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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter24-2 結婚式と襲撃(2)

 予定通り、昼すぎに披露宴は終わり、パレードの開始時間となった。これからウィームレイたちはパレード用の馬車に乗り、王都の主要道路を通っていくんだ。この国の王と妃の顔をアピールするためにね。


 披露宴以上に気を遣うイベントだった。何せ、狙撃し放題な上、敵が雑踏から襲い掛かってくる危険もある。


 無論、行うことで国力を示すメリットもあるんだが、先程までよりも気が抜けないのは事実だった。


 幸いなのは、オレが警備に専念できることかな。パレードは、披露宴に参加できない平民向けのもの。貴族たちは基本的に待機なんだ。つまり、オレの手も完全に空いているのである。


 【位相隠し(カバーテクスチャ)】を使って姿を消し、王都全体を探知術の範囲内に収めながら、ウィームレイ一行に陰ながらついていく。


 尾行しているのは、オレだけではない。聖王家直轄の諜報部隊はもちろんのこと、フォラナーダの人員も配備していた。しかも、表の護衛にはフェイベルンがついている。現聖王国で、これ以上の警備は存在しないだろう。


 歓声の中、手を振るウィームレイたち。これといったトラブルなく、馬車は予定通りに進む。


 ところが、ようやく経路の半分を超えた辺りで、それは発生した


 ――キーン。


 唐突に、耳障りな高音が周囲に響き渡る。同時に、王都の上空に幾何学模様が展開された。まるで魔法陣にも見えるそれは、仄暗く怪しげなグラデーションの光を放ち、王都中を不気味に照らす。


 いったい、どこから?


 まったく予兆を掴ませなかったことを疑問に思いながらも、オレたち護衛は対処に乗り出した。


 まず、馬車の傍にいたフェイベルンたちが、ウィームレイたちの周りを固める。獲物を狙う猛獣の如く、鋭くも貪欲な眼光を光らせた。


 続いて、観客の中に潜んでいた諜報員たちが、彼らが混乱しないよう調整を行う。混乱する民衆の野次に、『フォラナーダがいるから大丈夫』だの『避難所はあっち』だの紛れさせたんだ。


 もちろん、普通に警備していた衛兵たちの呼びかけもある。その二つのお陰で、戸惑っていた観客たちは、おおむね冷静に行動できた。多くの人々は、ゆっくりと建物の陰に隠れていった。


 当然、オレ自身も動いた。フェイベルンと同様、ウィームレイの身辺警護に乗り出す。


「ゼクス。状況は?」


 馬車へ飛び乗ったオレに、ウィームレイは問うてきた。


 真剣な表情を浮かべる彼に、焦りは見られない。良かった、ちゃんと平静を保っているな。


 聖王のウィームレイだけではなく、傍に控える王妃二人も落ち着いた様子だった。さすが、肝が据わっている。


 オレは心のうちで感心しつつ、ウィームレイの質問に答えた。


「避難誘導は問題ありません。伏兵への備えもありますので、死傷者の心配はいらないでしょう。パレードは中止し、我々は状況に対処後、【位相連結(ゲート)】によって王城へ帰還します。詳細の説明はその後に。宜しいですね?」


 公の場なので、言葉遣いに気をつけて語っていく。


 すると、ウィームレイは眉をひそめた。


「『状況に対処後』? 即座に、ではなく?」


 もっともな意見だ。この場にはウィームレイを含めた非戦闘員が三人もいる。安全を最大に考慮するなら、さっさと離脱した方が良い。


 しかし、そうできない理由があった。


 説明は後でするつもりだったが、仕方ないか。彼の愛する王妃もいるんだ。冷静に振舞っていても、気が気ではないんだろう。


「あまり猶予があるわけではございませんので、“対処”と同時進行で説明いたします」


 オレはそう手短に返しつつ、警備に務めていた部下たちへ【念話】を繋げた。


『各員に告ぐ。『賢者の指輪』の使用を許可する。非所有者のフォローも忘れるな』


 すぐに多くの『了解』の返事が届き、不気味な色に照らされていた町の一部が、元の色素を取り戻す。


 オレも、右手中指に装備していたシルバーリングに魔力を通し、起動した。途端、自分たちの周りも、元の色を取り戻していく。


 一通りの“対処”を終え、オレはウィームレイに視線を向け直した。


「現在進行形で王都中を照らす光は、魔力操作を著しく阻害する呪いです。西の魔王が展開していたものと同種ですね。ですから、対処してからでないと、【位相連結(ゲート)】を使えませんでした」


 説明しながら、【位相連結(ゲート)】を展開する。いつ襲撃犯が来るか分からないため、手を止めている暇はなかった。


 そして、ウィームレイたちを【位相連結(ゲート)】の向こう側へ誘導する。


「魔力阻害の呪いは、かれこれ二度受けていたので、対策はすでに立ててありました。この指輪がそれです」


 一見すると、素朴なシルバーリングである『賢者の指輪』。その効果は、所有者の乱れた魔力を中和するというもの。魔力操作阻害のみならず、精神干渉も弾くことができる。対呪いを想定した魔道具だ。


 難点は、持続時間が十分しかないため、認識阻害系には弱いところだ。連続で起動する手もあるけど、認識を逸らす程度の呪いには、やはり対抗策としては弱い。持続時間の拡大は、今後の課題だな。


 そんなことを考えているうちに、全員の避難が完了する。


 【位相連結(ゲート)】を閉じたオレは、ウィームレイと王妃二人を囲う結界を展開――する前に、


「陛下。これを」


 ウィームレイに、『賢者の指輪』を渡しておく。でないと、オレが離れたら結界が壊れるし。


 結界が張られたのを見届けたウィームレイは、神妙な面持ちで問うてくる。


「魔王が使っていた呪い、か。ということは、今回の襲撃犯は魔王教団か?」


「今朝から続く不審者の件も鑑みると、その可能性は高いでしょうね」


 状況証拠を並べると、敵が魔王教団なのは間違いない。

 ただ、違和感があった。


 それは、『主力を失った教団に、あれほどの呪いを構築できるのか?』というもの。また、オレたちに感づかれずに発動できた点も謎だ。おそらく、王都外――超遠距離から狙い撃ったんだと思うが。


 本当に教団が犯人だとして、外部協力者も疑った方が良いかもしれない。たとえば、戦争を控えている帝国とか……。


 そこまで思案を巡らせて、(かぶり)を振った。


 何かを断定するには早すぎる。不足している情報が多すぎるんだから。先入観のせいで、誤った結論を出しかねない。


 オレは思考をフラットにし、ウィームレイへ告げる。


「それでは、私は呪いを起動した主犯を捕らえてきます」


「場所が分かるのか?」


「大まかには」


 魔力操作阻害によって、探知術は封じられている。だが、呪いが展開される瞬間、一瞬だけ魔眼【白煌鮮魔(びゃっこうせんま)】を発動できた。それにより、術者の居場所は特定できていたんだ。


 あれから数分経過しているので、すでに移動してしまっているだろうが、痕跡を追うのは難しくない。


 問題ないことを理解したウィームレイは頷く。


「分かった。必ず、犯人を捕まえてくれ」


「承知いたしました」


 オレは一礼し、再び【位相連結(ゲート)】を開く。目的地は、王都から三十キロメートル離れた山腹だ。








 案の定、転移先に犯人の姿はなかった。


 ただ、足で移動した痕跡は見当たらないため、敵も転移系の魔法を習得していることが窺える。


 本来なら、ここで捜索を断念せざるを得ないんだろうけど、オレなら問題なかった。魔力の痕跡がビッシリ残っているんだから。


 素でも追跡は可能だが、ここは念を入れよう。【白煌鮮魔(びゃっこうせんま)】を用い、確実に居場所を特定する。


 そう時間はかからなかった。何らかの隠蔽を施していたみたいだが、魔眼の前では無力。ものの十秒で敵影を捉えた。都市国家群との国境線沿いに、彼女はいた。


 如何(いか)にも“魔女”といった格好をしている女だ。黒いローブと黒い魔女帽を身につけている。外見年齢は二十代後半といったところか?


 移動距離から考えて、やはり転移魔法を使える模様。あちらの魔力感知能力次第では、イタチごっこになる可能性があるね。


 ならば、オレの行動は一つ。【位相連結(ゲート)】なんて大仰な術はいらない。オレが得手する、シンプルな魔法で解決する。


 ――【銃撃(ショット)】。


 言葉はなく、動作はなく、大がかりな魔力の動きもない。数え切れないほど繰り返された魔力操作は、もはや反射の域に達している。須臾(しゅゆ)よりも短く無数の魔弾を形成し、敵の四肢を乱れ撃ちにした。


 回避の素振りを見せる彼女だったが、遅すぎた。最初の一発は何とか避けられたようだけど、残るすべてをその身に受ける。


 痛みで呻く彼女に、魔法を行使する精神的余裕はないだろう。


 オレは遠隔で【位相隠し(カバーテクスチャ)】を発動。その中に彼女を閉じ込めた。


 ミッションコンプリート。あとは諜報部隊に敵の身柄を渡し、情報を搾り取るだけである。


 はたして、彼女はどこの誰なのか、襲撃の目的は何だったのか。判然としない謎が明らかになることを願うよ。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。表向きの批判を避ける為に魔王教団を使ったんですね。なかなか小賢しい事を考える。
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