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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Digression-Zex あの時を振り返って【書籍2巻発売記念】

本日は2話投稿しております。一つ前に本編がありますので、ご覧になる際は注意してください。

 フォラナーダの城下町南西部、町一番の大通りと合流する場所に噴水広場がある。多くの人々が行き交うそこに、オレ――ゼクスはいた。噴水の傍に備えられたベンチに腰掛け、ボーッと人混みを眺めている。


 オレが何をしているのかといえば、デートの待ち合わせだった。今日はシオンと外出する約束をしていたんだ。


 何故、わざわざ外で待ち合わせしているのかって?


 もちろん、雰囲気作りのためである。毎回とはいかないけど、時折、こうして城とは別の場所で集まる約束をしているんだ。その方がテンションも上がることが多い。


 ちなみに、今のオレは認識阻害の精神魔法を発動しているので、これから訪れるシオン以外には認知されていない。ヒトがいるとは分かるが、誰がいるかまでは判断できないんだ。そうでもしないと、大騒ぎになってしまうからな。


 久方振りののんびりした時間をすごすこと幾許か。広場にどよめきが広まった。「すっごい美人」やら「女神だ」やら「きれい」みたいなセリフが聞こえてくるので、おそらくシオンが到着したんだろう。


 気持ちはよく分かるが、オレの恋人の行く手を遮るのはいただけない。オレはベンチから立ち上がり、騒動の中心――シオンの下へ向かった。


 するすると人混みを抜けた先には、やはりシオンがいた。思わずニンマリしてしまうほどステキな姿だった。


 普段シニョンにまとめている髪は、下ろした上で若干のパーマをかけている。


 服装は、ランタン袖の黒いシャツにグレージュの袖なしニットワンピースの組み合わせで、上にはセージグリーンのポンチョを羽織っている。穏やかさを感じさせる、実にシオンらしい格好だ。


 周りの視線を居心地悪そうに受けながら歩いていたシオンは、オレの姿を認めた途端、パァと明るい笑みを浮かべた。そして、パタパタと小走りで近寄ってくる。オレの方も彼女に歩み寄った。


「お待たせして申しわけございません。思ったより仕度に手間取ってしまって」


「構わないよ。恋人の身支度に野暮なことは言わないさ。それに、こんなにステキな姿を見せてくれたのなら、待った甲斐もある。キレイだよ、シオン」


 謝罪を口にするシオンに対し、オレはキザッたらしいセリフを吐く。ついでに、軽く彼女の頬も撫でた。


 すると、どうだろう。シオンの顔は瞬く間に赤く染まり、あうあうと口を開閉させた。


 いつもの彼女なら、ここで気絶の一つや二つはするところだけど、


「……ッ。あ、ありがとうございます!」


 これまでの訓練の成果は出ており、何とか持ちこたえていた。顔は赤いものの、意識はしっかり保っている。


 とはいえ、可愛らしさは何も失っていない。オレに褒められて嬉しいのか、彼女はギュッとワンピースの裾を握り締めていた。


 シオンは仕事とデートでギャップが激しいんだよなぁ。見ていて、本当に飽きないよ。


「それじゃあ、行こうか」


「はい」


 愛でるのもそこそこに、オレはエスコートのため、片手を差し出す。彼女ははにかみ(・・・・)ながら、こちらの手を取ってくれた。








 まず向かったのは、最寄りの商店街だ。城下町一番の大通りに沿っているため、規模も種類も豊富。地元で生活しているオレたちでも、十二分に楽しめる場所だろう。


 先程の噴水広場よりも人通りが多いが、そこまで苦労することなく進める。ちょっと精神魔法を使えば、自分たちの進行方向に僅かな隙間を空けるくらい造作もない。


 腕を組み、意気揚々と道沿いの店を眺めていくオレたち。シオンは顔が赤いままだけど、十分に今を楽しんでいるようだった。


 ウィンドウショッピングを続けている最中、ふと、オレは呟く。


「そういえば」


「どうかしましたか?」


「いや、似たようなことがあったと思ってな」


 噴水広場で待ち合わせして、こうして腕を組んで、商店街を散策して。細かい点は違うけど、同じ流れが以前にもあった。


 オレの言葉で思い出したのか、シオンはクスリと笑う。


「そうですね。私とゼクスさまの記念すべき初デートが、似たような感じだったと思います」


 そう。今から約十年前。カーティスの件で落ち込んでいたシオンを励ますため、オレがデートに誘ったことがあった。今日のデートプランは、その時と実によく似ていたんだ。


 シオンは懐かしそうに目を細める。


「今思えば、あの日がゼクスさまを慕うキッカケでした。あのデートがなければ、今の私はいなかったと思います」


 万感の想いが込められた風な声音。


 大袈裟な、という言葉が脳裏に浮かびつつも、声には出さなかった。彼女にとっては、かけがえのない思い出なんだと感じたから。それを無粋に否定してはいけないだろう。


 代わりに、オレは笑顔で言う。


「あの時は確か、この辺りにあった露店で、アクセサリを買ったんだったな」


「はい。この双翼のブローチをいただきました。大切な大切な宝物です」


「なんだ、今日もつけてたのか。ポンチョの下に隠れてて気づかなかった」


「すみません。傷つかないよう、あまり表に出したくなくて」


 こちらの指摘に、バツが悪そうに苦笑を溢すシオン。


 少し本末転倒な気がするけど、それだけ大事にしてくれているのなら、彼氏冥利に尽きるのかな。付き合う前の話だったけども。


 オレは小さく笑いつつ、周囲を見渡した。そして、目的のものを発見する。


 日頃の行いが良いのか、運がいいな。


「シオン。どうやら、あの時の露店が同じ場所にあるみたいだぞ」


「えっ? あっ、本当ですね」


「せっかくだから、また何か買おう。今度は、おそろいの何かを」


「はい!」


 満面の笑顔を浮かべるシオンを連れ、露店に近づいていく。


 その後もデートは順調に進み、とても楽しい一日をすごすオレたちだった。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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