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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter23-ep 一つが終わり、次に進んで

 結論から語ろう。戦争は連合軍の勝利で終わった。主戦力の座天使(スローンズ)主天使(ドミニオンズ)の全滅は、やはり天翼(てんよく)族にとって致命的だったらしい。カロンとニナが大将を討伐した後、敵軍はあっという間に瓦解したという。


 ただ、戦線から逃げた残党もいるようで、連合軍の解散はしばらく先になるとのこと。戦後の後始末が終わっても、まだまだ忙しいとプリムラが愚痴っていた。


 一方、オレが攻めた塔は、完全に崩壊した。居合わせた天翼(てんよく)族は、大半が巻き添えを食って死んだみたいだ。いくらか生き残った者もいるけど、未だ混乱は収まっていない。


 ()もありなん。彼らの支柱だったディナトは滅び、智天使(ケルビム)座天使(スローンズ)主天使(ドミニオンズ)という上位陣のほとんども消えたんだ。精神的なダメージは計り知れない。


 加えて、まとめ役に繰り上がったのが、中間管理職にすぎなかった力天使(デュミナス)能天使(エクスシーア)というのも宜しくない。戸惑う生き残りをまとめるには、あまりにも荷が勝ちすぎている。


 これはオレの予想になるが、天翼(てんよく)族は複数のグループに分裂し、内部抗争に発展するだろう。誰が次のリーダーになるか、戦いで決めるんだ。


 おそらく、高確率で当たる。天翼(てんよく)族の歴史は戦いの歴史。平和的に解決するはずがない。


 ……いや、天翼(てんよく)族でなくとも、似たような展開になりそうか。権威に溺れた輩の業は深いからなぁ。


 ただ、その権力争いに、イミルティーナは参戦していない。彼女が生き残りの中でもっとも位が高いものの、肝心の本人が興味を抱いていないからだ。


 むしろ、イミルティーナの興味は、オレたちフォラナーダに向いていた。改めて顔を合わせたら、開口一番に雇ってくれと言われたのは驚いた。


 こちらとしては心強い戦力ではあるけど、受け入れるのは条件付きとした。鬼魄(きびゃく)族たちの復興を手伝った後、合流するように命じたんだ。


 軍人としての職務をまっとうしただけとはいえ、彼女たちは多くの鬼魄(きびゃく)族の命を奪っている。贖罪(しょくざい)は必要な過程だろう。


 イミルティーナも、『敗戦国の兵なら当然の責務だな』と受け入れてくれたので良かったよ。問題は鬼魄(きびゃく)族たちとの確執だけど、そこは時間が解決するのを待つしかない。


 そんな感じで、終戦から慌ただしく過ぎた三日後。オレたちフォラナーダの面々と連合軍の有志は、シェルフレンの一画にある訓練場に集合していた。戦後処理が一区切りついたので、オレたちは一旦引き上げるのである。


 有志の方は見送りだ。大部分はニナとオルカに鍛えられた、もしくはカロンやスキアに治療してもらった連中で、彼女たち四人は現在進行形で泣きつかれている。ずいぶんと慕われたなぁ。


 ちなみに、ミネルヴァやシオン、マリナはこの場にいない。フォラナーダを空にするわけにはいかないので、戦争後すぐに帰ってもらっていた。


「すごい人気ね」


 オレと同じタイミングで、別の苦笑が聞こえてきた。


 見れば、訓練場の出入口から歩み寄ってきているプリムラがいた。


 彼女を認めたオレは肩を竦める。


「女王自らお見送りとは、恐れ入るね」


「大恩人の送迎よ。当然じゃない」


「一旦帰るだけなのに」


 さらりと返すプリムラに、オレは再び苦笑を漏らした。


 そう。今回の撤退は一時的なものだ。復興支援は続けるため、魄術(びゃくじゅつ)大陸から完全に手を引くわけでない。今後も、しばしば彼女たちとは顔を合わせる。だから、わざわざ足を運んでもらう必要もなかった。


 第一、今のプリムラは相当忙しいはずである。吸血鬼の女王と連合軍の総大将を兼任しているんだから。


 前者は、特に多忙を極めているだろう。というのも、先の戦争で五公(ごこう)がさらに減ってしまったから。


 功を焦ったのか、裏切りを見逃されたことに思うところがあったのか。理由は不明だが、バウントードが戦死してしまったんだよ。そのせいで五公(ごこう)は半分以下になり、プリムラにも多くの仕事が回っていた。


 不幸中の幸いなのは、残る二人の五公(ごこう)が協力的なことかな。


 ガンガーティアは高圧的であるものの、愛国心は人一倍だった。プリムラが女王としての資質を示した結果、しっかり忠誠を誓ってくれている。


 魄術(びゃくじゅつ)バカの毛色のライネルも、伊達に公爵家当主ではないようで、状況の最悪さは理解していたらしい。嫌そうにしながらも仕事漬けの毎日を送っている。


 そういう経緯があり、現在のプリムラに、見送りに出向く時間的余裕はないはずだった。


 しかし、彼女は首を横に振る。


「関係ないわ。それだけの恩を受けたんだもん」


「そこまで気にする必要はないんだぞ? こっちだって、益があるから手を貸したわけだし」


「もちろん、純粋な厚意じゃないことは分かってる。でも、単純に利益のためでもなかったでしょう?」


 プリムラは頬笑み、続ける。


「ほんの少しかもしれないけど、そこには確かな善意があった。だったら、アタシたちも善意で応じなきゃダメよ。あなたたちに感謝してますって、心を込めてお礼を言わなくちゃいけないと思うの。間違ってるかしら?」


「……そうだな。その謝意は受け取ろう」


「ええ、遠慮なく受け取ってちょうだい」


 クスクスと笑う彼女につられ、オレも笑う。


 この約二ヶ月で、プリムラは本当に成長したと思う。元々素養はあったんだろうが、それを加味したって目覚ましい育ち具合だ。


 それから、しばらく彼女との雑談に興じていると、新たな人物が会話に加わった。


「すまぬ、待たせたな。わしの準備は終わったぞ」


 軽く頭を下げてきたのはサザンカだ。


 三百年振りに帰郷できた彼女だったが、こちらに残るつもりはないらしい。戦争が終わった後、フォラナーダに戻りたいとの要望を受けていたんだ。


 今も、彼女が合流するのを待っていたのである。三百年前の忘れ物を回収すると言っていた。どう見ても手ぶらだが、深くは尋ねまい。何かしらの思い出の品の可能性が高いし。


 オレは、傍に寄ってきたサザンカに改めて問う。


「しつこいようだけど、本当に残らないのか?」


 この三日間、何度も繰り返した質問だ。


 何せ、三百年振りの帰郷である。ずっと、帰りたくても帰れなかったんだ。フォラナーダに戻るにしても、今回は見送っても良いのではないかと思うのは当然だろう。


 しかし、サザンカは首を横に振った。彼女は、苦笑交じりに答える。


「ここは、今回を皮切りに生まれ変わる。過去の遺物が残っても、百害あって一利なしじゃ。現に、わしと同年代のアインゼルも姿を消しておる。これからの時代は、プリムラたちのような若者だけで作り上げていかなくてはならん」


「それは分かるが……」


「心配してくれるのは嬉しいが、本当に大丈夫じゃ。今さらホームシックになるほど、柔な人生は送っておらんよ」


「そうか、分かった」


 まったく揺るがないサザンカのセリフを聞き、オレは頷いた。


 土壇場で翻意するかとも考えたが、彼女の覚悟は本物らしい。ならば、これ以上は失礼になるだろう。


 いや、すでに失礼か。


「何度も尋ねて、申しわけなかった」


「良い良い。わしを慮っての言葉なのは理解しておる」


 オレが謝罪を口にすると、サザンカはカラカラと笑った。


 ただそれだけの仕草で心が軽くなるのだから、不思議なものだよ。こういうところは年の功だな。


「じゃあ、全員そろったし、【位相連結(ゲート)】を開くぞ」


 サザンカも合流したので、オレはみんなに声を掛けてから【位相連結(ゲート)】を発動する。


 【位相連結(ゲート)】の前にオレたちが並び、そのさらに前にプリムラたち連合軍の面々が並んだ。


 オレはプリムラたちの方を向き、口を開く。


「定期的に使者を送る。戦争の時ほど積極的に協力はできないが、オレは――オレたちは、キミたちがしっかり立ち直ることを願ってるよ」


「ありがとう、ゼクス。女王としても、個人的にも、あなたたちには本当に感謝してる。この恩は、いつか絶対に返すから!」


「期待してる」


 少し涙ぐんでいる彼女に、オレは頬笑んだ。








 短いようで長かった二ヶ月が終わり、オレたちは元の日常に戻る。


 山積している問題はあるが、ようやく一息吐けそうだな。


 そして、三月も下旬。もうすぐ卒業式だ。


 学園生活の最後くらいは、落ち着いた青春を送りたいものだよ。

 

これにてChapter23はおしまいです。ありがとうございました。

5月3日まで幕間を投稿し、4日からChapter24を投稿予定です。よろしくお願いします。


次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ガンガーティアとライネルがやらかさずに、戦後もプリムラに協力的でいてくれる。 [一言] バウントードの馬鹿野郎! 生き残ってプリムラを支えるのがやらかしに対する一番の罪滅ぼしだろうが……
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