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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Interlude-Primula 心の憩い

 アタシ――プリムラが女王として立った初めての戦争は、よく分からないうちに終わった。勝利には間違いないし、国民たちが喜んでいるのに水を差すつもりもない。でも、個人的には釈然としない気持ちがあったわ。


 だって、アタシ個人は、誰にも勝っていないから。何も仕事をしていないから。天翼(てんよく)族の青年には結局逃げられてしまったし、敵軍を退かせたのもゼクスの功績だ。やはり、素直には喜べない。


 色々割り切ったとはいえ、アタシのそういった部分はまるで変っていなかった。嫉妬深く、功績や評価にこだわる強欲で醜い自分は、何一つ変化していない。


 そりゃそうだ。見つめ直したら直るようなものでもない。ネガティブなところも、アタシを構成する要素なんだし。そんな闇とどう向き合うかが、『(から)の洞窟』の試練で問われた内容だったんだ。


 正直、アタシはカロラインみたいに、『嫉妬することの何が悪い!』なんて開き直れないわ。嫉妬は悪いことだと思うし、醜くも感じてしまう。


 それでも試練を乗り越えられたのは、『醜いアタシでも女王には変わりない』、『アタシのような女王がいても構わない』と割り切ったからよ。これからも、無様に這いつくばりながら女王を続ける。そういった覚悟を、あの試練で決めたつもり。


 これが正しい選択だったのかは分からない。でも、後悔しない選択なのは間違いないわ。


「ふぅ」


 ふと、息を吐くアタシ。走らせていた筆を止め、それを持つ手をグネグネと解した。


 アタシは今、私室にて書類仕事を行っていた。国家存亡の危機でも、女王に書類仕事は回ってくるのよ。暫定政府と大差ない状態だから、サインを記入するだけの簡単な作業だけどね。


 今後、本格的な仕事が舞い込んでくるかと思うと、少し気が滅入る。王女時代、この手の作業はまったく触れていなかったから、余計に疲れるのよ。


 しかし、弱音は吐いていられないわ。配下たちはアタシ以上の仕事量をさばきつつ、フォラナーダの課す訓練もこなしているんだもの。


「とはいえ、そろそろ休むか」


 時計の短針は、あと少しで頂点を超える。明日も地獄の修行が待っている以上、無理はできなかった。


 アタシが手元のハンドベルを鳴らすと、三秒と置かずノックが響き、一人のメイドが入ってきた。


「失礼いたします、陛下」


 慇懃(いんぎん)に一礼するのは、アタシの幼馴染みであり、傍仕えのヴェロニカだった。


 頭を上げた彼女は尋ねてくる。


「どのようなご用向きでしょうか?」


「今日はもう休もうと思ってね。こっちはサイン済みの書類だから、片づけてちょうだい」


「承知いたしました。お休みということでしたら、安眠効果のあるハーブティーをご用意いたしましょうか?」


「そんなもの、残ってたの?」


「ゼクスさまが譲ってくださりました」


「なるほどね。せっかくだし、いただくわ」


「はい。少々お待ちください」


 アタシの肯定を受けたヴェロニカは、テキパキと作業を始める。指定した書類の片づけとお茶の準備を、手際良く並行して行っていった。


 相変わらず、そつのない子だ。国がこんな状態でなければ、結婚相手も引く手あまただったろうに。


 我が国の貴族は基本的に十五で婚約し、十八で結婚する者が多い。十五歳のヴェロニカは、見事に適齢期だった。


 結婚のみが幸せとは言わないけど、幸せの一片を削ってしまったことは申しわけなく思う。アタシがもっと強ければ、なんて不遜な考えが脳裏に浮かぶ。


 ……いけない、いけない。すぐにネガティブな思考に走るのは、アタシの悪い癖だ。気を付けないと。今は、ヴェロニカが用意してくれるハーブティーを楽しもう。


 次第に、室内には心地良い香りが漂い始めた。決して強い香りではないものの、スゥと体に染みるような、落ち着く匂いである。


「お待たせいたしました」


 そう言って、ヴェロニカがティーカップをアタシの前に置く。ゆらゆらと湯気が立ち、先程よりも濃い香りが鼻腔(びこう)をくすぐった。


 早速、一口いただこうと手を伸ばしかけたんだけど、アタシは一つの問題に気づいた。


「あなたの分は?」


「わたしはメイドですので」


 メイドは主人と飲食をともにしない。暗にそう語っているのが分かった。


 アタシは溜息を吐く。


「アタシとあなたの仲だし、気にしないわ。自分の分も用意しなさい」


「しかし――」


「しかしもカカシもないわ。それに、さっきから気になってたけど、言葉遣いも変なのよ。ここにアタシたち以外の耳目はないんだから、いつも通り話してちょうだい。……反論は受け付けないわよ?」


「………………はぁ」


 長い沈黙の後、今度はヴェロニカが溜息を吐いた。


 彼女は取り出したもう一つのカップへ、ポットのお茶を注ぐ。それから、アタシの対面に椅子を用意して腰かけた。


「女王になっても、その頑固なところは変わらないのね」


「簡単にヒトが変わるなら、誰も苦労や悩みはしないわよ」


「それもそうね」


 若干呆れ交じりの同意を得たところで、ようやくカップに口をつける。


 すると、アタシたちは同時に言葉を漏らした。


「「おいしい」」


 疲れた体に染み渡るような、そんな優しい味だった。確かに、これなら安眠を手助けしてくれそうである。


 ただ、それ以上に気になったのが、ヴェロニカもお茶の味に驚いていた点だった。


「まさか、味見してなかったの?」


 こっちの指摘に、彼女はバツが悪そうにソッポを向く。加えて、出来損ないの口笛も吹く始末だった。


 アタシは半眼をヴェロニカに向ける。


「仮にも女王へ提供するお茶なのに、それはどうなのよ」


「が、害の有無は、ちゃんと確認したから」


「それは最低限の義務よ。どうせ、貰った茶葉を早く使ってみたかったとか、そんな考えだったんでしょう?」


「うっ」


 言葉に詰まる彼女を見て、図星だと把握するアタシ。


 ヴェロニカは、趣味に関しては猪突猛進になる悪癖があった。お茶や掃除などで、その顔をよく見せるのよ。


 まぁ、欠点らしい欠点を持っていた方が、ヒトとして好感を抱けるけども。


 少し笑みを溢しつつ、アタシは彼女に問うた。


「あなたから見て、このお茶はどう?」


「素晴らしいわ。もっとたくさん貰いたいくらい!」


 即答である。それほど、彼女のお眼鏡にかなったらしい。


 アタシはさらに笑みを深める。


「じゃあ、折を見て、ゼクスに頼んでみるわ」


「えっ、いいの?」


「構わないわ。これくらいで機嫌を損ねるほど、彼も狭量じゃないでしょう」


 ゼクスとは短い付き合いだけど、その程度は分かる。色々とインパクトが強すぎるのよ。


 それに、普段世話になっている幼馴染みへの小さな恩返しと思えば、このくらいの手間はワケないわ。


「ありがとう!」


 うん。口約束だけでも、満面の笑顔を見せてくれるんだ。ちゃんと約束は履行しよう。


 その後も、アタシたちは雑談を交わす。


 お茶の効果もあってか、久方振りにリラックスして楽しめた気がした。


 ただ、雑談の中で笑えなかったことが一点。


 フォラナーダから訓練を受けている配下たちが、二つの派閥に割れているらしい。


 すわっ、内乱勃発か!? と肝を冷やしたが、何てことはない。オルカとニナ、どちらの教官が素晴らしいかという、実に下らない内容だった。


 いや、当人たちは本気なんだろうけど、そんなことで言い争える体力があるなんて、ずいぶん余裕なのね。


 その話を聞いたアタシは、頬を引きつらせるしかなかったわ。





 ――――――――――――――


 余談:オルカ派は男性が多く、ニナ派は女性が多い。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
では私はニナ派で参戦する事にいたします、対戦よろしくお願いします
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