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107話 酔っ払いは面倒臭い

 攻略祝いが始まる頃にはカリスは無事釈放されていた。

 サラは内心舌打ちしたものである。

 カリスは連行された事をサラを守ったからだと恩着せがましく言って来たがサラはスルーした。

 攻略祝いの料理はウィンドの奢りで豪華だった。

 ヴィヴィは最初だけ顔を出し、すぐに部屋に消えた。


「なんだいあの棺桶持ちはっ!こんな時も一人勝手な行動してっ!」


 居たら居たで何か文句を言っただろう、皆がそう思ったが口に出したりはしない。

 ヴィヴィの態度をナックがフォローする。


「まあまあ。魔装士と言っても魔術士の端くれだから」

「それがどうしたいっ?」


 ローズはぐっとエールを一気飲みした。


「魔術士ってのはさ、常に魔力を上げることを第一に考える生き物なんだよ。そのための努力を怠らないんだ。食事もその一つさ」

「食事がかい?初耳だよっ!」

「そうだったか。詳しくは言えないけど、食べ物の中には魔力を高めるものがあるんだ。もちろんその逆もな。だから、ヴィヴィは部屋で魔力が高まるものを食べてるんだろう」

「それが何か知られちゃまずいんだ?」


 ナックはリオが珍しく興味を示したのに驚く。


「ものによるな。一般的に知られているものからぞっとするものまで様々だ」

「そうなんだ」


 リオはヴィヴィが冒険中一緒に食事を取らなかったのは人見知りが激しいからだと思っていた。


「サラ、知ってた?」


 サラは答えることなく、無言で食事を続ける。

 ナックの話にベルフィが疑問を口にする。


「今の話が本当だとするとお前はいいのか?」

「俺?」

「魔術士のお前の方がもっと気をつけるべきじゃないのか?」

「まあ、たまにはいいじゃないか」

「なにが『たまには』だ。いつも俺達と一緒にメシ食ってるだろう」

「ふふふ。俺は自慢じゃないが女とメシは妥協しないのだ!たとえこの魔力が尽きようとな!」

「そうなんだ」

「リオ、絶対真似をしてはダメですよ。ナックは悪い大人の見本です」


 サラがリオを注意する。


「あんたはリオの母親かいっ?おっぱいでも飲ませてやったらどうだい?」


 サラがローズを睨む。


「人が道を外れようとしているのを注意して何が悪いの……デス?」

「えー、サラちゃん、それ言い過ぎでしょ」

「はんっ、なんてお堅いんだろうねっ!ああ、だから神官なんかやってるんだ。あんたには天職だろうねっ!」

「ええ、私もそう思っています、デス!」


 いつもは適当なところで引き下がるサラが今回はまったく引き下がる気配がないので皆不思議に思った。

 最初に気づいたのはナックだ。


「サラちゃんっ、もしかして酔っ払ってんじゃないのか?」

「大丈夫、デス!」


 しかし、ナックはサラの言葉を信じず、飲んでいるグラスを奪い取り、少し飲んだ。


「サラちゃんっ、これ酒だぞ!それも相当度数が高い!」

「んー?」


 サラは隣のテーブルの客が甘くいい匂いのする飲み物を飲んでおり、てっきりジュースと思って頼んだのだった。

 ヨシラワンの酒場では未成年が酒を頼もうと注意しない。

 だから当然、店の者はサラが頼んだものがアルコール入りである事を説明しなかった。

 

「俺にもかせっ!」


 カリスは腹を立てながらもナックからサラのグラスを奪い取ると残りをぐっと飲み干し、満足げな表情をする。

 その様子をローズが見下した目で見ていた。


「サラちゃん、もう部屋に戻れ。なんか言葉遣いがおかしいし……おい、リオ」

「ん?」

「サラちゃんを部屋まで連れて行け」

「ですから大丈夫、デス!」

「大丈夫だって」

「お前にはこれが大丈夫に見えるのか?」


 リオはサラを見た。


「私は大丈夫、デス!」

「大丈夫だって」

「本人の言う大丈夫が一番信用できないんだぜ。特に頑固なやつの“大丈夫”はな!」

「ナック!私のどこががんこなんデスか!?」

「うわっ、サラちゃん、絡み上戸かよ。ほらっリオ、さっさとサラちゃんを部屋に連れて行け!」

「わかった。行こうサラ」

「リオ、私をどこへ連れて行く気デスか!?」

「部屋だよ」

「ほー……リオ、あなた、私を部屋に連れ込んで何をするつもりデスかっ!?」

「寝かせるんだよ」

「……くくく、いいでしょう。やれるものならやってみなさい!デス!」


 サラはいきなり立ち上がり、くらっ、ときて倒れそうになるのをリオが支える。


「大丈夫?」

「……ふふふ、演技、デス!」

「そうなんだ」

「いや、絶対違うだろう」

「ふふふ、リオ、捕まえましたよ。逃がしません!デス!」

「そうなんだ。じゃあ、部屋に行こう」


 がしっ、とリオを抱きしめるサラの姿を見たカリスが勢いよく立ち上がった。


「おいっ、サラ!リオは頼りにならん。俺が連れて行ってやるぜっ!」


 カリスがキメ顔をサラに向け、リオをサラから引き離そうとしたが、サラに殴られる。


「痛えっ!!」

「私に近づくな!ストーカーが!デス!」

「俺だ俺、カリスだ」

「だから近づくなと言っているストーカー!デス!」

「ったく。誰がストーカーだ。どんだけ酔ってんだ、ったく」

「「「……」」」


 カリスはストーカーである自覚がないのでサラが酔っ払って誰かと勘違いしているものと疑わない。

 このまま放っておくとサラが何を言い出すかわからないと思いナックが割って入る。


「ま、まあ、ここはリオに任せておけよカリス」

「何言ってんだ!酔っ払ったサラに何するかわからんだろう!まったく信用できん!!」

「「「……」」」


 「いや、お前よりは信用できるぞ」と思ったものの口にしたのは別の言葉だ。


「安心しろ。部屋にはヴィヴィだっているんだ。間違いは起こらんさ」

「奴も信用ならん!」

「カリス、サラがまた暴れ出すから近づくな」

「ベルフィ、大丈夫だ。問題ない」

「おいっ!」


 カリスは根拠のない自信を見せてベルフィの言葉を無視し、再びサラに近づき、蹴られる。


「痛えっ!おいっサラっ!落ち着けって!俺だ俺、カリスだカリス、わからんのか!?」

「だから撃退してるんデス!このストーカーが!デス!」

「おいおい」


 カリスはやはり自分がストーカーだと思われているとは思わない。

 このままだとまた乱闘騒ぎになるとベルフィは危惧する。


「カリス!お前はまた騒ぎを起こして牢屋へ行きたいのか!?もう迎えにいかんぞ!この街に置いて行くぞ!」


 カリスはベルフィに再度注意され、渋々引き下がった。

 倒れそうになるサラをリオが支え直す。


「行くよサラ」

「いいでしょう!望むところ、デス!今日という今日はあなたの無謀さや適当さや無神経さや、えーと……その他諸々についてしっかり説教をしなければなりませんね!デス!」

「そうなんだ」


 リオはサラの言う事を聞き流し、サラの体を支えながら二階へと登っていった。


「あいつ、酔っ払いの相手慣れてそうだな」


 ナックの言葉にべルフィが呆れた顔をする。


「お前相手で慣れてるんだろ」

「へ?俺?」

「お前もぐだぐだになって戻って来てリオの世話になってるだろう」

「そうだったか?てっきり自分でベッドに潜り込んでるんだとばかり思ってたぜ」

「どっからくるんだろうね、あんたのその自信はさっ!ほらっ、面倒な奴らがいなくなったんだ。飲みなおしよっ!」


 ただ一人、カリスはいつまでも未練がましくサラが消えた方向を見ていた。


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