表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

852/1166

Chapter22-3 カリキュラム(1)

 フェインに対する尋問は、あっという間に終わった。【刻外】をもってすれば、実質一瞬で終わるんだから、本当に便利である。


 むしろ、尋問に入るまでが大変だったな。監視を許可しているにもかかわらず、ガンガーティアやミュコーヘンを筆頭に、多くの貴族が反対してきたんだよ。


 魔法という未知に人一倍の警戒心を抱いているのは分かる。彼らは天翼(てんよく)族の魔法によって、ここまで追い詰められているんだから。


 でも、もう少し柔軟に対応してほしいところだ。何せ、当のフェインが諜報方面の技術を熟知しているという。手のうちを知られている吸血鬼たちでは、情報を搾り取れるわけがない。


 そんなこんなで何とか説得し、オレとサザンカが尋問を行った。


「も、もう終わったの?」


「お疲れさまです、お兄さま、サザンカさん!」


「お、おお、お疲れさま、で、です」


 【刻外】を解除して以前利用した会議室に出ると、外で待機していたプリムラ、カロン、スキアが声を掛けてきた。他にも多くの貴族たちがいるけど、彼らは遠巻きに見守っているだけである。


 プリムラの方が、カロンよりも口を開くのが早いのは少し驚いた。それほど、今回の一件を重く受け止めていた証左か。


 恋人二人に「ありがとう」と頬笑みつつ、プリムラに答える。


「おおむね予想通りの内容だったかな」


「予想通りって、どういうこと?」


 前のめりに尋ねてくる彼女に対し、オレは『どうどう』と両手を掲げる。


「まぁ、落ち着け。二名ほど、酷く疲れてるんだ。彼らに休息の時間くらいは儲けてやれ」


「え? あっ!」


 こちらの指摘により、ようやくオレ以外のメンバーに意識が向いたらしい。


 【刻外】内に同行していたのは、オレとサザンカ以外にもいた。ガンガーティアと五人の貴族が、監視役についていたのである。


 彼ら六人の顔色は、一様に青ざめていた。五公(ごこう)――もう四公(しこう)か?――の矜持か、ガンガーティアだけは気丈に振舞おうとしているものの、他五人は膝や両手を地面についていた。今にも吐瀉しそうである。


 否。実際に、尋問中に吐いていた。今の彼らが持ち堪えられているのは、すでに胃の中身が空っぽだからだった。


 一方、オレとサザンカは平然としている。お互いに、この手のことは慣れていた。


 ガンガーティアたちの惨状に気づいたプリムラは、メイドのヴェロニカに向かって「水を用意して!」などと、慌てて指示を出し始める。


 カロンとスキアは、そんな彼女をなだめながら、看病に協力していた。


「……行ったのは尋問(・・)で間違いないのだな?」


 室内が少し騒がしくなる中、訝しげに問うてきたのはミュコーヘンだった。彼は、五公(ごこう)で唯一、プリムラの傍に控えていたんだ。


 ちなみに、バウントードとライネルは警備に回っている。裏切り者たちを一掃した以上、天翼(てんよく)族たちの増援が送られてくる可能性が高いためだ。


 オレの結界で十分対応できるんだけど、丁重に断られた。というか、解除してくれと懇願された。


 無論、素直に応じたさ。警備に回っている者たちの立場がないし、部外者(オレ)に生殺与奪権を握られることが怖いのは分かる。


 閑話休題。


「当然だろう? 物理的には(・・・・・)、一切傷つけてない」


 ミュコーヘンと質問に、オレは肩を竦めて答えた。ついでに、サザンカに視線を向けて同意を求める。


 彼女は苦笑を漏らした。


「うむ。嘘は吐いておらんな。フェインとやらは五体満足じゃ」


「何なら、この場に出して証明もできる」


「そうか……」


 オレたちの言葉を聞き、彼は得心してくれたらしい。疑念は未だくすぶっているようだけど、本当にフェインは傷ついていないので問題ない。


 その後すぐに、ミュコーヘンもプリムラたちの手伝いに向かう。オレとサザンカの二人だけがポツンと残された。


 幾許かの沈黙が流れた後、サザンカが呟く。


「にしても、物は言いようじゃのぅ」


「何が?」


 向けられた半眼に対し、オレは惚けてみせた。


 すると、彼女は溜息を吐く。


「『何が?』ではないわ。確かに、物理的にはフェインを傷つけておらん。しかし、精神的にはボロボロではないか」


「それだって、元に戻したじゃないか」


「だからこそ、監視たちも恐怖したんじゃろうて。あそこまで壊れた者が元通りなど、意味不明すぎる」


「大袈裟だなぁ」


 サザンカの苦言を、肩を竦めて受け流すオレ。


 実際のところ、オレがやったことは、そこまで酷くない。沈黙や嘘を吐いたフェインに、精神魔法で“痛み”を与えただけだ。それこそ、警策(きょうさく)を使った瞑想の訓練と同じように。


 多少威力を上げたことは否定しないが、それでも、戦闘で傷つくよりも若干痛い程度に抑えた。大袈裟に見積もっても、拷問の域を出ない行為だったはずである。


 予想外だったのは、フェインの堪え性のなさだな。あんな簡単に狂うとは思わなかったよ。


 まぁ、お陰で、精神状態を一定時間巻き戻す【クリアマインド】を試す良い機会にはなったけどね。この魔法、記憶はそのままだから、かなり話し合い(・・・・)に有用だった。


 あと、堪え性がなかったので、ペラペラと情報を吐いてくれたのも助かった。今後の戦に役立つものも、いくつか得られたし。


 フェインの語った内容を思い出し、オレは目を細める。


「しかし、先代女王の存在は、想定していたよりも大きかったみたいだな」


「そりゃそうじゃ。王にして死鬼(しき)。その二つの肩書は、あまりにも重い」


 どうにも、先代はフェインの裏切り行為を見逃していたみたいなんだよね。一定ラインを踏み越えそうなら牽制し、時には逆スパイのように情報を抜き取っていたらしい。


 さすがという他ない。獅子身中の虫を上手く使いこなす手腕は、アリアノートを彷彿とさせる。先代の場合、さらに高い戦力まで保有しているんだから、ヤバすぎた。


 どうりで、あの曲者ぞろいの五公(ごこう)を束ねていたわけだ。


 フェインの一件を考慮すると、今後も身内から噴出するものがありそうだ。裏切りか、はたまた別の問題かは分からないが、絶対に何か秘められている。


「連合軍の結成へ動く前に、吸血鬼たちをしっかりまとめないとなぁ」


「どうするんじゃ? 内部統制は、相応の時間を要するぞ」


「うーん」


 サザンカの言う通り、正攻法で内部の膿を解消していこうとすると、かなりの時間がかかる。それは望ましくない展開だ。チンタラしていたら、帝国との戦争が始まってしまう。


 となると、方法は一つしかない。


「現女王を鍛えよう。最低でも、戦闘力は先代に匹敵させたい」


 先代と同じ方法で、曲者ぞろいの連中を制御する。それが最短の手段だ。だが、短期間でそこまで育つかは未知数である。ゆえに、せめて力で抑えつけられるようには育てておきたい。


 オレの答えを聞いたサザンカは、小さく溜息を吐く。


「それしかないか。ご愁傷さま、じゃな」


「酷い物言いだな。これは彼女も望むことだろう?」


「だからこそ、じゃよ。不憫で仕方ないわい」


 どうやら、新参の部類である彼女にも、オレの訓練の誤解が広がっているらしい。まったくもって遺憾である。


 まぁ、良い。今はこれからの計画を立案しなくてはいけないんだから。


 看病に奔走する現女王――プリムラを眺めながら、オレは静かに思考を回し続けた。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
プリムラさん、フォラナーダブートキャンプへようこそw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ