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116話 妄想自慢

 ベルフィはサラに喫茶店に呼び出され、相談を受けていた。

 内容は言うまでもなく、カリスのストーカー行為についてである。

 常軌を逸した彼の行動にもう我慢が出来ないと言うものだった。



 ベルフィはサラから相談があると言ってきたときから相談内容は予想がついていた。

 ついにこの時が来たか、という思いだった。

 これまでの冒険で、サラの神官としての能力を高く評価していたベルフィとしてはパーティに加入しなくても今まで通り一緒に行動して欲しいと思っている。

 サラを嫌っているローズでさえ、カリスの度が過ぎた行動に舌打ちするのを頻繁に見るようになり、このままではマズイ事を理解していた。

 冒険者は一つ選択を誤れば一瞬で命を失うとても危険な職業だ。

 役立たず、足を引っ張るしか能の無い者は不要だ。

 そのため、どこのパーティもメンバーが固定のところは少なく、頻繁にメンバーを入れ替えるパーティも珍しくない。

 その中でウィンドはここ数年では、神官が抜けたくらいでほぼ変動はない。

 ベルフィはため息をついた。

 カリスが使えない奴だったらなんの問題もなかった。

 カリスを切り捨てて終わりだ。

 だが、カリスはベルフィと同じBランクでそれに相応しい実力も持っていた。

 カリスがおかしくなったのはサラと行動を共にするようになってからだ。

 サラの気を引こうとするばかりにバカなミスを連発するようになり、今のカリスに以前の強さはまったく見られない。

 挙句に暴走して折角手に入れたナンバーズを紛失する始末だ。



 ベルフィはサラが出ていく、という最悪の事態も考えていたが、彼女が示した提案はベルフィの予想とは少し異なっていた。

 金色のガルザヘッサの所在を掴むまでは別行動をしましょう、というものだったのだ。

 それもサラだけが出ていくのではなく、リサヴィとしてである。

 確かにリオは強くなったとはいえ前衛として不安は残るし、ヴィヴィに至ってはサラと仲はよくない。


(それでもカリスといるよりはマシということか)


 パーティで離れる理由を聞くと、「リオを放っては置けない」と教団からの任務があるのにそんな事を心配してていいのか、とどこかチグハグなものを感じた。

 この話に二人にしたのかと確認すると「リオは説得する」との事だった。

 ともかく、ベルフィは選択に迫られている。

 カリスをとるか、サラを含むリサヴィを取るか、である。

 ベルフィはその場での回答を避け、「少し時間をくれ」と言って待ってもらう事にした。

 サラは一応頷いたもののそう猶予はない事は確かだった。



「ベルフィ」


 ベルフィは宿屋の部屋に戻るとすぐカリスに声をかけられた。


「どうした?」

「サラと会ってたんだろ」

「……ああ」


 流石ストーカーだな、とベルフィは心の中で呟く。

 ベルフィは、カリスの行動を改めさせるためにもサラの気持ちと提案を話そうとした。


「実はな……」

「言わなくてもわかってる。サラはお前に謝りに行ったのだろう」

「ん?謝る?」


 ベルフィは首を傾げる。


「ああ、俺からも謝るぜ」

「俺に謝るのか?お前が」


 ベルフィは益々困惑する。

 いや、パーティに迷惑をかけたと言う事ならわかるが、何か違う気がする。

 その顔が全然反省しているように見えなかったからだ。


「当然だ。俺にも責任がある」

「俺にも?」


 ベルフィはやはり何かおかしい事に気づく。

 カリスの意図が読めないのでそのまま話を聞く事にした。


「何を言ってるんだ?」

「そうだな。やっぱ自分からは言いたくないよな」

「お前は何が言いたいんだ?」

「いや、いい。わかってるんだ。サラの話ってのはサラが勇者にお前ではなく俺を選んだ事を謝りに行ったんだろう?」

「……は?」


 ベルフィはサラがカリスのことを「勇者だ」などと言ったのを聞いたことはない。

 反対に「勇者だと言ったことも思ったこともない」と言ってるのは何度も聞いた。

 カリスのあまりに馬鹿げた妄想話にベルフィだけでなく、その場にいて彼らの話に耳を傾けていたナック、そしてローズまでもがポカンと口を開ける。


「すまんな。リーダーのお前を差し置いて俺が勇者に選ばれちまってよ。でもサラを恨まないでくれよ!」


 まだ続くカリスのバカ話にベルフィは我に返る。


「……カリス、お前、それ本気で言ってるのか?」


 ベルフィはなんとか言葉を口に出す。


「はははっ、俺がというよりサラが望んでるからな!」

「「「……」」」

「あいつが俺に勇者を望むなら応えるしかないだろう!」

「「「……」」」


 そこへたまらずナックが話に割り込んでくる。


「サラちゃんは何度もお前のことを『勇者と言った事も思った事もない』と言ってただろ」

「そんなの強がりに決まってるだろ。あいつ、いつも俺を見てるんだぜ!」


 カリスは照れながらそう言った。


「それはお前がサラに付き纏ってるからだろ!!話する時その人の顔見るのは普通だろ!!」と性格の違う三人が同時に心の中で叫んでいた。


 ナックは悩んだ挙句にベルフィを見、ローズを見、そしてカリスを見て話しかける。


「カリス、俺の見る限りではサラちゃんはお前の事をその……、パーティ仲間程度にしか見ていないぞ」


 ナックは流石に「お前をストーカーだと言って嫌ってんだぞ!勇者なんてありえないだろ!」とは言えず言葉を濁した。


 しかし、カリスは怒る事なく、逆に哀れみの表情をナックに向ける。

 ナックはその顔を見てカッとなり思わず、事実を言ってやろうかと思ったが、その前にローズが口を開く。


「あたいもナックに同意だよ!あのショタ神官様はリオ以外眼中にないねっ!あんたいつも冷たくあしらわれてんだろっ!なんで気づかないのさっ!?」


 カリスがふう、とため息をつき、「わかってないなぁ」とでもいうようにわざとらしく頭を左右に振る。


「同じ女とはいえ、サラの事を何もわかってねえな。あれは照れてるんだ。いや、ツンデレって奴だな!」


 カリスはサラの言った事を何故かすべてポジティブに捉えていた。


「……いつデレが来てたんだ?」


 ナックが誰もが抱いた疑問を口にする。


「サラは感情表現が下手なんだ。そこがかわいいんだがなっ」


 ナックの疑問にカリスは笑って自慢げに答える。

 もちろん言うまでもないことだが、サラがカリスにデレた事など一度もない。


「まあ、お前らじゃ気づかんだろうけどな」

「「「……」」」


 ベルフィはカリスのバカ話に圧倒され、サラに言われた事を話すのをすっかり忘れていた。



 カリスが満面の笑みで部屋を出て行った。

 おそらくサラのストーカーに行ったのだろう。

 その後ろ姿を三人はため息で見送った。


「サラちゃん、大丈夫かな」

「ちょうどいい。お前達に相談がある」


 ベルフィはサラに言われた事を思い出し、まず二人の意見を聞く事にした。


「サラちゃんの事か?」

「そうだ」


 ベルフィは先ほどサラから相談された内容をナックとローズに話した。


「ありゃりゃ、ついに来たか」

「ああ。このままではマズイと思いながら放っておいた俺の責任でもある」

「それでベルフィはどうすんだい?」

「俺はまだカリスが元に戻ることを信じたいが……」

「まあ、それは俺もそうだけどさ」

「あたいはショタ神官の提案に賛成だねっ!三人一緒に抜けるってところが特にねっ!それに流石にアレは同情するよっ」

「「……」」

「なんだいその信じられないものを見たって顔はさっ!?」

「いや、珍しいと思ってな。お前がサラちゃんに同情するなんて」


 ローズがムッとしたものの真面目な顔で言った。


「いけ好かない奴だけどさ、あたいも経験があるからちょっとだけ、ほんのちょっとだけだよっ、そのっ、同情してちまうのさっ」

「へえ、知らなかったぜ」

「まあ、ウィンドに入る前のことだからねっ」

「よければ話してくれないか?無理にとは言わないが」

「そうだねっ。まあ、ベルフィの判断の材料になるかもしれないしねっ」


 そう言ってローズが語り始めた。

 意識してかはわからないが小声だった。


「あたいはEランクに上がったばかりでさ、ちょっと調子に乗ってたのさっ。小遣い稼ぎにギルド経由じゃない依頼を受けてさ。それはある人物の尾行、ま、浮気調査さっ」

「ほうほう!」


 ナックの食いつきが異様に高いのが気になったがローズは話を続ける。


「あっちはCランクの冒険者でさ、あっさり尾行がバレちまった。必死にごまかしてその場からは逃げるのは成功したのさっ」

「依頼失敗か」


 ベルフィにローズが頷く。


「で、それだけじゃすまなかった。誤魔化し方が不味かったのか、相手はあたいが惚れてるからだと思い込んじまってさ、こっちが追い回される事になったんだよっ」

「おお、なるほど。確かにサラちゃんとちょっと似てるな」

「それでどうしたんだ?」

「別の街に逃げても人を雇って追いかけてきたさっ。そりゃ必死に逃げて逃げまわったさ」

「で、逃げ切れたのか?」

「結論をいえばそうだねっ」

「どういうことだ?」

「あるとき、追跡がピタッと止まったのさ。諦めたのかと思ったんだけどさ、やっぱり気になって調べてみたら、そいつあたい以外にもストーカーしててさ、そいつに殺られてたさっ。そいつが死んでやっと自由になったのさっ」

「……あまり聞きたくないんだけどよ、そいつとカリス、どっちが上だ?」

「……カリスが奴に届くのはそう遠くないねっ」

「それって……」

「ベルフィ、ショタ神官と別行動とったらカリスの奴も追いかけてくよっ」


 ベルフィは益々頭が痛くなるのだった。

 


 ナックが気分を切り替えるように言った。


「ところでベルフィ、そろそろ行かないか?」

「……そうだな」


 ベルフィとナックは立ち上がるとリサヴィの部屋に入れてもらえずドアの前で騒いでいるカリスの回収に向かった。



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