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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter20-5 永劫の聖剣(4)

 カロンが待ちの姿勢だと理解したんだろう。転移者たちは、戸惑いながらも行動を開始した。


 前衛として突っ込んでくるのは、爽やかくんと如何(いか)にも脳筋っぽい巨漢。全身から雷を(ほとばし)らせ、彼我の距離を一気に詰めてくる。


 速度からして、だいたい三・四倍の【身体強化】と同等かな?


 何とも微妙な数字だ。オレ流の【身体強化】は聖王国内に広まっているため、そこまで脅威とは言えない。制御がニガテな者でも、二倍前後の強化はできるからなぁ。


 かといって、布教前なら無双できたわけでもない。熟練の魔法師であれば、三・四倍程度の強化にも対応できただろう。防御魔法などを駆使して距離を維持すれば良いし、多少の強化は既存の属性魔法でもできたもの。


 動きに緩急をつける目的で、初手に全力を出していない可能性も考えられたが……それはなさそうか。突進してくる二人に、何かを企んでいる感情は見られない。


 一方の後衛と思しき清楚風少女は、大量の雷を周囲に湛えていた。体内から放出する雷を徐々に増やしていき、頭上で一つに固めている。


 前衛二人で足止めしている間に、後衛が大技を繰り出す。定番の戦法だな。


 カロンなら難なく前衛を蹴散らし、後衛に致命打を与えられるはずだが、今回は様子を見ることにしたらしい。オレの“転移者たちの戦力を測る”という意図を汲んでくれたんだ。


 カロンは清楚風少女を一瞥(いちべつ)した後、前衛の二人組を見据えた。そして、両こぶしを構える。


 すでに近接戦闘用の魔法は発動していたよう。彼女のこぶしは光輝いていた。


 あれは結界か。手を傷めないように施したんだろう。


 強化魔法(バフ)を使わなかったのは、過剰強化になり、彼らが持たないと判断したんだと思う。中・長距離魔法で応戦しなかったのも同じ理由だな。


 相手を侮っているわけではない。カロンは高火力魔法を多く習得している反面、細かい制御がニガテだ。下手に術を行使するよりは、防御を優先した方が良いと考えたんだろう。


 あくまでも、目的に沿った魔法を的確に選択している。カロンはどこまでも冷静だった。


 そうこうしているうちに、前衛組が彼女の下に辿り着く。僅かに脳筋くんの方が早く、勢いのままにパンチを繰り出してきた。


「へぇ」


「ほぅ」


 オレとサザンカが、そろって感心の声を漏らす。カロンも目を丸くしているので、同様の感想を抱いたようだ。


 脳筋くんのパンチは実に洗練されていた。力任せに見えて、技術の集約が窺えたんだ。おそらく、元の世界で何らかの格闘技を習っていたんだろう。


 ただ、距離を詰める際の足取りは素人くさかったので、武道系ではないな。あの手の技術には歩法も含まれている。


 逆に近距離でのステップは上手いから、ボクシング辺りが有力候補かな。


 まぁ、いくらボクシングの熟練者でも、カロンには勝てないけどね。


 左ジャブの三連撃に対し、カロンは頭を傾けるだけで対処する。すべて顔面狙いだったため、回避も簡単だったようだ。


 というか、顔を殴りにかかるとか正気か? もしも当たっていたら、うっかり殺してしまうところだったぞ。


 回避が終わったタイミングで、爽やかくんも合流する。


 彼は片手剣と小盾というオーソドックスな装備で、盾で上半身を守りながら剣を振るってきた。左下から振り上げる逆袈裟斬りだ。


 同時に脳筋くんも右フックを放っており、小規模な挟撃となる。


 両方を避けるには後退するしかないが、それは悪手だろう。あちらは前のめりに連続攻撃するという次の手があるので、息が続かなくなってしまう。


 ゆえに、対処の仕方は決まっていた。


「「なっ!?」」


 転移者二人の驚愕の声が響く。


 彼らの攻撃は、カロンに当たる直前で停止していた。こぶしや剣の進路上に光の板が発生しており、それによって妨げられたんだ。


 五センチメートル四方の小さな板にもかかわらず、爽やかくんたちは攻撃を押し込めない。どれだけ力を入れようと、微塵も板は動かなかった。


 この板を誰が生み出しかなんて、改めて説明するまでもないだろう。


 攻撃を止められて隙だらけの二人に、カロンは徒手空拳を見舞った。爽やかくんのアゴを蹴って宙に飛ばし、脳筋くんの鳩尾にこぶしを撃ち込んで後方へ殴り飛ばす。


 紛れもないクリーンヒットだった。手加減はしていたようだけど、そうは思えないほど、気持ち良く吹き飛んだ。


光輝(こうき)さん!」


 すると、後衛の清楚風少女は悲痛な叫び声を上げつつも、準備を進めていた大技を繰り出した。青白い輝きを放つ直径十メートルの光球が、カロンの頭上から落とされる。


 雷を内包しているはずの光球は、不気味なくらい静かだった。僅かな風切り音のみを鳴らして落下する。


 地面に落ちた瞬間、周辺一帯に雷が拡散した。まるで爆風の如く電撃が吹き荒れ、離れていたオレの体にも若干の痺れを与えてくる。


 時間をかけて準備しただけはある。見た目ほどの破壊力はないものの、生物に対する威力は相当なものだろう。何せ、直撃していないオレやサザンカをも多少痺れさせたんだから。


 区分としては上級……ギリギリ最上級魔法くらいか? 生物以外に効果が薄いところは、減点せざるを得ないし。


 拡散した雷のせいで土埃が舞い、視界が遮られる。カロンがどうなったのか、視覚で(・・・)確かめるのは難しかった。


光輝(こうき)さんッ」


 今の一撃で仕留めたと考えたんだろう。清楚風少女が爽やかくんの下に駆け寄っていった。これまでの態度から、彼女は爽やかくんに気があるんだと分かる。


「あぐっ」


 爽やかくんは宙を舞った後、派手に落下していた。何とか受け身は取ったようだけど、ダメージは大きい。上半身を起こすだけで精いっぱいのようだった。


 というか、あれはアゴにヒビが入っていると思う。カロン、手加減が下手だからなぁ。


「ごほっごほっ」


 別方向に吹き飛んで倒れていた脳筋くんも、ようやく体を起こした。血を吐いているものの、意識はハッキリしている模様。


 あの様子なら、内臓が少し傷ついた程度かな? 破裂しないで良かったね。

 しかし、正直言って拍子抜けだ。身体強化の練度もそうだけど、近接戦闘の技術も大したことがないし、遠距離攻撃の威力も上位に引っかかる程度。挙句、敵の状態も確認しない。索敵系の能力がないのか?


 もしかしたら、現在保護している少女が、索敵要員だったのかもしれない。それにしたって、油断しすぎだと思うが。


 のんびり態勢を整えている彼らに呆れたみたいだ。待つのを止めた(・・・・・・・)彼女は、火魔法を使って土埃を払う。


 一気に開けた視界には、仁王立ちするカロンの姿が映った。黄金の髪をなびかせる様は神々しく、心底つまらなそうに細められている紅い瞳は酷く冷たい。


 彼女を認めた転移者たちは絶句してした。先の一撃で倒せなかったことが信じられないよう。攻撃した張本人は「嘘でしょ」と呟き、狼狽(ろうばい)している。


 隙だらけの彼らだが、カロンは動かない。もう少し、実力を測るつもりらしい。


「うおおおおおおお!!!」


 僅かな沈黙が降りた後、爽やかくんが絶叫した。バチバチと今までの比ではない量の放電をし、無理やり立ち上がる。


 それに感化されたのか、脳筋くんの方も血を溢しながら立ち上がった。


 同時に駆け出す二人。


 今度の爽やかくんは、剣技だけで勝負しなかった。走りながら、小規模の電撃をいくつも放ってくる。下級魔法程度の威力だな。


 数ばかり多い攻撃を食らうほど、カロンは弱くない。攻撃の軌道を先読みし、ピンポイントで小さな結界を作成。最低限の消耗で攻撃を防いだ。


 近接戦闘の距離に入っても、戦況は変わらない。爽やかくんの剣や脳筋くんのこぶしは、彼女を捉えるには至らなかった。最小の動きで回避ないし受け流され、カウンターによって簡単に吹き飛ばされる。


 同じような流れを、何度も繰り返した。途中、清楚風少女の援護も入ったけど、結果は何一つ変化しない。彼我の実力差は明白だった。


 手加減のニガテなカロンの攻撃だ。転移者たちの負傷が酷くなっていくのは必然。四度目には脳筋くんが立ち上がれなくなり、六度目には爽やかくんも動けなくなった。


「お兄さま」


 カロンがオレに声を掛けてくる。もう終わりだと言いたいんだろう。


 そうだな。これ以上は続ける意味もないか。


 最後まで折れなかった根性は認めるけど、強さはせいぜいレベル五十前後。平均よりは上だが、上位層では下の方。優秀には違いないものの、上には上がいる。要するに、上の下の実力だ。


 まぁ、彼らが転移者の中でどれくらいの実力者なのかにもよるけど、フォラナーダの脅威にはなり得ないな。チームを組めれば、部下たちだけでも対処可能だと思う。諜報部隊なら、単独撃破もできそうだ。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはシシオウ辺りがやけくそで聖剣とって操られてそれで仕方なく、となりそうですね。相手の思うつぼというのが癪ですが。
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