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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第一部 Main stage

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Interlude-Orca 気持ちの正体

時系列は「家族」の手前辺り。

 ボク――オルカは、カロンちゃんを伴って、いつも通りダンくん、ターラちゃん、ミリアちゃんの三人と遊んでいた。


 ダンくんたちマグラ兄妹が油粘土を持ち寄ってきたので、今日はそれを使って創作活動に勤しむことになった。広場の隅に寄って、あーでもないこーでもないと言いながら粘土をこねる。


 そんな折だった。


「機嫌良さそうだね、オルカちゃん」


「そう?」


 ふと、ミリアちゃんが声をかけてきたんだ。


 思わぬセリフに、ボクはキョトンと首を傾ぐ。


 すると、粘土細工に四苦八苦していたダンくんが大きく頷いた。


「ああ、すげー嬉しそうな顔してたぞ」


「うん、鼻歌まで歌ってた」


 便乗するように、ターラちゃんも返してくる。


 そ、そんなに上機嫌だったんだ。鼻歌なんて、完全に無意識だったよ。


 少し頬を引きつらせるボクに、改めてミリアちゃんが問うてくる。


「何かいいことでもあったの? ここまで機嫌がいいの、珍しいよねー」


「うーん」


 そこまで上機嫌の自覚がなかったから、答えに窮してしまう。鼻歌しちゃうほど嬉しいことなんて、何かあったかな?


 アゴに指を添えて視線をさまよわせて(・・・・・・)いると、今まで黙々と粘土をいじっていたカロンちゃんが口を開いた。


「お兄さまから、お褒めの言葉をいただいたからでは?」


 何を当たり前のことを、と呆れた様子で溢して、彼女は粘土いじりに戻ってしまう。


 一方のボクは、とても得心がいっていた。なるほど、それ以外にボクが喜ぶ理由があるわけない。確かに、カロンちゃんが呆れるのも無理はなかった。


「えっと、どういうこと?」


「ゼクスに何を褒められたんだ?」


 事情を知らないミリアちゃんとダンくんは、そろって小首を傾げた。ターラちゃんも声は出さないものの、不思議そうな顔をしている。


 ボクは、またしても答えに窮してしまった。


 というのも、ゼクス(にぃ)に褒められた内容というのが、この前のカーティス襲撃事件に関係した話だったためだ。


 あの事件の時、ボクはフォラナーダの指揮を執っていた。襲撃直後はもちろん、スタンピード以降もカーティスの追撃に二人が向かったから、ボクが代理の指揮を務めたんだ。万が一にも魔獣が領都へ到達してしまった場合への備えだったり、襲撃の痕跡の隠蔽だったり。錯綜する情報をまとめ、みんなが混乱しないよう頑張った。


 事件後に、その成果を改めて褒められたんだよね。「よくやった」とか「今後はある程度の仕事を任せてもいいかもしれないな」とか。


 ボクが隠れて色々努力していたと知っていてくれたのもそうだけど、こうやってしっかり(・・・・)褒めてくれるのがゼクス(にぃ)のステキなところだと思う。気持ちがポワポワして、もっと頑張ろうって気合が入るもん。


 とはいえ、スタンピードの発生はともかく、一連の襲撃は内々に処理を済ませたので、軽々にダンくんたちに語るわけにはいかないんだ。


 ちょっと待ってねと三人に返してから、ボクは頭をひねる。詳細は伝わらないけど、ボクがどうゼクス(にぃ)に褒められたかが分かる話し方を考える。


 まぁ、家の事情で話せないと答えれば、ボクたちの素性を知っている彼らは引き下がってくれるんだけど、それでは詰まらない。ゼクス(にぃ)に褒められた事実を、ボクはみんなに自慢したかった。


 ちなみに、カイセル(にぃ)たちには、すでに自慢している。兄は領城で文官として勤務しているから、内緒にする必要がなかったんだ。一時間語り通したところで、すごく呆れた顔で止められてしまったのは解せない。もっと話したかったのに。


 閑話休題。


 とにかく、ボクは語りたくて仕方なかった。だから、多少労力がかかろうと構わない。ボクが如何(いか)にゼクス(にぃ)の役に立って、どう褒められたのか、存分に語り明かすんだ!


 しばらくして。頭の中に文章がまとまったので、話し始めるとしよう。お待たせと言うと、粘土いじりに戻っていたダンくんとミリアちゃんが、こちらへ意識を向けてくれる。


 ……あれ、ターラちゃんはどうしたんだろう? こっちに気は向けているけど、何故か関わりたくないって感じの気配が漏れている。


 声をかけて上げたいんだけど、カロンちゃんの傍に座っているんだよね。彼女にゼクス(にぃ)関連の自慢話を聞かせるほど、ボクは空気が読めないわけではないし。絶対に怒らせちゃうよ、重度のブラコンだから。


 仕方ないので、二人だけに語って聞かせることにした。さぁ、ご高覧あれ!








「解せぬ」


 一時間後、ボクは三角座りで地面に円を描いていた。


 何故かって? ついさっき、ダンくんとミリアちゃんに「話がくどい」って怒られたからだよ。なんだよ、せっかく語り聞かせてあげたのに。まだ、ゼクス(にぃ)に褒められるのが如何(いか)に名誉なのかを伝え切れていないんだぞ。


「オルカちゃんって、ゼクスくんのこと大好きなんだね!」


 ブツブツと文句を呟いていると、ミリアちゃんがそんなことを言った。キラキラした瞳を向けてくる。


 何を当たり前のことを言っているんだろう。今さらの話に首を傾いでいると、カロンちゃんと一緒に黙々と作業を続けていたターラちゃんが言葉を継いだ。


「オルカさんだけじゃなくて、カロンさんも。二人の兄に対する情熱は異常」


「「わかる」」


 ターラちゃんの失礼な発言に、ダンくんとミリアちゃんは力強く頷いた。


 ボクは唇を尖らせる。


「むっ、異常は言いすぎじゃない? ねぇ、カロンちゃん」


「確かに(わたくし)はブラコンと称されるほどお兄さまを愛していますが、異常と言われるのは些か心外です」


 さすがに自分の話をされたからか、カロンちゃんは手を止めて反論した。ボクも、そうだそうだ! と追随する。


 それに対して、三人は揃って頬を引きつらせた。


「自覚ねーのか」


「あはは、仲良し兄妹だね」


「仲良しってレベルじゃないと思う」


「やっぱり失礼だよ、三人とも」


 ジトォと半眼で睨むものの、ダンくんたちはうろたえない(・・・・・・)。むしろ、生暖かい目をボクたちに向けてきた。


 ボクとカロンちゃんが釈然としない気持ちでいると、先程から目を輝かせていたミリアちゃんが口を開いた。


「ねぇねぇ。カロンとオルカちゃんは、やっぱりゼクスくんのことが好きなの?」


「うん」


「はい」


 即答するボクたち。さっきから、そう言ってると思う。何でもう一度訊いたんだろう。


 顔を見合わせて怪訝に思うボクとカロンちゃん。


 すると、ミリアちゃんは「違うよー」と首を横に振った。


「家族として好きなのは十分すぎるほど分かってるよ。恋しちゃってるのかって訊いてるの!」


「「恋??」」


 あまりに予想外のセリフに、ボクたちは呆然としてしまう。


 そこへ、ターラちゃんが焦った様子で口を挟んできた。


「ミリア、いくら何でもそれは」


「だって、ここまで好き好きオーラ全開なんだよ。可能性はあると思うなー」


「いや、まぁ、もしやとは考えちゃうけど……」


 反論し切れず、ターラちゃんは言葉尻をすぼめてしまった。そんなにオーラ全開なの、ボクたち?


「か、カロンは、ゼクスのことが、す、すすす好きなのか!?」


 不意に大声を上げたのは、ダンくんだった。先程までボクとミリアちゃんの傍にいたはずなのに、いつの間にかカロンちゃんの前に立っている。しかも、前のめりに詰め寄って。カロンちゃんがドン引きしてるから、少し下がった方がいいよ。


 まぁ、ダンくんの気持ちを考えると()もありなん。実は……って言うほど隠せていないけど、彼はカロンちゃんのことが好きなんだよねぇ。その好意はめちゃくちゃ分かりやすくて、気づいていないのは当のカロンちゃんくらい。彼女、他人の機微には聡いはずなのに、恋愛関係になると途端に鈍いんだよね。


 親友としては応援したいんだけど、あまりにも無謀。カロンちゃんはダンくんを異性として全然意識していないし、そもそも地位の差が離れすぎている。彼が英雄レベルの活躍をしないと、その恋が叶う未来はない。


 案の定、カロンちゃんはキョトンとした様子。うん、脈ナシだね。


「恋、ですか……」


 何か思うところがあったのか、カロンちゃんが小さく溢す。それから、言葉を紡いだ。


「正直に申し上げると、分からないです。(わたくし)は恋が何たるかを理解していないので。ただ、ずっとお兄さまの味方でいたいとは考えています。たとえ世界のすべてがお兄さまと敵対しようと、(わたくし)は傍にあり続けたいです」


 そこに込められた感情は強烈だった。絶対に翻らない信念を感じた。思わず息を呑んでしまうほどの気迫があった。


 そっか。カロンちゃんは、そこまで覚悟を決めていたんだ……。


 ボクは自身を顧みる。ボクは、ゼクス(にぃ)に対して、どういった感情を抱いているんだろうかと。


 好きなのは間違いない。心より尊敬しているのも確か。カロンちゃんみたいに、ずっと味方でいたいとも思っている。


 では、その想いの根幹は何なんだろうと熟考する。


「ハッキリ答えは出ないかな」


 恋なのかは分からない。ボクも恋が何なのかは知らないから。ゼクス(にぃ)の役に立ちたくて、褒めてほしくて、構ってほしい。この感情が恋だと言うのなら、そうなんだろうけど……実際はどうなんだろうね。


 そも、男のボクがゼクス(にぃ)に恋するって普通なのだろうか? みんな疑問を抱いていないから、おかしくはないと思うんだけど、何か引っかかるんだよなぁ。


 ボクは訝しげに思いつつも、カロンちゃんに似た回答をした。


 ミリアちゃんは「つまらなーい」なんて文句を垂れる。僕たちはまだ子どもなんだし、こんなものだと思うよ?


 でも、将来的には答えが出るのかな。お父さんとお母さんがそうだったように、カイセル(にぃ)とリユーレ(ねぇ)がそうだったように、ボクの隣にも誰かが立つ日が来るのかもしれない。当然、ゼクス(にぃ)にも。


 そんな未来を想像したボクの胸中には、どうしてか寂しさが湧いていた。




 余談になるけど、黙々と粘土をいじっていたカロンちゃんは、十分の一サイズのゼクス(にぃ)を制作していた。本物と見紛うほど精巧で、少し彼女が怖くなったのは内緒だ。

 

さらに余談:カロン以外、オルカの性別を忘れています。


次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
オルカちゃんw 粘土でフィギュア作るとか凄い執念だ
偶にオルカ君がちゃんに思えてくるんだよね 不思議だね〜?
情念の結晶フィギュア草w
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