12話 神官勧誘
ファンと別れたリオは本来の目的である神官勧誘を行うことにしたのだが、
(申し込みとかするのかなぁ……全然わからないなあ。ファン様に聞いておくんだったな。ーーあ、あの冒険者、もしかして神官を勧誘してるのかな?)
リオの視線の先では神官と冒険者が話をしていた。
リオがその冒険者達のところへ向かう途中で話が終わったようで神官と冒険者は別れた。
(あ、終わっちゃったのか。でもいいか、今の神官に聞いてみよう)
リオはその女神官の後を追った。
カナリアは不機嫌だった。
(みんなナナル様目当てなのはわかるけどさ、外れくじみたいに誘われるのはムカつくわねっ!)
第二神殿へ神官を求めて来る冒険者の殆どの目当てはナナルである。
だが、ナナルは滅多に本殿から出る事はなく、面会を求めても全て断られていた。
カナリアを誘ってきた冒険者もその一人であると容易に想像することが出来た。
ただ、最近ではナナルの弟子とでもいうべきサラの名もムルトでは有名になっており、彼女目的で来るものも増えて来ていた。
親友とはいえ、それはちょっと面白くなかった。
「……まあ、サラが有名になったのはあたしがつけた二つ名も少なからず影響があるんだろうけどさっ」
「すみません」
「今日はよく声をかけられるわね」
カナリアは立ち止まると声のした方に顔を向けた。
そこには冒険者の格好をした少年が立っていた。
装備の一つを見ても様になってない。
(この子、駆け出し冒険者ね)
「どうしたの?迷子?」
「いえ、違います。一緒に旅をしてくれる神官を探しているんです。どこへ行けばいいのか教えてくれませんか?」
カナリアは即答した。
「坊や、寝言は寝てから言うものよっ」
リオはカナリアの言葉をそのまま受け取った。
「いえ、僕は寝てませんよ」
「……」
「僕、一緒に旅してくれる神官を探しているんだ」
「あんた私の言った事理解できなかったみたいね」
「ん?」
カナリアはこの冒険者は頭が弱いんだと理解した。
「君は神官なんだよね?」
「そうよ。それが何?」
本来であればその態度で勧誘しても無駄だとわかるはずであるが、その冒険者、リオはかまわず続ける。
「僕達のパーティに入ってくれないかな?」
「あたしがあんたの?」
「うん」
「ちょっとカード見せて」
「はい」
カナリアはリオが取り出した冒険者カードを奪い取ると冒険者ランクを素早く確認して突っ返した。
「パス」
「えっと、あの、」
「じゃあね」
「あ……」
リオはファンにアドバイスされた事を思い出した。
「あの、僕のパーティ、ウィンドって言ってね。結構有名らしいんだ。リーダーのべルフィもね、Bランクで……」
カナリアはリオの話を最後まで聞かず去っていった。
リオはその後ろ姿をしばらく眺めていた。
(ともかくいろんな人に当たってみよう。ナックが数打ちゃ当たる、って言ってた気もするし。今度はちゃんとウィンドの事を先に話そう)
カナリアは神殿に戻るところでサラに声をかけられた。
「何やってたの?カナリア、あなたまだ務め残ってるでしょう?」
「気分転換よ。ちょっと外に出たら坊やにナンパされてね」
「坊やって……あなたいったいいくつよ」
「だって、えーと……ほら、あの子」
カナリアが指差すほうを見るとキョロキョロしている少年がいた。
「まあ、容姿はちょっといい線いってるかもしれないけど、年下みたいだし、目が死んでるのでマイナス!きっと前世はアンデッドよ!」
「なに無茶苦茶言ってるのよ」
「あと肝心な腕がてんでダメなのは見なくてもわかるわ」
「まったくあなたは……」
サラが少年をじっと見ていることをカナリアは不審に思う。
「どうしたの?」
「……」
「サラ?」
「……え?あ、なに?カナリア」
「もしかしてあなた……」
「な、何?」
「ショタコン?」
「そんなんじゃないわ!そもそもあの子、そこまで若くないでしょ」
サラはカナリアと別れその姿が見えなくなるのを確認すると急いで引き返した。
カナリアをナンパ、もとい勧誘した冒険者を遠くからこっそり観察する。
(……って、私は一体なにをしているのかしら?)
何故あの少年がこんなに気になるのか実のところ、サラ自身よくわかっていなかった。
(私もこんな事してる場合じゃないのよね)
リオの事が気にはなったがサラも務めがまだ残っていた。
後ろ髪を引かれながらも務めに戻るのだった。
リオはカナリアに断られてから何人か勧誘したが結果は変わらなかった。
明らかに駆け出しとわかる冒険者の話をまともに聞こうとする者はおらず、リオがウィンドのメンバーだと言っても誰も信じなかったのである。
リオは第二神殿内にある神殿関係者以外にも解放されている食堂で遅めの昼食を取ることにした。
お勧めと言われた野菜シチューセットを注文した。
神殿で育てた野菜が使われており、毎日聖歌を聞きながら育った野菜は体にもいいと言われている。
もちろん味もよく評判もいい。
残念ながらリオは味覚音痴であった。味の違いはわかったがそれが美味いのか判断がつかなかった。
(後三人話しかけてダメだったら今日は諦めよう。べルフィ達が帰ってるのは明日の夕方だし、続きは明日にしよう)
リオはそう決めるときっちり三人に断られたところで勧誘をするのをやめた。
サラは務めが終わり、寮に戻るところだった。
途中、何度か冒険者の勧誘を受けたが丁寧に断った。
ふと門に顔を向けると少年の姿が目に入った。
(……あれ、あの子まだいたんだ)
再びサラの心に何とも言えない感情が込み上がってくる。
サラは少し躊躇したが、この感情が何なのか確かめるため少年に向かって歩き出した。心の中でこう叫びながら。
(カナリア、私は歳下趣味じゃないから!当然ショタコンでもないからね!)
「こんにちは」
リオは声をかけてきた神官を見た。
(たぶん初対面だよね?よくわからないけど)
「こんにちは」
「私はサラといいます」
「サラ?」
リオは自分の興味のない事は全く覚えない。
自慢にならないが自分がどのような道を通ってこのムルトに来たのか、もっと言えば自分の村がどこにあるのかも覚えていなかった。
しかし、今回の神官探しでは仲間にする神官の情報は必要だと理解していた。
だからサラの噂を神殿で耳にし、覚えていた。
「サラって、もしかして“鉄拳制裁”のサラ?」
サラの眉間がピクリと動いた。
「あれ?違ったのかな?」
「なんですかそれは?」
「確かね、えーと……そう、神官長?がその鉄拳制裁の人を直々に鍛えたらしくって、魔物を素手で倒せるんだって」
「そうなんですか」
サラは額に青筋を浮かべていたが、リオは気付かず続ける。
「確かマクーの首を力任せにネジ切った事もあるんだって。すごいよね」
「……」
「でもやっぱりあなたは違うよね」
「どうしてそう思うのですか?」
「うん?だってその人は身長が二メートルを超えるマッチョな女神官だって」
「誰がそんなうそ……事を言ってたのですか?」
「え?んー神官だったかな?」
話の内容は覚えていたが、話をしていた相手までは覚えていなかった。
「……その話をした神官の名は?」
「さあ?話すのを聞いてただけで直接話したわけじゃないんだ」
「男でしたか?女でしたか?」
「え?なんでそんなこと聞くの?」
「どっちでしたか?」
サラが不機嫌なのは誰の目にも明らかなはずである。
その証拠に門を行き来する者達は二人を避け、近づこうとしない。
だが、リオはサラが不機嫌である事に全く気づいていなかった。
「女の人だったかな?」
「そうですか」
(間違いなくカナリアね!)
鉄拳制裁のサラ。
最初、神殿騎士団に同行した際、全身に強化魔法をかけて素手でウォルーを倒した事から「鉄拳制裁のサラね!」とカナリアにからかわれた。
この時は冗談半分からだった。
だが、その後、ナナルに鍛えられ強くなったサラは魔物討伐時に自身に強化魔法をかけて素手で魔物を倒しまくった。
その時の光景があまりにも衝撃的だったので、カナリアだけでなく、他の神官、そして騎士までもサラのことを影で”鉄拳制裁のサラ”と呼ぶようになったのだ。
リオが話を聞いた女神官はカナリアではなかったが、噂を広めたのはカナリアなので全くの間違いとは言えなかった。
「ところで、もしよろしければあなたの名前を教えてもらえますか?」
「僕?リオです」
「リオ」
サラはそう口に出してみるが、その名に覚えはなかった。
不思議なことにさっきまで感じていたよくわからない感情も消えていた。
(……気のせい、だったのかしら?……あれ?)
「リオ、あなた、左右の目の色が違うのですね」
良く見なければわからない程の些細な違いであったが、確かにリオの目の色は左右で違っていた。
左目の色が少し薄い。
「ん?そうなの?」
「気づいていませんでしたか。いえ、だから何かあるというわけではありません。すみません変なこと聞いてしまいまして」
「別にいいよ」
「ところで、あなたはここへ何しに?見たところ信者ではないように見えますが?」
「僕は仲間になってくれる神官を探しにきたんだ」
「そうなんですか。それで見つかりましたか?」
「ダメでした。僕のパーティのウィンドって結構有名らしいんだけど、僕がパーティメンバーだって信じてくれないみたいなんだ」
「そうですか。それは残念でしたね」
「うん。でもまた明日探してみるよ」
サラを勧誘するという考えがリオには全くなかった。今日の勧誘は終わりと決めていたからだ。
「見つかるといいですね」
「はい。それじゃ失礼します」
「はい。お気をつけて」
こうして二人は別れた。
これが後に“鉄拳聖女”と“虹彩異色の勇者”と呼ばれる二人の出会いであった。




