113話 財宝を換金しよう
次の日。
今日も自由行動だ。
朝食を済まし、皆が部屋に戻った後、ベルフィ達の部屋をノックする者がいた。
それに素早く反応したのは先ほどサラの後をついて行って部屋に入ろうとするのを拒否されたカリスだった。
カリスは相手が名乗る前にドアを開ける。
「サラ!やっぱり俺に……って、てめえか」
ドアの前に立っていたのは魔装士、ヴィヴィであった。
「何の用だ?」
「ぐふ。お前に用はない」
「なんだとっ!?」
怒り露わなカリスを無視し、ヴィヴィが部屋の中を見回し、目的の相手に声をかける。
「ぐふ。ローズ、話がある。私達の部屋まで来てくれ」
ローズが嫌そうな表情を隠しもせずに言う。
「はあ?なんであたいがあんたらの部屋に行かなきゃならないんだいっ」
「ぐふ。大事な話があるからだ」
「あたいはないねっ」
「ローズ、行ってやれ」
ベルフィがヴィヴィに助け舟を出す。
「ベルフィ!?」
「そうだぜ。話くらい聞いてやれよ。もしかしたらお前にいい話かもしれないだろ」
ナックの言葉を聞いてローズはちっ、と舌打ちして立ち上がる。
それを見てカリスがヴィヴィに尋ねる。
「おいっ、棺桶持ち。サラが俺を呼んでんじゃないのか?」
「ぐふ。寝言は寝て言え」
「なんだとってめえ!」
カリスが掴みかかろうとするが、ヴィヴィがすっと避ける。
「カリス、どきなっ」
ローズがカリスの横をすり抜ける。
「待てローズ、俺もついて行ってやるぜ!」
「はあ?」
「俺もちょうど行こうと思っていたんだ。サラはあの通り、素直じゃないからよ。俺から会いに行ってやらないとな」
カリスは自分の彼女自慢でもしている口調で言った。
先ほど入室を拒否されたとは思えないほど自信に溢れていた。
だが、それに水を差すものがいた。
ヴィヴィである。
「ぐふ。お前になど誰も用はない」
「なんだとっ!」
「ぐふ。私達が話があるのはローズだけだ」
「信用できるか!俺がサラに直接聞いてやるっ」
「ぐふ。勝手にしろ」
「ったりめえだ!お前の指図など受けん!」
そう言うとカリスが部屋を飛び出していく。
「ぐふ。ローズ、今のうちに行くぞ」
「あ?ああ」
カリスがリサヴィの部屋の前でサラを名を叫ぶのを背にヴィヴィとローズは宿を出る。
「ちょっと待ちなよっ、部屋で話すんじゃなかったのかいっ?」
「ぐふ。そうだ。私達の宿屋のな」
「……ああ、そういうことかいっ」
ローズはヴィヴィ達が既にあの宿屋から別の宿屋に移った、あるいはもう一つ宿を取っているのだと悟る。
「ほんとっ、カリスは嫌われてるんだねっ」
「ぐふ。アレに好かれる要素があるのならぜひ聞きたいものだ」
「……」
ローズは沈黙した。
「わざわざ来ていただいてすみません」
サラがそう挨拶するとローズは不機嫌そうにふんっ、と鼻を鳴らす。
「で、あたいに用ってのはなんだいっ?」
「これです」
そう言ってサラはラビリンスで得た財宝を示した。
リオ達はラビリンスで得た財宝を受け取ったが、それで終わりではない。
そのままでは持ち運びに不便であり、盗難の恐れもある。
そこで不要な物は換金してギルドの口座に貯金することにしたのだ。
「つまり、あたいに換金の手伝いをしろと?」
「はい。私達は価値がよくわかりませんので足元を見られる恐れがあります」
盗賊のローズならリサヴィの誰よりも目利きに優れ、装飾品類を適切な価格で売却できるはずであった。
「確かにねっ。で、なんであたいがあんたらの手伝いをしなきゃならないんだいっ?」
「ぐふ。もちろんお前にも見返りはある」
「……言ってみなっ」
「ぐふ。お前の持つその短剣だ」
その短剣とはサイファのラビリンスで手に入れた短剣である。
ローズが無意識に短剣を庇う。
「これはあたいのもんだよっ!!」
「ぐふ。違うな。私達は使用権を認めたに過ぎない」
ローズがヴィヴィを睨みつける。
「ぐふ。だが、協力するならリサヴィはその所有権を放棄する」
「……」
「ぐふ。不満か。では今からでもベルフィに……」
「ああっー!わかったよっ!」
「ぐふ」
「あんたっ、見かけによらずガメツイねっ!いやっ、ナンバーズ失った時の怒りようから見れば当然だったねっ」
「ぐふ。快諾してくれて何よりだ」
「どこがだいっ!」
こうしてローズは不本意ながらもリサヴィに協力する事になったのである。
ちなみにヴィヴィ達がローズと交渉中の間、リオは窓から外を眺めていたのだった。
ローズの協力で首尾よく装飾品類を換金できたヴィヴィ達はその足で冒険者ギルドに向かうと大半の現金を各自の口座に預けた。
ヴィヴィ達がいきなり大金を持ち込んで来てもギルド職員は驚きもしない。
この快楽都市ヨシラワンには娼館だけでなく、国営のカジノもあり、ひと夜にしてひと財産築くのも珍しくないからだ。
その反対にすべての財産をなくすのも珍しくないのだが。




