Interlude-Shion 似た者兄妹
本日より17日まで幕間を投稿する予定です。
よろしくお願いします。
フォラナーダ領城にある魔香花の庭園、その中心には東屋が建てられている。もっぱら春先や夏場に活躍するものなのだけれど、冬真っただ中の今日にも関わらず、私――シオンは東屋にいた。
また、同席者が一人いらっしゃった。
「シオン、洗いざらい吐いていただきますよ?」
私の目前でニコニコと笑顔の圧力をかけてくる方、カロラインさまである。
意味が分からない。私はカロラインさまにお声をかけられ、こうして馳せ参じただけなのに。どうして、このような状況に陥っているんだろうか。
というか、彼女の笑顔はとても怖い。普段は春の陽気にも似た明るさを放っているのに、今は夏のカンカンとした直射日光の厳しさを感じる。直視しづらい威圧感を覚えていた。
しかし、いつまでも沈黙を貫くわけにはいかない。状況打破のためもあるが、元凶のカロラインさまが話し合いを求めておられるのだから。
私は勇気を振り絞り、口を開いた。
「カロラインさま。申しわけございませんが、状況が掴めておりません。何を話せば良いのでしょうか?」
「……」
笑顔の沈黙が返ってくる。
すわっ、怒らせてしまったか!? と覚悟を決める私だったが、それは杞憂にすぎなかった。
次の瞬間には、カロラインさまの圧力は弱まっていき、彼女は頬に片手を当てて呟く。
「あら。私、説明していませんでしたか?」
「はい」
私が頷くと、カロラインさまは「それは申しわけありません」と謝罪を口にし、ようやく現状について語ってくださった。……まぁ、その説明に驚愕してしまうのだけれど。
「ほら、シオンがお兄さまに告白をしたでしょう。その辺りの詳細を聞きたかったのですよ。いわゆる、恋バナというものですね」
「え゛!?」
乙女にあるまじき声が漏れてしまった。
でも、これは仕方ないと思う。何せ、あのカロラインさまが私の告白した事実を知っていたのだ。先程の圧力も相まって、恐怖と驚愕が綯い交ぜになるのは当然だった。
私は冷や汗を盛大に掻き、目も右往左往と泳いでしまう。
「え、えっと……ど、どこで、そのことをお知りになったのでしょうか?」
「私が、お兄さま関連で知らないことはほとんどありませんよ」
断言するカロラインさま。
私は恐怖した。この人、ゼクスさまのストーカーでもしているのかと。
すると、彼女はクスクスと笑い出した。
「冗談ですよ。何でも知っているなら、こうして尋ねる必要もないではないですか。告白を知っていたのは、シオンの浮かれ具合を見れば一目瞭然だったからです。あなた、大勢の前でお兄さまをデートに誘ったのですから、簡単に推理できますよ」
私はからかわれていたらしい。些か頬が染まるのが分かる。
とはいえ、状況はあまり変化していない。恐る恐る私は尋ねた。
「告白したのは事実ですが……私の罰は如何ほどに?」
「罰? ……シオン、何か勘違いしていらっしゃいません?」
「えっ、ゼクスさまに手を出そうとした私を、闇に葬るのではないのですか?」
「OK。あなたが、私のことをどう見ているのか、よーく理解しました。お望み通り、闇に葬ってさしあげましょう」
「も、ももも申しわけございません!!」
余計な地雷を踏んでしまったことを察した私は、その場で勢い良く土下座を敢行する。
それを認められたカロラインさまは、深く溜息をお吐きになられた。
「あなた、この前の一件以来、ずいぶんと遠慮がなくなりましたね」
この前の一件というのは、カーティス襲撃事件のことを指しているのだと思う。あれは、私にとって大きな転換期だった。
私は少し頭を上げて言う。
「カロラインさまが、私を姉として慕っていらっしゃるとお聞きしましたから。変にかしこまりすぎても失礼かと愚考いたしました。お嫌でしたら、態度を改めます」
「いえ、そのままで良いです。今のシオンの方が、私は嬉しいわ」
「ありがとうございます」
何とも言えない、気恥ずかしい空気が場を包んだ。完全に自業自得だし、後悔もしていないのだけれど、些か照れくさい。
数分の後、ゴホンとカロラインさまが咳払いをした。
「話を戻しましょう」
「はい」
否はない。
「お兄さまに告白したことに、とやかく申し上げるつもりはありません。それは当人同士の問題ですから」
「お相手がゼクスさまでも、ですか?」
「お兄さまでも、です。本当に、私を何だと思っているのですか、シオンは」
「超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超絶ブラコン妹。これでも”超”は足りないくらいです」
「……否定はできませんね」
「自覚はあるのですね」
いや、あれで自覚がなかったら、相当やばい人間になるけれども。
カロラインさまは肩を竦めになる。
「私の抱いている愛情です。自覚がないわけがありません。”コンプレックス”と評されるのは不満ですが、客観的にそう言われても仕方ないことは理解していますよ」
想像以上に理知的な言葉を耳にして、私は感嘆した。
一方で、自覚がおありになるからこその疑問が浮上する。
「嫉妬なさらないのですか?」
周囲より異常だと思われるほどの愛情を抱いているのに、同じ方へ愛情を向ける私へ恨み節を一つも口になさらない。それが不思議でならなかった。
私の問いを受け、カロラインさまは唇に人差し指を当てて逡巡なさる。
十数秒後、おもむろに話し始めた。
「まったく嫉妬しないとは申し上げられませんね。先程も、少しだけ感情を漏らしてしまいましたし」
少し……?
小首を傾げかけたけれど、話の腰を折りたくはないため、努めて黙する。
「私は多くのモノをお兄さまより頂いているのに、ほとんど返せていません。私もお兄さまの支えになりたいのに、たいていは私が寄りかかってしまいます」
「そんなことは……」
「いいえ、これは純然たる事実です。お兄さまが私に与えているものに対して、私がお兄さまに与えているものは少なすぎます。だから、私は考えました。お兄さまには、とびきり幸せになっていただこうと」
「幸せ……それが嫉妬を抑える理由なのでしょうか?」
微妙に話の繋がりが見えず、私は怪訝な面持ちで尋ねてしまう。
カロラインさまは然して気にした様子もなく、素直に答えてくださった。
「その通りですよ。お兄さまには、たくさんの愛に囲まれてほしい。多くの方々から尊敬されてほしい。そう願っています。ですから、私の小さな嫉妬など無視できるのです。お兄さまの幸せに比べれば、私の嫉妬は些事にすぎません」
「……」
彼女の言葉に、私は呆気に取られてしまう。
片や、妹の幸せのために全部を投げ捨てる覚悟がある。片や、兄の幸せのために自分の感情を呑み込み、すべてを捧げる度量がある。この兄妹、本当に似た者同士だった。兄妹へ向ける愛情が極まりすぎている気がする。
私が内心で呆れている間に、カロラインさまは言葉を重ねられる。
「お兄さまが幸せなら、私はシオンの愛も認めます。だから、教えてくださる? 二人の間にあったアレコレを」
こちらをジッと見つめる瞳は、獲物を前にした肉食獣のようだった。これは逃げられそうにもない。
私は溜息を堪えながら、彼女の要請に応えることにした。もちろん、ゼクスさまの目標関連は伏せさせていただくけれど。
その後の雑談は、数時間にも及んだ。
そんな中で、カロラインさまは意外とムッツリだということが判明した。
次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。




