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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter22-4 虚像(1)

 虚像のオレ――黒ゼクスは、水を得た魚のようにペラペラと喋る。


「そこまで力を求める意味はあるのか? もう、お前は目的を達した。すでにお前の力は****を超えてる以上、『家族を守る』なんて建前も成り立たない。現時点で、十分外敵には対処できるはずなんだからさ」


 どうして、未だ強くなろうとするんだ?


 そう締めくくった彼は、目にも留まらぬ速さで距離を詰めてきた。さらには、いつの間にか手にしていた短剣を振り下ろしてくる。


 当然、オレは防御した。【位相隠し(カバーテクスチャ)】から同じ短剣を取り出し、神化を発動した上で、その凶刃を受け止める。


 ガキンと甲高い音が響き、オレたちの刃はピタリと止まった。かなり力を込めているのに、金属のこすれ合う音一つ鳴らない。それは、彼我の腕力や技術が完全に拮抗している証左だった。


「ほぅ」


 オレは感嘆の声を漏らす。


 正直言うと、オレは『(から)の洞窟』を侮っていた。自分自身のコピーを生み出すといっても、オレほどの強者が対象だと劣化版になると踏んでいたんだ。


 しかし、現実は違った。アカツキの名前を口にできない(認識していない)なんて不具合は生じているものの、実力はしっかり模倣しているように思う。体や魔力の動かし方は、オレと瓜二つだった。


 想像以上に楽しめそうだと内心ほくそ笑んでいると、黒ゼクスは再び言葉を紡ぐ。


「今より強くなるなんて、お前にとってデメリットの方が大きいじゃないか。大事にしてるはずの家族と、どんどん離れていくんだから。精神的に、価値観的に、そして物理的に」


「……」


 反論は一切せず、向こうの死角となる宙に、十発の【銃撃(ショット)】を展開する。しかも、魔眼【皡炎天眼(こうえんてんがん)】によって作り出した炎弾だ。命中すれば、大ケガは免れない。


 ――まぁ、当たらないわけだが。


 伊達にオレの虚像ではない。お喋りしていても、彼は警戒を怠っていなかった。魔弾の発射を察知すると同時に、身を翻して回避される。


 一応、足止めしようと試みたけど、同一人物ゆえに先読みされ、対処されてしまった。


 踊るように距離を取った黒ゼクスは、やはりお喋りを続ける。


「現時点でも、お前の最期が孤独なのは確定している。誰も走り続けることはできず、追いつけもしない。健気な恋人たちでも、いつかはタイムリミットが訪れる。にもかかわらず、お前は鍛えるのを止めない。他の術理なんて新たな分野にまで手を伸ばし、力を求め続けてる。そんなバカなマネができる理由は、考え得る限り二つだ。鍛錬に没頭して現実から目を背けている真正の阿呆か――」


 そこで彼は一拍置き、スッとオレを指差した。


「家族よりも鍛錬を優先したいと願う、力に魅せられた覇者か」


 その言葉を最後に、静寂が場を支配する。身じろぎどころか、微かな呼吸の音さえ消えていた。観客であるサザンカ、プリムラまでも、固唾を飲んでいる状況である。


 二人の反応は無理もないか。サザンカとは、まだ半年ほどの付き合い。プリムラに至っては、出会ってから数日しか経っていない。黒ゼクスの指摘に疑念を挟めるほど、オレの本質を理解できていないのは当然だった。


 オレは溜息交じりに沈黙を破る。


「戯言は終わりか?」


「……」


 黒ゼクスは答えない。こちらへ、試すような視線を投げかけてくるだけだ。


 答えを示せということだろうか? 試練の性質を考慮すると、当たっているとは思うが……。


 少し逡巡した後、再び口を開く。


「サザンカ。これが落ち切ったら、教えてくれ」


 【位相隠し(カバーテクスチャ)】を開き、彼女の手の上に砂時計を落とす。


「これは?」


「きっかり五分だ。そのタイミングで終わらせる」


「……あい分かった」


 最初は怪訝そうだったサザンカだが、最低限の意図は察してくれた様子。小さく頷くと、砂時計を反転させた。


 五分のカウントダウンが始まるのを見届けたオレは、改めて黒ゼクスを見据えた。


 律儀に待機してくれていた点から分かる。彼は、一から十までオレを模倣しているわけではなさそうだ。あくまでも、試練として生み出された存在なんだろう。オレだったら、問答無用で攻撃を仕掛けているもの。


 もう一本の短剣を取り出し、手の中でクルクル遊ばせながら構える。


 こちらに呼応するよう、黒ゼクスも二本の短剣を構えた。


 お互いに殺意を滾らせ、それに比例して場の緊張感も高まっていく。漏れ出る魔力が半実体化しているみたいで、洞窟内をカタカタと微かに震わせた。


 中身はどうあれ、実力はオレそのもので間違いない。放たれるプレッシャーは、なかなか鋭かった。直接相対していないサザンカやプリムラでさえ、顔色を悪くしている。


 とはいえ、オレの敵ではないんだけどね。


 オレはすでに、この戦いの勝利を確信していた。いくら自身のコピーと言えど、必ず勝てるという実感があった。


 これは黒ゼクスが登場する前から予期していたけど、先程の一合によって、より明確になったんだ。


 では、五分の制限時間を設けた理由は何なのか。


 正直、数字にはあまり意味がない。制限時間を設けたかっただけである。


 何せ、自分自身と戦うなんて貴重な機会だ。あらかじめ制限しておかないと、無限に遊び続けてしまうだろう。それを防ぐためのものでしかなかった。勝つだけなら秒で終わる。


 さて。そろそろ始めようか!


 今度は、こちらから仕掛ける。神化した脚力を存分に活かし、黒ゼクスの背後に回り込む。それから、すくい上げるように二本の短剣を薙いだ。


 無論、あちらは攻撃をきっちり防ぐ。神化した身体能力と魔眼による向上した動体視力を用い、的確に自身の刃を合わせてくる。


 今回は一合で終わらない。鍔迫り合いにはしない。素早く全身を動かし、縦横無尽に黒ゼクスを斬りつける。黒ゼクスも同等の速度で刃を振るい、すべての攻撃を防いだ。


 最初こそ攻防がハッキリ分かれていた戦況だったが、そのうち黒ゼクスも攻撃を織り交ぜてきた。お互いに高速移動し、幾重もの斬撃が舞う。


 両者の実力は超常。刃を届かせるため、徐々に速度が上がっていくのは必然だった。次第に触れ合う刃の金属音は短くなり、地面を踏む時間も一瞬より短くなる。


 最終的には、ヒトの感覚では認識が困難になるほど、オレたちの衝突は短く小刻みになった。“チッチッチッチッ”と連続で鳴る音未満のそれこそ、オレたちが攻撃し合う瞬間だった。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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