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115話 ヴィヴィの素顔が見たい

 ウィンドとリサヴィは装備を整えると快楽都市ヨシラワンを後にした。

 出発してしばらく何事もなく順調に進み、休憩をとった時だった。

 ナックはヨシラワンの魔術士ギルドで手に入れた魔法を試してみることにした。

 その魔法の名は“シースルー”。

 いわゆる透視魔法だ。

 街で試せばよかったのだが、誘惑が多く後回しにしていたのだった。

 ナックは誰にも気づかれないようにすばやく魔法を唱える。

 ナックはヴィヴィの素顔を拝見しようと期待を込めて目を向ける。

 

「……あれ?」


 しかし、ヴィヴィを透視できなかった。

 “シースルー”はコントロールが難しいのはわかっていたが、まったく変化が起きなかったので発動に失敗したのかと思い、代わりにサラを見た。

 今度は透けて見えた。

 が、


「ぎゃー!透けすぎだ!骨なんて見たくないぞ!」


 ナックは驚きのあまり思わず口に出してしまい、慌てて口を押さえる。

 サラはナックの挙動を不審に思う。


「すけすぎ?骨?……透けすぎ!?ああ!!」


 サラはナックが何をしていたのか理解し、慌てて両腕で体を隠す。


「どうしたの?」

「ナックが魔法で私を透視しています!」

「なんだって!?」

「……」

「ちょ、ちょっと待った!話を……ぎゃー!来るなスケルトンズ!!」


 いつもは仲の悪いサラとローズであったがこのときばかりは協力してナックをボッコボコにした。

 突然のことと女性陣の尋常ならざる表情に気圧されてベルフィは女性陣がナックをボコるのを止めるのが遅れた。



 ナックは正座をさせられた上、カリスに頭を押さえつけられ地面とにらめっこしているような状態であった。

 ボッコボコに殴られ、腫れあがった顔は口がきける程度にサラが治療した。

 もちろん渋々で回復時に発生する痛みを抑えることもしなかった。


「……ということで今後シースルーは皆の同意を得られない限り使用を禁止する」

「横暴だ!高かったんだぞ!」

「当然だよっ」


 そう言ったローズにサラが頷く。

 ヴィヴィは自分は無関係とばかり沈黙を保ったままだ。


「結構役に立つんだ!禁止は酷すぎる!」

「絶対に使うなとは言ってないだろ」


 助けを求めるように周りを見ようとしたが失敗した。

 女三人はともかく男三人はわかってくれると思っていたがカリスも怒っていた。

 捕まれた頭が痛い。見た相手が悪かったようだ。

 ベルフィはリーダーとして中立な立場を保っており、リオだけが不思議そうな顔をしていた。

 何が問題なのかわからない、という顔だ。


「俺はただヴィヴィの素顔が見たかっただけなんだ」

「それでなんでサラの裸を見ようとしたんだ?」

「いやあ、ヴィヴィには魔法が効かなかったんだよ。そのコートも透けないしさ。だから魔法が効いてないのかと思って」

「……」

「あんたっ、顔見せてやりなよっ。そうすればこの馬鹿がエロ魔法を使う口実もなくなるんだしっ」

「ええ!?」


 声を上げたのはヴィヴィではなくナックである。


「……なんであんたが驚くんだいっ?」

「いや、別に……」

「とにかく、許可なく使用するのは禁止だ。いいな?」


 ナックは女性陣の殺人的な視線を感じ渋々同意した。



 街に入り、宿屋で夕食を済ました後だった。

 リオは部屋に戻ろうとしたところをナックに呼び止められた。


「どうしたの?」

「リオ、お前はリサヴィだけじゃなくやがてはウィンドをも背負って立つ男だ」

「そうなんだ」

「当たり前だろ。他にはいない」

「そうなんだ」


 リオはちょっとうれしそうな顔をした、ようにナックには見えた。


「だが、今のままじゃだめだ」

「腕がまだまだだからだね」

「それよりももっと欠けていることがある。なんだかわかるか?」

「なんだろう?」

「それは経験だ」

「戦闘経験が足りないんだ」

「違う違う。女の扱い方だ。その経験が全く足りない」

「そうなんだ?」

「自覚がないのか?今日、俺のピンチにお前は何も出来なかっただろ?」

「そうなんだ?」

「そうなんだよ!だからなっ、これからは俺がしっかりたたき込んでやる。そして俺がピンチになった時には女達を宥めてくれっ!」

「でもサラがナックのいうことは聞くなって」

「お前はサラちゃんの人形か?違うだろ!?」

「うん」

「このままじゃお前、サラちゃんの肉奴隷にされるぞ!」

「肉奴隷?」

「おうっ。そこでだ……」


 ナックは突然、背後に殺気を感じた。


「そこで?」

「いやー。うん、じゃあ、そゆことで」


 ナックはしゅたっ、と手を挙げたかと思うとだっと逃げ出した。


「……く、なんて素早い」


 サラはナックの捕獲に失敗し悔しそうな顔をした。

 ナックは突然ぴたっと止まり振り返った。


「サラちゃん」

「……なんですか?」

「きれいな骨格だったよ」


 それだけいうと今度は本当に宿屋の外へ走り去った。

 おそらく今夜は別の宿屋に避難するのだろう。


「このエロ魔術士が!」

「サラ」

「……まったく」

「ねえ、サラ」

「なんですか?」

「肉奴隷ってなに?」


 リオは不意に頭が下を向いた。

 サラにどつかれたのだと気づく。


「僕、なん……」

「あのエロ魔術士の言うことを聞いてはだめです!」

「そうなんだ」


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