表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

807/1167

Chapter21-1 門出まで(1)

本日よりChapter21開幕です。

 寒さが一段と増してきた昨今。そろそろ冬休みも明ける時期に、オレ――ゼクスはとある人物と面談する時間を設けていた。


 とある人物とは、先日の幽霊(ゴースト)騒動で保護した異世界転移者、須直(すなお)実湖都(みこつ)。身長は百五十八センチメートル程度で、セミロングの髪をおさげに結んだ地味めの少女だ。年齢はオレの二つ下、十六歳らしい。


 彼女の立場は複雑である。転移者というだけでも奇異の目で見られるのに、絶賛緊張状態の帝国の客分ときた。実湖都(みこつ)の身柄を狙う阿呆が現れるのは、想像に難くない。


 ゆえに、フォラナーダが保護する運びとなった。


 ほぼ押し付けられるような形だったけど、その判断には納得を示している。オレたちのところが一番安全なのは自明だし。


 では何故、このタイミングで実湖都(みこつ)と面談しているのか。彼女を保護してから約一ヶ月は経過しているのに。


 難しい話ではない。実湖都(みこつ)に心の整理ができる時間を与えただけだ。


 捕らえた直後に行った軽いヒヤリングから察するに、彼女は現代日本(オレの前世)とそう変わらない世界の出身と思われる。そんな価値観を持つ十六歳の少女が、他国に捕まった状況で、冷静に振舞えるわけがない。だから、冷却期間を置いたんだ。


 さて、話を戻そう。


 面談の場所はフォラナーダ城の談話室。実湖都(みこつ)を威圧しないよう、開放感のある部屋を選択した。


 普段は誰かしら待機しているんだが、今回は人払いをしていたため、オレと実湖都(みこつ)しかいなかった。


 時間を置いたのは、正解だったみたいだな。


 対面のソファに座る実湖都(みこつ)は、多少の緊張はあるものの、取り乱す様子はなかった。


 まともな話し合いができそうだと心のうちで安堵しつつ、オレは早速口を開く。


「初めましてではないけど、自己紹介をしておこう。オレの名前はゼクス・レヴィト・ガン・フォラナーダ。この伯爵領を治める侯爵だ。少しややこしいかもしれないが、そういうものだと納得してくれ」


「えっと、あの……」


「普段通りに話してくれて構わないよ。今は、どんな発言をしても咎めたりしない。オレも砕けた口調で話してるから、遠慮はいらない」


 言葉に詰まった実湖都(みこつ)を見て、その理由を何となく察したオレ。目を泳がせながら『あの、その』と言葉を選ぼうとしているので、ほぼ間違いないだろう。


「敬語って、意外と難しいよね。『ですます』をつければOKってわけじゃないし。オレも、たまに混乱するんだよ。嗚呼、これは他言無用で頼むよ」


 できるだけ優しく語りかけ、最後は茶目っけを見せた。


 詐欺師みたいな語り口ですごく微妙な気分だけど、彼女の緊張を解すのが優先なので我慢する。


 堪えた甲斐はあったよう。実湖都(みこつ)は頬を染めながら小さく息を吐き、改めて言葉を紡いだ。


「すみません、気を遣わせてしまって。ご存じだと思いますが、わたしは須直(すなお)――いえ、ミコツ・スナオです。フォラナーダ侯爵閣下には生活の面倒を見ていただき、誠にありがとうございます」


 へぇ、意外と喋れるんだな。てっきり、堅苦しい敬語は無理だと思っていた。


 先程までは、単純に緊張していただけみたいだ。オレの気遣いは、完全に余計なお世話だったらしい。恥ずかしいこと、この上ない。


 顔が赤くなりそうなのを何とか堪え、気分を誤魔化すようにオレは話を進めた。


「礼には及ばないよ。微妙な立場とはいえ、キミは捕虜だ。無体には扱えない」


「それでも、ありがとうございます」


「分かった。誠意は受け取っておく」


 そんな社交辞令を交えつつ、話題を移していく。


「報告は受けているんだけど、スナオ殿の口から聞きたい。フォラナーダでの生活はどうかな? 何か困ってることがあれば、遠慮なく言ってほしい」


「今のところは大丈夫です。不自由なく生活できてます。それに、何かあれば、マリナさんやネモさんが手伝ってくださいますから。自由に出歩ける分、帝国にいた時よりも充実しているかもしれません」


 訓練もありませんからね、と遠い目で語る実湖都(みこつ)。帝国から課せられた訓練が、よほどつらかった様子。


 おそらく、フォラナーダの訓練の方がつらいと思うけど、彼女がそれを受ける予定はないから黙っておこう。知らぬが仏である。


「マリナたちは迷惑かけてないか?」


 せっかく話題に上がったので、彼女たちについて尋ねてみた。


 まぁ、話題作りの口実だな。コミュ力の高いマリナが失態を犯すなんて、微塵も思っていない。上手く実湖都(みこつ)と仲良くなってくれると踏んだからこそ、サポート役に抜擢したんだもの。


 予想通り、実湖都(みこつ)は首を横に振った。


「迷惑なんて、とんでもない。二人には、とても良くしてもらってます。こっちの世界で、一番仲良くなれたヒトたちですよ」


「そうか。いい友人となれてるのなら、采配したオレも嬉しいよ」


「友人……そうですね、マリナさんとネモさんはいい友だちです」


 気持ちの良い笑顔を見せる彼女。


 こうして見ると、地味ながら光るものがあるな。少し飾りつければ、愛嬌のある美人に化けそうである。


 思うだけで、口にはしないけど。異性のオレが指摘しては、ただのセクハラだ。そういうのは、恋人たちの誰かが、自主的に行動を起こすだろうさ。


「語れる範囲でいいから、マリナたちとどう過ごしたか教えてくれるか? 少し興味がある」


 前述したように報告は受けているが、実湖都(みこつ)視点の様子を聞いておきたかった。


 すると、彼女は、先程までとは違った笑みを浮かべる。どちらかというと、ニヤニヤという擬態語が似合った。


「いいですよ。恋人のことは、色々知りたいですよね」


 なるほど、オレとマリナの関係はすでに知っていたらしい。


 まぁ、当然か。その辺りを黙っている理由がない。むしろ、明かした方が仲を深められるだろう。恋バナは親交を深めるのにもってこいの話題だ。


 それからしばらく、実湖都(みこつ)たちの交流の様子を聞いた。城下町の散策やショッピング、マリナ主催の食事会などの遊行に始まり、歴史や地理といった勉強会も開いたとか。


 基本的に報告通りの内容だったが、彼女自身が楽しそうに語っているのが印象的だった。ご機嫌伺いの言葉ではなく、心から楽しんでいると知ることができたのは良かった。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ