120話 カリス脱退す!? その2
ウィンドが借りた部屋に戻ってきたカリスが頭をかきながら参ったな、という表情で言った。
「は、はははっ!サラにどうしてもって引き留められちまってよ。仕方ないから考え直すことにしたぜっ」
「「「……」」」
サラがカリスのことを嫌っていることはカリス以外全員が知る事である。
当然、カリスの話はすぐに嘘だとベルフィ達にバレたが、本人はその事に気づかず、その嘘で通そうとする。
ローズは嘘で誤魔化そうとするカリスを許す気はなかった。
「……そうかい。じゃあ、あたいがショタ神官に確認してきてやるよっ」
「ちょ、ちょ待てよっ!」
余裕ぶっていたカリスが急に焦り出す。
「カリス、正直に言え。本当にサラは引き留めたのか?」
カリスは「うっ」と唸ったあと、小さな声でボソボソ話し始めた。
「……す、すまん。話が急だったからあいつも気が動転してたんだと思う。だから混乱して思ったことと違うことを……」
「お前の感想は聞いていない。サラはなんと言っていたんだ?」
「……『お元気で』と。だ、だが、涙ぐんでたんだ!それで俺はわかった!止めたくてもプライドが邪魔してるんだと!」
またもカリスが妄想を混ぜてきたとわかり、皆、頭が痛くなった。
よく今までサラは我慢出来たな、と感心すると共に同情する。
本当にサラが涙を浮かべていたのなら間違いなく嬉し泣きである事を誰もが疑わなかった。
サラのためを思うならここはキッパリとカリスを切るのが正しい選択だとベルフィは頭ではわかっているが、マトモだった頃のカリスが思い浮かび、どうしてもその決断が出来ないでいた。
「サラの事はもういい。それでお前はどうしたいんだ?」
「そ、そのっ、さっきの話はなし、って事にしてくれ。このままウィンドにいさせてくれっ!頼む!」
三人はそれぞれ顔色を窺う。
ベルフィが最終確認をする。
「もう勝手な行動はしないと誓えるか?」
「おうっ、当然だろっ」
「サラに必要以上に近づかないと約束できるか?」
「おうっ」
ベルフィはカリスの返事の軽さに不安を覚えながらも今回は水に流す事にした。
だが、罰を与える事を忘れない。
「わかった。だが、お前から副リーダーの任を解く」
「ちょ、ちょ待てよ!」
ヘラヘラ顔していたカリスが慌てる。
「今のお前に副リーダーは相応しくない。だが、安心しろ。副リーダーは空席にままにしておく。お前が相応しくなったら戻してやる」
「ふざけんな!俺が納得してもサラが納得しねえぞ!」
「サラちゃんはパーティ違うんだ。文句言う筋合いはないだろ」
「文句言うとは思えないけどな」とナックは心の中で付け加える。
「納得いかん!」
「そうか。では話は終わりだ。出ていけ」
ベルフィの言葉を聞き、カリスが唸る。
「……わかったぜ。その代わりその事は誰にも言うなよ!降格なんてみっともねえからな!特にサラにはな!」
「お前が副リーダーの名を出さなければな」
ベルフィが当たり前の事を言うと何故かカリスが焦り出す。
「ちょ、ちょ待てよ!副リーダーって名乗るくらいはいいだろう?」
「「「……は?」」」
三人はカリスの言ってる事が理解できなかった。
だが、そんな事は気にせずカリスはバカな発言を続ける。
「いや、棺桶持ちとかリオの野郎も最近生意気だろ?特にリオなんか俺とサラの邪魔しやがってよ。“俺達”迷惑してんだ。腕づくで黙らしてもいいんだがよ、サラが嫌がるからなっ。そんだからよ、肩書きがあったほうが奴らも大人しくなりやすいと思うんだ。だからよ、名乗るくらいいいだろ?」
三人はカリスの言ってることが全く理解できなかった。
ローズがたまらず叫ぶ。
「あんたっ!どんだけバカなんだいっ!?」
「なんだと!?」
「副リーダーって言っていいなら今と何も変わらないよっ!」
「ああ。なんの意味もない」
ローズにナックが同意する。
しかし、カリスは反論する。
「全然違うだろう。副リーダーとして果たす義務がないんだからな」
「今までだって義務なんか果たしてないだろっ!」
カリスのバカな発言にローズが顔を真っ赤にして怒鳴る。
カリスはやれやれ、という表情をし、更にとんでもない事を言い放つ。
「わかったぜ。じゃあ、その代わり俺にリーダーやらせてくれねえか?」
「「「……はあ?」」」
三人は一瞬、カリスが何を言ったのかわからなかった。
三人がバカを見る目をカリスに向ける。
それに気づかずカリスは笑みを浮かべながら続ける。
「副リーダーは丁度空席になったからベルフィがやればいい。そうすりゃサラも……」
「ふざけんじゃないよっ!罰で昇進するやつなんて聞いたことないよっ!!」
「ベルフィ、カリスはもうダメだ。今から脱退手続きしてこいよ」
「な……」
「それがいいよっベルフィ!あたいもこんなバカいらないよっ!」
ナックの意見にローズも頷く。
「そうだな」
「ちょ、ちょ待てよ!」
部屋を出て行こうとするベルフィの前にカリスが立ち塞がる。
「じょ、冗談だぜ!!なっ?」
「とても冗談を言っているようには見えなかったし、冗談を言っていい場面でもない」
「ほ、本当にすまなかった!この通りだ!」
最早見飽きたといえるカリスの謝罪を三人は冷めた目で見ていた。
「……本当に反省しているのか?」
「反省してるぜ!その代わり……」
「その代わりはない!!」
ベルフィがカリスを怒鳴りつける。
「な……」
「これ以上話す事はない!文句があるなら今すぐ出ていけ!!」
三人はカリスと話していて頭が痛くなって来た。
サラがよく頭を押さえていたのがよくわかる。
「……わかったぜ」
カリスは不満顔をしながらも同意した。
これで少しはおとなしくなると三人は思った。
だが、ベルフィは言葉の選択を誤っていた。
それはサラに”必要以上に“近づくな、という曖昧な表現を使った事だ。
カリスにとって今までの行為は普通であり、必要以上とは全く思っていなかったのだ。




