117話 愚行は続く その1
リオ、サラ、ヴィヴィの三人で先ほどの戦いについて話していた時だ。
ストーカーカリスが怒りを露わにしてやって来た。
カリスの目にはリオがサラに言い寄っているように見えたのだ。
「リオてめえ!サラにくっついてんじゃねえ!」
「ん?」
「『ん?』じゃなねえ!そこどけっ」
カリスはサラの隣りに座っていたリオを無理やり立たせて退かすとそこに座る。
「悪いサラ、待たせたなっ!」
カリスがサラにキメ顔で言った。
「……何バカな事言ってるのです?私はカリスなんかを待ってなどいません」
所々に棘を含んだサラの言葉にカリスは全く堪えない。
「はははっ、面白い事を言うなっ」
「ぐふ。面白いのはお前の頭だ」
ヴィヴィの呟きはカリスに聞こえなかったようだ。
突然、カリスが顔をサラに寄せて、
「サラは相変わらずいい匂いするな」
と鼻をくんくんさせる。
サラは全身に悪寒が走り、ばっと立ち上がると、カリスから離れる。
「どうした?」
カリスも立ち上がりサラについて来る。
「人の匂いを嗅がないでください!」
カリスの行動はサラだけでなく、その場にいる者すべてを不快にした。
「やめないかいっカリス!気持ち悪いっ!」
「なっ……」
「お前、流石に今のは異常だぞ」
ローズに続き、ナックもたまらずカリスを非難する。
「おいおい、ナックだって前にやってただろ」
カリスにセリフにナックが怒る。
「お前と一緒にするな!俺はそんな露骨なことしてないぞ!」
「カリス」
「おうっ」
サラの冷めた声にカリスが元気に応える。
「気持ち悪いのでやめてください」
「さらぁ……」
何処から声を出しているか、大男の情けない声が響く。
サラにショタコン疑惑があるので年齢、体格はどうにもならないがせめて言葉と口調だけでもと本人は真似ているつもりだが、全く効果はなく、更にサラを引かせるだけだった。
「気持ち悪い!」
「な……」
「とにかく、私はカリスと話すことはないのでついて来ないでくださいっ!」
「悪かったって。じゃあ、俺の匂いをかげよ!それでおあいこだろ!なっ?」
またも気持ちの悪い事を言い出すカリス。
自分ではそれがいい考えだと全く疑っていなかった。
ローズが何か得体の知れない物を見るような目でカリスを見る。
「あんた正気かい……?」
「お前なぁ……」
ナックも呆れてそれ以上言葉が出てこない。
「いちいち外野がうるさいな!これは俺とサラの問題だ!なあサラ?遠慮しなくていいんだぜ。ほらっ」
カリスはキメ顔で寄ってくるがサラの対応は冷たかった。
「結構です!とにかくっ私に近づかないでくださいっ!ベルフィ!」
「おいっ、なんでベルフィに頼るんだ!俺を頼れよ!な?」
カリスの不愉快な言動にサラは鉄拳を放つのを我慢するのに相当精神力を削られた。
(これがリオだったら遠慮なく殴ってるのにっ)
将来、勇者、そして魔王になるかもしれない相手の方を雑な扱いをしていることに気づいていないサラだった。
「いい加減にしろカリス!今のお前の行動は変態そのものだ!」
「な……、いくらベルフィでも許せんぞ!なあサラ?」
何故かサラが自分の味方だと疑わないカリスはサラに同意を求める。
「ベルフィ、これ以上、“コレ”と一緒にいると気が変になりそうです」
「おいおい、お前の勇者にコレはないだろう」
そう言ってニヤケ顔が近づいてきた。
ぷちん、とサラの中で何かが切れた。
「離れろっ!!」
サラはカリスの顔面に鉄拳を食らわせる。
「ぐへっ!?」
カリスの巨体がくるくる回りながら宙を舞い、ぼてっ、と落ちた。
カリスは何が起こったかわからぬままサラにKOされたのだった。
「……ぐふ。コイツは本当にBランクなのか?」
ヴィヴィの言葉にローズは反論出来ず悔しさで唇を噛む。
サラを嫌っているローズであるが流石にアレを庇うのはプライドが許さなかった。
ナックがカリスに駆け寄り気絶しているのを確認した。
「なあサラちゃん、やっぱり鉄拳……」
「違います」
サラはナックの言葉を遮り、カリスを殴ってスッキリしたのか満面の笑みで否定した。




