔物の襲撃があればカッコいいところ見せようと無駄な動きをしてはしなくてもいい怪我を負い、その怪我を自慢げにサラに見せて治療を要求するのだった。
そのストレスがサラの中にどんどん蓄積されていく。
街道脇でウィンドとリサヴィは休憩をとっていた。
サラの隣には当然のようにカリスが座っていた。
しかも二人の間には触れるか触れないかほどの隙間しかなかった。
サラが距離を取ろうと横にズレるとカリスがその分寄って来るのだ。
「カリス」
「おうっ」
「ベルフィに私に近づくなと言われているはずです。さっさと離れて下さい」
サラは我慢できず、カリスにぶっきらぼうに言った。
「おお、悪い悪い」
そう言ってカリスは一度立ち、座った。
離れた距離は誤差の範囲だった。
いや、もしかしたら逆にもっと近づいたかもしれない。
座り直してすぐカリスがサラにキメ顔を向けるが、サラが無視していると顔を寄せて来たので気持ち悪くて我慢できず立ち上がる。
「おいおい、どうした?」
とカリスも立ち上がる。
「……いい加減にしてください」
「どうした?俺に出来る事があればなんでも言ってみろ」
「では今すぐ三メートル以上離れて下さい!私に近づかないで下さい!」
そう言ってサラがカリスから距離をとる。
「何言ってんだ」
しかし、カリスはサラの要求とは真逆に近づいて来て更に肩に手をかけようとした。
それをサラは強く弾き、叫んだ。
「離れろっ!!」
ついにサラが切れた。
皆が驚き、何事かとサラに視線を向ける。
ただ、残念な事にサラの怒りはカリスには「効かぬ通じぬ」であった。
「馬鹿野郎、それじゃお前を守れないだろ?な?」
カリスのどこかあやすような態度が更にサラを怒らせる。
「そんな役目はあなたにありません!必要ともしていません!」
「気にすんなって」
「迷惑だと言っているのです!」
「俺が好きでやってんだ。お前も無理せず素直に俺に甘えていいんだぜ」
まったく言葉が噛み合っていなかった。
カリスにはサラの言葉が自分に都合のいい言葉に変換されて聞こえているのだ。
サラは頭を抱え、ベルフィに助けを求める。
「ベルフィ!“コレ”をなんとかしてください!」
「おいおい、お前の勇者にコレはないだろう」
カリスが性懲りも無くサラに絡もうとするのを見てベルフィがカリスを怒鳴りつける。
「カリス!こっちに来い!サラには必要以上に近づくなと言ったはずだぞ!」
「待てよベルフィ。今、サラと話してるんだ」
カリスはサラがベルフィの名を呼んだのが面白くなく、不機嫌そうに言った。
サラはカリスの言葉を即否定する。
「ベルフィ、私に話すことは何もありません。コレがウザいのでもう出発しませんか?」
「お、おいサラ……」
「わかった」
カリス以外は皆、サラが激怒しているのに気づいていたので反対しない。
ローズでさえ、文句を言わなかった。
ただ、一人、
「サラ、十分休んだか?無理しなくていいんだぜ?」
とカリスは自分が原因とは全く気付かずにサラにキメ顔をする。
そんなカリスにサラは容赦なかった。
「黙れ!」
「なっ……お前な……」
「カリス!出発するぞ!こっちに来い!追放されたいのか!!」
カリスはベルフィの言葉に渋々戻っていく。
この後も、カリスは性懲りも無くサラの横にやって来たが、サラは無視し続けた。
それでやっとサラの機嫌が悪いと気づいたようでそれ以降は“あまり”やって来なかった。
その日の夜。
「リオ、ウィンドと別行動をしませんか?」
サラはリサヴィで貸し切った部屋でリオにそう話を切り出した。
「ん?」
リオが首を傾げる。
「もちろん、別れてからもベルフィ達と金色のガルザヘッサの情報は共有します」
「そうなんだ」
「人数も多い事ですし、手分けして探した方がいいと思うんです」
「ぐふ。本当の理由を正直に言え」
サラの表向きの理由にヴィヴィが異議を唱える。
「……」
「本当の理由?」
リオが首を傾げる。
サラはヴィヴィをチラリと睨んだあと、本当の理由を話し始めた。
これはヴィヴィに言われたからと言うより、サラの事を「裏切り者」と呼んだ魔王の言葉を思い出したからだった。
「今のも嘘ではないですが、もう一つ理由があります。……私はカリスと一緒にいるのがとても苦痛なんです。出来れば今すぐにでも離れたいくらいです!」
サラは説明の途中で感情が込み上げて来て最後には叫んでいた。
ベルフィ達の部屋に聞こえてはまずいと慌てて口を押さえるが、幸いにもカリスが「呼んだか?」とやって来る事はなかった。
サラがほっとしていると、
「そうなんだ」
とリオがいつものように呟いた。
「ちなみに既にベルフィには相談していますので、別行動することに反対されることはないと思います」
「ぐふ。カリス以外はな」
「ええ。でも知ったことではありません」
「サラの任務は大丈夫なの?」
(よく覚えていたわね。その質問はてっきりヴィヴィから出ると思ってたけど)
「正直、戦力ダウンにはなります。しかし、リオは強くなりましたし、このパーティならなんとかなると思っています」
「そうなんだ」
「それに先ほど戦力ダウンと言いましたが、それはウィンド、リサヴィが本来の力を発揮できた場合です。しかし、現状は知っての通りカリスが全く役に立たないどころか私の足まで引っ張り、私は本来の実力が出せません。ウィンド、リサヴィともに戦力ダウンしている状態なのです。だから別行動をとる事でお互いに本来の力を取り戻せるはずです」
「そうなんだ」
「どうですか?」
「ぐふ。嫌ならサラ一人で出ていくそうだぞ」
「ヴィヴィ!リオ、私は……!?」
サラはリオのなんとも言い難い視線を受け、言葉が出なくなった。
今までに見たことのない目だった。
何もかも見透かされそうなその目から逸らしたい気持ちを押さえ、リオを見つめ返す。
サラはその時になって初めてリオの左目が微かだが以前より赤みかかっているのに気づいた。
「わかった」
そうリオが呟き、それと同時にさっきまでの不思議な感じが消えた。
サラがいつまでもリオ(の左目)を見つめいていたのでヴィヴィが突っ込んできた。
「ぐふ。欲情したなエロ神官」
「なっ……」
サラはリオから目を外し、ヴィヴィを睨む。
「ぐふ。私がいる限り、お前のその野望は阻止してやる」
「そんな野望ないわよ!私のほうこそあなたがリオに変なことしないように見張ってるわ!」
「相変わらず仲がいいね」
「ぐふ「よくない!!」」
「こういうのを『あはん』の呼吸って言うんだよね」
「ぐふ「言わない!!」」
サラがため息をつく。
「またナックですね?」
「ん?」
リオは首を傾げる。
「……もういいです」
「そうなんだ。あ、ヴィヴィはそれでいいの?ヴィヴィもウィンドに入りたいんじゃなかったっけ?」
「ぐふ。気にするな。サラも言ったが、このパーティは中々強い。お前との連携もうまくいっているしな。それにそこのエロ神官の野望を知って、二人きりになど出来ない」
「だから何が野望よ!何が!」
「そうなんだ」
「『そうなんだ』じゃない!」
サラがリオにゲンコツをお見舞いした。
将来、勇者そして魔王になるはずの相手なのに相変わらず扱いが雑なサラだった。
「では、折を見て私から話しますね」
「うん」




