Chapter20-5 永劫の聖剣(2)
「助けてくれたことは感謝する。ありがとう。でも、喜文字くんを殺した話とは別問題だ。そちらの追及はするし、真実だとしたら、僕はキミたちを許さない!」
「……」
あまりにあんまりな爽やかくんのセリフに、オレは唖然としてしまった。オレだけではない。カロンやサザンカ、果ては帝国騎士たちまで目を見開いている。
いやまぁ、一つ一つの主張は間違っていないんだけどさ。話す順序や場所、タイミングが間違いまくっている。謝意の後に出す話題ではないし、救助してもらった直後に話すのも空気が読めていない。
級友? の死を悼む気持ちは分かる。だが、糾弾するのは、洞窟を脱出してからではないだろうか?
何となく、爽やかくんの性格が掴めた気がする。彼は、自分の正義に酔うタイプの人間だ。正しいと思い込んだら一直線。意地でも主張を曲げないだろう。
悪いイメージを与える言い方をしたが、良い一面もある。どんな時でも折れない心というのは、勝利を掴む上で重要な資質だ。敵が強大であればあるほど輝きを増し、味方にも希望をもたらす。
ある意味で、主人公に相応しい気質だな。無論、『前提条件を履き違えていない』という但し書きは付くし、暴走を招きやすい一面もあるけどね。
今回の場合、帝国にその性格を利用されたんだろう。彼らに渡す情報を絞り、聖王国やフォラナーダを悪役に仕立て上げた感じかな? この手の輩は、明確な悪がいると勢いに乗るもの。
十中八九、クラスケの死の詳細を知らないんだろう。彼がテロ組織に属していたことも、聖王国で暴れたことも知らされていない。でなければ、義務感でここまで怒ることはない。
とはいえ、これらはオレの予想にすぎない。自信はあるけど、確証があるわけではない。断定はせず、しっかり情報を集めよう。思い込みで突っ走っては、他人のことをとやかく言えなくなる。
「キモンジとは誰のことだろうか?」
まずはジャブ。話を広げるためにも、とりあえず惚けてみる。
相手の頭に血が上っていたら、『ふざけるな』と一蹴されてしまう方法なんだが、おそらく大丈夫だ。最初に予想した通り、彼はあらわにしている態度ほど怒っていない。
「僕たちのクラスメイト、喜文字蔵助くんのことだ!」
案の定、爽やかくんは突っかかってこなかった。声は荒げているものの、律儀に答えてくれる。
オレは内心でほくそ笑みつつ、肩を竦めた。
「キミたちのクラスメイトだとか、名前だけ言われても分からない。何か特徴的な部分はないのか?」
「ぐっ」
こちらの質問に、彼は口を閉ざす。
他二名の転移者含め即座に言葉が出てこない辺り、爽やかくんたちとクラスケの関係は、正真正銘の“クラスメイト”だったんだろう。おそらく、事務的な会話以外は交わしたことがない。予想通りである。
「黒髪黒目で、前髪が長くて、体はやせ気味で――」
最終的に、つらつらと外見的な特徴を話し始めた爽やかくん。
間違った判断ではないが、この流れは予定通り。オレは淀むことなく問い返した。
「似たような見た目の者は、そこら中にいる。もっと分かりやすい特徴はないのか?」
嘘八百である。聖王国どころか、この大陸に黒髪の人間はあまりいない。容姿について細かく聞いておいて、人物の特定ができないわけがなかった。
すると、カロンと帝国騎士二人が眉をひそめた。分かりやすすぎる嘘に何の意図があるのか、考えあぐねているんだと思う。
うん。あの三人は、そういった反応になるよな。
ところが、他の面々は違うんだよ。
「……」
オレの嘘を受け、爽やかくんは明確に困っていた。その挙動から、歯を食いしばって必死に思考を巡らせているんだと察しがつく。
他の転移者も同様。良いアイディアが浮かばないといった様子だった。
転移者全員は、嘘を見破れなかったようだ。真剣に、外見以外の特徴を思い出そうとしている。
この展開に、カロンたちは戸惑っていた。何で嘘だと指摘しないのか、理解できないんだろう。
悩みか動揺か。誰もが沈黙を守る中、一人だけが小声で呟いた。
「なるほどのぅ」
それはサザンカだった。口内で転がす程度の僅かな声量だったが、近場にいるオレの耳には届いていた。ピクリと反応したところから、カロンも聞こえたみたいだな。
しかし、そうか。サザンカは気づいたのか。てっきり、嘘を見破れない側だと思っていたんだが。
転移者たちが嘘に気づけなかった理由は一つ。彼らが、この大陸の出身でないからだ。
魔法大陸出身のオレたちにとって、黒髪黒目が少ないことは常識である。だが、転移者たちにとっては違うんだよ。むしろ、黒髪黒目の方が一般的という感性だろう。
そういった感覚は、一朝一夕に修正できるものではない。魔法適性と容姿の関係は帝国から習っているんだろうが、常識として馴染むには時間が足りていない。ゆえに、嘘が分からないんだ。
この場に、嘘を判定できる少女がいなくて良かったよ。彼女がいたら、もっと別の手段を講じなくてはいけなかった。
――で、この嘘を吐くことで、オレが何をしたかったのか。
それは、次の爽やかくんのセリフで明らかになるはずだ。
散々悩んだ末に、爽やかくんは右手を胸元に掲げた。そして、
「喜文字くんも、僕と同じ能力が使える」
バチバチと手のひらの上で雷を迸らせた。
そう。オレが狙っていたのは、これである。彼らに、この能力を披露させたかったんだ。
今までで転移者の能力を確認していたのは、シオンのみだった。もちろん、彼女から情報は得ていたものの、人伝だと解析の精度が落ちるのも事実。直接観察する機会を欲していたのである。
苦々しい表情を浮かべているのを見るに、爽やかくんは能力を明かすことの不利益を理解しているらしい。単なる猪突猛進でもないみたいだ。級友の末路の究明を優先しているので、聡明とは言い難いけどね。
魔眼で見られなかったのは悔やまれるが、欲をかいても仕方がない。チャンスが何度も巡ってくるとは限らないんだから。
こうして、直に観察できたから分かる。彼らの操る雷は、生体由来っぽいな。体を動かすための電気を増幅、外部に放出している模様。あと、増幅した電気に耐えられるよう、肉体も電気に強くなっているのか。
暴走したクラスケが、最終的に跡形もなく崩れたのも納得だ。許容を超える出力に体が耐えられなかったという、単純な話だった。
能力的には三つの応用が利きそうか?
電気をそのまま放出するのは見た通り。彼らの動きの良さから、身体能力の強化も可能だと判断できる。そして最後は、心の機微を判別する能力だな。
他にも隠し玉はあるかもしれないが、あっても一つか二つ程度だろう。強力な技があるのなら、鮮血姫に一瞬で捕まったりしない。
「能力の名前は? そのクラスケとやらが名前を口にしていたかもしれない」
「……超電能力」
「サイキック、ねぇ」
もしかして、サイコキネシスとかテレポートみたいな能力もあるのか? 警戒はしておこう。
次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。




