100話 ヘイダイン三世号
カルハン魔法王国とジュアス教団との関係は微妙なので、サラは自分からはジュアス教団の神官である事は名乗らず、聞かれたらサラが臨機応変に対応するという事になった。
小型サンドシップが大型サンドシップに収納され、ベルフィ達が小型サンドシップから降りるとそこには船長らしき人と彼をガードする魔装士六人が出迎えていた。
「ようこそ、サンドシップ“ヘイダイン三世号”へ!」
そう言って船長が名を名乗る。
「こちらこそ助かった」
ベルフィが代表して挨拶する。
「いえいえ。この度はヘイダイン三世号のご利用誠にありがとうございます。この船はカルハン領内を旅する遊覧船ですが、お約束通り街道までお届け致します。目的地まで半日ほどで到着する予定ですが、それまでごゆっくりお過ごしください」
「ああ、ありがとう」
ベルフィに倣い皆が頭を下げる。
リオが魔装士を見ながらヴィヴィに尋ねる。
「あれってヴィヴィと同じもの?」
「ぐふ。どうかな」
船長をガードしている魔装士達はヴィヴィのものより更にシルエットが全体的にふっくらしており、腰の辺りにスカートのような形をした魔道具らしきものが追加されていた。
二人の会話を耳にした船長がちょっと自慢げに説明する。
「彼らは重装魔装士です」
「重装……魔装士?」
「はい。そちらの方、ヴィヴィ様でしたか、その魔装具の改良型で、機動性と攻撃性能を向上させたのです。残念ながらこれ以上はお教えできませんが」
船長はどこか誇らしげに言った。
気のせいか魔装士達もどこか誇らしげだった。
「そうなんだ」
「ぐふ」
「ところで、失礼ですがこの中にジュアス教団の関係者はおられますか?」
サラは内心「やっぱり来たわね」と思いながら前に出ようとした時だった。
「約束破りなら俺に任せろ!」と言わんばかりに乗船前の打ち合わせを無視してカリスがサラを庇うように立った。
「カリス!?」
「安心しろサラ!お前は俺が守るぜ!お前の勇者である俺がな!」
カリスは振り返り余計な事を言うとサラにキメ顔をする。
その言葉に一瞬、船長の表情が厳しくなった。
「勇者……という事はあなたはジュアス教団の神官ですか?」
サラが答える前にまたもやカリスが口を出す。
「よくサラが神官だとわかったな!だが、サラには俺が手出しをさせないぜ!」
そう言ってカリスは再び振り返りサラにキメ顔をする。
「自分でバラして何を言ってるんだこのバカは!」とサラが心の中でどつき回しているとヴィヴィが呆れた口調で言った。
「ぐふ。ベルフィ、その馬鹿の茶番をいつまで続けさせるつもりだ?」
「誰が馬鹿だ!棺桶持ち野郎が!」
カリスから魔装士を侮辱する言葉が出た瞬間、周りにいた魔装士達から一斉に敵意が向けられる。
「あ、あんたは何言ってんだいっ!」
日頃、ヴィヴィのことを“棺桶持ち”と呼ぶローズだが、流石に本場で、しかも魔装士に囲まれたこの状況でそう呼ぶのはマズイと口にしないように気をつけていたが、他人の口はどうにもならなかった。
「カリス!お前は黙ってろ!」
「なんだ……」
「黙りなさい」
サラの声は決して大きくはなかったが、流石のカリスもサラの表情を見て怒っている事に気づく。
「さらぁ……」
「退きなさい」
「……」
それでもサラの前から退かないカリスをベルフィとローズが無理やり退かす。
サラは船長の前に一歩進み出るとフードを脱いて顔を露わにする。
その美しさに敵意剥き出しだった魔装士達の敵意が薄れる。
「すみません。そこのバカが失礼な事を言いまして。このような格好をしていますが私はジュアス教団の神官でサラと言います」
「そうですか」
「私は、いえ、私を含む教団の殆どはカルハンと敵対する気はありません」
船長はサラににっこりと笑顔を向ける。
「それは私達もですよ。私達もジュアス教徒だからと言って差別はしません。お客様が誰であろうと皆、その代金に見合った対応をさせて頂いております」
「ありがとうございます」
サラは船長の笑顔が先程とは明らかに違って見えたが指摘はしない。
「もしやそれを考えてそのように戦士の格好を?」
「いえ。今は冒険者の神官が少なくてですね、神官の服装をしていますと色々面倒に巻き込まれるのです」
「……ああ、なるほど」
船長はサラの容姿から全てを察した。
「しかし、丁度いいですね」
「それはどういう意味ですか?」
「先程、私は『差別はしない』とお話しましたがそれは船員に限ってのことです。お客様の中には先の戦の事もあり、色々思う方もいるでしょう。思わぬ行動に出る方がいるかもしれません」
「確かにそうですね」
「ですから無用な争いが起きないように船内にいる間はその姿のままで神官である事は口外しないでください」
「わかりました。私も争いは望みませんので」
「それにしても……」
船長がヴィヴィに視線を移す。
「ぐふ?」
「先程のヴィヴィ様のリムーバルバインダーの操作テクニックを見て間違いなくカルハンの方とばかり思っていましたので教団の方と一緒にいるのには少し驚きました」
「ぐふ。私は冒険者だからな。クラスで区別しない」
ヴィヴィはカルハン出身かは肯定も否定もせず差し障りのない言葉で濁す。
「確かにそうですね」
船長もそれ以上詮索せず、再びサラを見た。
「そうそう、一応念のために言っておきますが、船内で教団への勧誘もおやめください」
「はい、もちろん承知しています」
船長の話はそこで終わり、その場に魔装士を二人残して去って行った。
 




