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114話 衛兵の催促

 ウィンドとリサヴィが泊まる宿に衛兵がやって来た。

 その衛兵は先日カリスを連行した者だった。

 朝食を食べているベルフィ達のもとに衛兵は迷わずまっすぐにやって来た。

 衛兵がチラリとカリスを見るがカリスはサラに夢中で気づかない。

 衛兵がベルフィに視線を向ける。


「お前がそのバカが所属するパーティのリーダーだったよな」

「ああ」


 ベルフィはカリスをバカ呼ばわりした事に反論せず頷く。

 バカと言われたカリスはサラに話しかけるのに夢中で気づかない。


「お前達はいつこの街を出ていくんだ?出来ればさっさと出て行ってほしいんだが」

「何?」

「こんだけ頻繁に騒ぎを起こされると迷惑だ。俺達も暇じゃない。お前らはこの街に大金を落としているようにも見えんしな」


 カリスはこのヨシラワンに来てからというもの、喧嘩による逮捕二回に加え、昨日はサラが宿屋にいないと街中を大声でサラの名を呼びながら歩き、住人からうるさい、と通報された。こちらは逮捕こそされなかったものの厳重注意を受けた。

 しかし、カリスに全く反省の色が見えないため、パーティリーダーのベルフィにわざわざ注意しにやって来たというわけであった。

 ちなみにこの騒ぎのせいでサラ達はベルフィの願いもあり、ローズを呼んだ宿屋に泊まるのをやめてベルフィ達の宿屋に戻ったのであった。

 衛兵の言葉にナックが反論する。

 もちろんカリスの事ではなく、金を落とさないと言った事にだ。


「俺は遊郭で一級を三人も相手したぞ!」


 女性陣の厳しい目を受けても怯まず、ナックの顔はどこか誇らしげだった。


「それは悪かったな」


 衛兵はそう言ったが、本心から言ったように見えなかった。


「ともかく出来るだけ早く出てってくれ。次、騒ぎを起こした時の罰金は今までの金額とは桁が違うからな」

「わかった」


 衛兵は言いたい事を言うと宿屋を出て行った。


「まっ、命令されるのは気に入らないけど、あたいらだってこの街に好きでいるわけじゃないからねっ」

「えーっ!?」


 ナックが一人不満を口にするが無視された。


「ベルフィ、さっさとヴェインに戻ろうっ」

「そうだな」


 ベルフィはサラに何か怒らせる事をしてどつかれたカリスを見る。


「カリス、飯食ったら武器を見に行くぞ」

「何?」


 不快感丸出しのサラに殴られて何故か嬉しそうな顔をしていたカリスだが、ベルフィにサラとの楽しい会話?を邪魔され、不機嫌そうな顔を向ける。


「『何』じゃないだろう。俺の盾もそうだが、お前の大剣も魔法効果がなくなってるだろう。買い替えるつもりはないのか?」


 カリスはそう指摘されて初めて気づいたようだった。


「おお、そうだったな。よしっサラ、お前も選ぶの手伝ってくれ」

「お断りします」


 サラは即答した。


「おいおい……」

「私達は既に装備を整えました。武器屋に行く必要はありません」


 サラの反論の余地のない返事にカリスは笑って言った。


「お前の勇者が装備する武器だぞ。お前だって気になるだろ」


 サラはワザとらしく深くため息をついて言った。

 

「私はあなたを勇者だと言った事も思ったこともありません」


 サラにそうハッキリ言われてもカリスには「効かぬ通じぬ」であった。


「ったく、素直じゃないなぁ」

「……」


 結局、サラは部屋への引きこもり作戦でカリスの追撃を振り切ったのだった。



 ベルフィはヨシラワンで一番品揃えがいいと有名な武器屋にカリスと来ていた。

 カリスは自分の武器選びなのにサラが一緒ではないので渋々という感じであった。

 ベルフィの購入する盾はすぐに決まった。

 ベルフィの使っていた剣は見た目は問題なさそうだったが、調べてもらうとガールズハンターの魔法効果破壊や魔族との戦いの傷が結構深いとわかり、買い替えることにした。

 ベルフィはサイファのラビリンスで手に入れた財宝や貯金もあり、展示されている武器ならどれでも買うことが出来た。

 問題は質だ。


 魔法が付加された武器の効力は何もしなければ数年しか持続しない。

 ただし、ダンジョンなどで発見されるものはその限りではない。

 それらは失われた技術で作られており、今のものより強力でしかも永久的に効果が持続するものもあるのだ。

 そのいい例がサイファ・ヘイダインが作ったとされるナンバーズだ。

 当然、これらの数は少なく貴重で、国の宝物庫に大切に保管されていたりする。

 これらを運良く手に入れた冒険者は奪われることを恐れて普通は自慢したりしない。

 少なくとも街の武器屋の棚に大っぴらに展示されていることはない。



 店にはベルフィが今持つ剣より優れた剣はいくつもあった。

 しかし、どれも力不足を感じる。

 どうしても失ったサイファのナンバーズと比べてしまうからだ。

 あの剣の前ではどの剣もなまくらにしか見えない。

 そして今までの鍛錬が、努力が無意味なものに思えてしまう。

 ベテラン戦士でもあの剣を持った素人に負けるのではないかと思ってしまうのだ。

 そう思わせるほどにナンバーズの力は圧倒的だったのだ。

 ベルフィは無い物ねだりしている事に気づき、ナンバーズの事を頭の隅に追いやる。

 隣でカリスが舌打ちするのが聞こえた。

 カリスは今回の報酬がゼロとは言っても貯金があるはずだった。

 また、ラビリンスの財宝のほとんどはヴィヴィが運んだが、各自でも運んだ物もあり、それをカリスがちょろまかしているのも知っていたので前と同等のものなら問題なく買えるはずだった。


「どうした?気に入ったものがないのか?」

「ああ、どれもナンバーズの足元にも及ばないぜ。ナンバーズがあればなあ」


 ベルフィはカリスの言葉にカッと来た。

 しかし、努めて冷静に言った。


「ナンバーズを無くしたのはお前だ」

「わかってるぜ」


 本当にわかってるのかと疑うほどカリスの返事は軽く、そして驚くべき事を口にする。


「でもよ、サラを責めるのはやめてくれよ」

「……なに?」


 ベルフィはカリスが何を言ってるのかわからなかった。

 そんなベルフィの様子にカリスが照れながら補足する。


「ほら、俺がナンバーズを取り戻しに行こうとした時によ、サラが『行かないで』って言って止めただろ?」


 ベルフィはまたもカリスが何を言ってるのかわからなかった。

 ベルフィは努めて冷静にカリスの間違いを指摘する。


「……サラはそんな事、一言も言ってないぞ」

「ああ、そうだったな。そういう事にしといてくれ」

「……」


 どうやらカリスはベルフィが気を利かせたと思ったようだった。

 ベルフィはこのままカリスといると発狂して殴ってしまいそうだったので、ナンバーズと比べたらどれも同じだと適当に剣を選び、先に店を出た。


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