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105話 貞操をかけた戦い

 ギルドの訓練場に着くとすぐにサラの貞操をかけた試合を始めることになった。

 

「攻略祝いまで時間がないからひと勝負だけな」

「誰のせいよっ誰の!」

「落ち着けって。そんなんじゃ勝負は見えてるぞ。もうどういう体位でイカせるか考えとくか?」

「黙りなさい!」


 サラは素顔を晒していた。

 貞操をかけた戦いなのだ。

 ただでさえ、剣術の腕は拮抗しているのだ。自ら視界を悪くしてリオにハンデを与える気はなかった。

 サラがショートソードと盾を構える。

 リオは両手で剣を構える。


「リオ、いつでもどうぞ」

「うん」


 リオがまっすぐサラに向かい剣を振るう。

 サラは左手の盾で流しながら剣を振る。

 リオはそれをかわして距離を取る。


「リオ、やっぱお前強くなったよなぁ」

「うん?」


 ナックの呟きに反応してリオが見せた隙をサラは見逃さず盾でリオを吹き飛ばした。


「何よそ見してるんですか」

「サラちゃんきついな」

「今ので私の勝ちにしても良かったんですよ。ナックも邪魔をするなら出て行ってください」

「わかったぜ。静かに見学するって」


(あ、しまったっ!今ので私の勝ちにしとけば……)


 だが、今更「やっぱり今ので終わりです」などとカッコ悪いことは言えない。


「本気で来なさい」


 サラは自分の弱気な心を鼓舞するために言った言葉だったのだが余計な一言であった。


「わかった。本気で行くよ」

「え?」



 訓練場には他にも冒険者がおり、サラの美しさに見とれて手を休めて見学するものが何人もいた。


「あの美人戦士やるな」


 ナックは冒険者の誰かがつぶやくのを聞き苦笑する。


(戦士ねえ。確かにあの格好じゃ誰もサラちゃんが神官とは思わないだろうな。それにしてもやっぱサラちゃん強いな。剣技だけならCランクの冒険者に匹敵するな。いや、それよりそのサラちゃんと互角に渡り合ってるリオも本当に強くなったな)


 パーティに入ったばかりの頃のリオを知っているナックはその成長に驚くばかりだった。


(……てか、この成長速度、異常じゃねえか?素人がたった半年で、いや違う!俺達と別れて数ヶ月程度だ。たったそれだけの期間でこれ程強くなれんのか!?……やはり、リオは勇者の素質がある、のか)


 ナックは再びその考えに至り、無理に笑おうとして失敗した。


(……別におかしくないのかもしれない。考えても見ろ。サラちゃんはあのナナル様の弟子だ。本人は否定してるが間違いなくサラちゃんはナナル様の弟子の“鉄拳制裁のサラ”だ。そんな有名人が冒険者になったばかりのリオの誘いに普通乗るか?例え俺達、ウィンドの名を出したとしてもリオがパーティの一員なんてまず信じない。俺だったら絶対信じない。なのにサラちゃんはリオについて来た。……それはやはりリオが自分の勇者だと思ったからじゃないのか?)


 段々とリオの攻撃する時間が長くなり、サラは防御一方だ。その表情に余裕はなさそうに見える。


(ええい!やめやめ!今はリオを男にしてやる事だ!それが俺の使命だ!なんちゃって……ていうか、これ、ほんとにもしも、がありえるんじゃないか!?剣術の勝負だよな?鉄拳も魔法もなしだよな?なら、ちょっとサラちゃんの動揺を誘ってやれば……って、ちょっと待てよ)


 ナックはある事を思い出し気分が一気に重くなる。


(リオが男になるのはいいとしてだ。その相手がサラちゃんはマズイんじゃないか?なにせカリスがサラちゃんに惚れてるからな。それもストーカーに成程に。もし、二人が関係を持ったと知ればリオのやつ殺されかねんぞ。そして、それを煽った俺も危ないかも知れん。嫉妬に狂った男は何するかわからんからな。いや、女もか……うーん、困った。俺はどうすればいいんだ!?)


 ナックはリオが勝った時のための逃げ道を考え始める。



 実際、サラは追い詰められていた。

 もし、ナックがサラの動揺を誘うような言動をしていたら間違いなくサラはリオの筆おろしの相手をする事になったであろう。


(……く、本気出すって言ったけど本当に強いじゃないの!いつから手を抜いていたっていうの?!こうなることを見越して隠していた、って、わけないわよね。って、そんなことは今はどうでもいいわ!ともかく私は勝たなくてはいけないのよ!)


 リオが本気を出したからと言って総合的な戦闘力ならいうまでもなくサラの方が圧倒的に上だ。

 今のリオが勝てるはずもない。

 だが、サラは魔法も拳法も封印している。

 戦いの前にリオと剣しか使わないと約束したわけではないので使ったとしても問題ないはずだ。

 だが、それはサラ自身が許さなかった。


(未来の魔王、リオは私を裏切り者だと言った。今回の勝負をリオは剣での戦いだと思っているはず。どんな些細なことでもリオに裏切りと思われるような行動はできないわ!そう思われるくらいなら潔くリオに抱かれてやるわよっ!)


 サラもまたヨシラワン独特の雰囲気に飲まれたのか、関係持った方がコントロールしやすいんじゃないか、とさえ思い始めていた。

 負けてもいいかと考えた途端、スッと気分が楽になった。

 焦っていた気持ちが落ち着き、今まで入っていた余分な力が抜けた。


(そうよ、そうなったらそうなったよ!リオには女遊びは絶対させない!尻に敷いてこき使ってあげるわ!)


「それ、今までと何が違うんだ?」とサラの心の中の声に突っ込む者は当然いなかった。


「う、ふふふ……」


 サラの口から不気味な呟きが漏れる。

 どこか妖しい笑みを浮かべるサラを見た冒険者達のほとんどの男と一部の女が身を震わせる。


「なんだよあの笑み、一瞬ゾクって来たぞ!」

「めっちゃ妖しい……」

「俺やべえ!」


 そう言った男がかがみ込む。


「あの女戦士、バーサーカーって奴か?」

「いや、ありゃ欲情してんじゃないのか?対戦相手見てるあの目、普通じゃないぞ」

「押し倒してそのまま襲うんじゃないのか?」

「いい……なんかいいわ……」

「ええ、あの人すごくいい……」


 傍観者が好き放題言い始めた。

 ナックは予想外の方向に進む戦いに不安を覚える。


(……あー、なんかやべえな。サラちゃん、なんか変なスイッチ入ったか?俺でもあの顔見てぐっときちまったし。パーティの女には“俺からは”手を出さない主義なんだが……それにしてもリオは相変わらずの無表情だな。あんな欲情したような目で見られたら色々反応するはずだけどな。……主に下半身が)




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