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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter23-3 もう一つの屈折(5)

「女王は、ここにいたのか……」


 そう、プリムラは寝床にいなかった。だから、仮にオレが彼を止めていなかったとしても、襲撃は失敗していたんだ。


 オレは語る。


「プリムラは、毎晩カロンたちと模擬戦をしてるんだよ。周りに知られると騒ぎになるから、色々と誤魔化してるけどな」


 バウントードがプリムラの居場所を誤認していたのも、その誤魔化しの影響だった。


「何故、模擬戦を? 女王は死鬼(しき)に至った。日中の訓練や仕事を合わせると、完全にオーバーワークのはずだ」


 意味が分からないと吐露する彼。


 そのセリフを聞き、オレは呆れ返った。


「それだから、お前は死鬼(しき)になれなかったんだよ」


「どういうことだ?」


「お前は、自分が何者かを分かってない」


 プリムラが疲れを押して鍛え続ける理由なんて、一つしかない。今のままでは弱いと自覚しているからだ。もっと強くならないと、国を守れないと理解しているんだ。だから、カロンに疲れを癒してもらった上で、訓練を重ねている。


 死鬼(しき)とは、自らの魂の本質を理解する者。すなわち、自分を真に理解した者を指す。強くなること以外に目を向けなかった男が、そこへ到達できるわけがなかった。


 オレの指摘に、ただただ首を傾げるしかないバウントード。


 そのまま無言の時が流れ、程なくして模擬戦も終了した。プリムラが倒れているので、カロンの勝利で終わったらしい。当然だな。


 カロンの魔法でプリムラが全回復したタイミングを見計らい、オレたちは訓練場の中に進んでいく。バウントードは躊躇(ためら)ったが、問答無用で引きずった。


「お兄さま、お疲れさまです」


「お疲れさま~」


「おつかれさま?」


 前もってこちらの存在に気づいていたカロン、マリナ、マイムの三人が、朗らかに挨拶をしてくる。オレも、彼女たちに「お疲れ」と応じた。


 一方のプリムラは、模擬戦に熱中しすぎていたようで、ここで初めてオレたちに気がつく。


「ゼクスとボレイ? 珍しい組み合わせね」


 何とも能天気なセリフだが、彼女はバウントードの愚行を知らないので仕方ないか。


 オレは引きずっていた彼を、プリムラの前に放り投げる。


「こいつは、キミを襲撃しようとしてた。どういった処罰を下すかは、女王であるキミが決めることだ」


「へ? ……はぁ!? えっ、どういうこと?」


 端的に事実を告げると、プリムラは素っ頓狂な声を上げた。オレの顔と転がったバウントードを忙しなく見比べる。


 少し端折りすぎたか。


 オレは反省しつつ、改めて事情を説明する。バウントードの動機や襲撃を止めるまでの流れなどを。


「なる、ほど」


 すべてを聞き終えたプリムラは頭を抱えた。


 ()もありなん。これで三人目――いや、彼女視点では二人目の裏切り者だからな。しかも、自国の重鎮である五公(ごこう)からの。頭が痛くなって当然の問題だ。


 とはいえ、彼女は女王。こういった難所を乗り越える能力も、必ず求められる。逃避は許されない。


 重苦しい沈黙が流れるが、それは五分ほどで終わりを告げた。プリムラが頭を抱えていた手を解き、バウントードに向かって言葉を紡いだんだ。


「今回の一件は不問とします」


「なっ」


 予想外の一言に、バウントードは短い声を漏らした。彼ほどではないが、マリナも驚いた表情を浮かべている。


 ちなみに、カロンは興味深そうな顔だった。予想外というほどではないけど、意外には感じている様子。


 周りの反応を気にも留めず、プリムラは続ける。


「行動自体は愚かとしか言いようがないけど、実害が出ていない以上、罰は与えないわ」


「周りに示しがつかないし、再犯の可能性が否めないぞ?」


 その決断に対し、オレはあえて意地の悪い質問を投じた。


 しかし、彼女は動じない。


「周囲の目を考えるなら、吸血鬼の中から愚者が現れる方が、連合の信用を失いかねないわ。ようやく安定した状態の維持が先決よ。再犯に関しても問題ないわよ。だって――」


 プリムラは一度口を噤み、バウントードをしかと見据える。それから、ハッキリと告げた。


「アタシは必ず勝つ。アタシは死鬼(しき)であり、女王なんだもの。その自信を抱かなくては無責任だわ」


 一切揺らぎのない瞳。感情も確固たる自信が窺えた。


 今のプリムラに、かつての不安定だった彼女の姿は見当たらない。死鬼(しき)に至ることで、さらに精神的強さを身につけたみたいだった。


 この様子なら、外野がとやかく言う必要はなさそうか。プリムラの意見を尊重しよう。


 オレはバウントードに施しておいた弱体魔法(デバフ)を解く。


「命拾いして良かったな」


「ッ。失礼するッ」


 プライドが傷ついたらしい。唇を強く噛んだバウントードは、一礼すると訓練場から走り去っていった。


「いいのかなぁ。あのヒト、絶対に懲りてないよ?」


 彼の背中を見送った後、マリナが不安げに呟く。


 彼女の疑念に、プリムラは答えた。


「いいのよ。ここで罰しても、アタシたちにはデメリットにしかならないわ。吸血鬼の信用と連合軍の団結力、そして戦力が低下する」


「それはそうなんだけどね~」


 マリナは、どうにも納得できない様子。


 そんな彼女に、カロンが補足事項を伝えた。


「心配無用ですよ、マリナ。少なくとも、彼は天翼(てんよく)族と決着がつくまで、仕掛けてきません」


「あれ、そうなの?」


「はい。曲がりなりにも元帥なのですから、連合軍の勝利を優先するでしょう」


「でも、今回は襲ってきたんでしょう?」


「まぁ、愚か者には変わりないので、感情が勝ってしまったのだと思います」


「また感情が勝ることはないってこと~?」


「おそらくは。今回、『戦争で役に立つから見逃してやる』と恥をかかせましたからね。戦争前に襲撃しては、『天翼(てんよく)族に勝てるか分からないから、その前に自分の感情に蹴りをつけた』と解釈されかねません。それでは恥の上塗りです」


「なるほどねー」


 カロンの推察を聞き終えたマリナは、得心がいったと頷いた。


 強さのプライドゆえに愚行を犯したバウントードは、そのプライドのせいで行動を縛られたわけだ。


 愚者の汚名は拭えないが、分かりやすい人物なのは確か。残る裏切り者より、よほど扱いやすい。


 きちんと対処できたプリムラも、女王として順調に成長しているということだな。


 そう感心するオレだったが、


「はへぇ。戦争が終わるまでは襲ってこないのね。良かった」


 小声で安堵している彼女を目撃してしまった。


 ……うん。先程の啖呵は、何も考えずに放ったものだったらしい。プリムラは、まだまだ未熟な女王のようだ。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
嫉妬で周囲確認や思考閉ざしてしまったんかねぇ。 考えればすぐに、ゼクスらフォラナーダ一派の助力(血反吐吐く訓練だがw)で死鬼に至れたって理解できそうなもんなのに。 自分も訓練つけて欲しいって頼み込むだ…
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