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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Interlude-ViewOfReader ウィリアム活躍集(ダイジェスト)

 Chapter18-2 少年の夢(9)~(10) 騎士勢力闘技大会にて




 ゼクスがバッカスとのお話し(・・・)を終えた頃合い。いよいよ決勝戦ということもあり、会場は大いに盛り上がっていた。大勢の歓声が響き渡り、建物全体が響めいていた。


 舞台に立つのは二人の男。


 片や、田舎臭さと幼さが抜け切っていない少年、ウィリアム。最年少選手とあって大会開始当初は侮られていたが、破竹の勢いで勝ち上がり、今では多くのファンを獲得している。


 片や、筋肉隆々になりやすい道士では珍しい、細身のイケメンのローラン。元大国の騎士という肩書と整った容貌から女性ファンが多く、今も彼には黄色い声援が向いている。


 本命と大穴という両極端な二人が今、優勝を懸けてぶつかり合おうとしていた。


 試合開始が合図される前の、ピリピリした緊迫感が流れる中。ふと、ローランが口を開いた。


「キミは良い目をしている」


「?」


 嬉しそうに語る彼に、ウィリアムは首を傾げるしかない。


 当然だ。対戦相手に突然話しかけられただけでも驚くのに、その内容があまりにも抽象的すぎるのだから。


 困惑するウィリアムを認め、ローランは小さく笑いながらも謝罪する。


「すまない、困らせてしまったね」


「いや、それはいいんだけど、『良い目』って何さ?」


 ウィリアムはローランの真意を問うた。


 それを受け、彼は少し逡巡してから答える。


「私がこの大会で戦ってきた相手は、誰も彼も立身出世にしか興味を持っていなかったんだ。だから、真っすぐな瞳を持つキミが決勝の相手で、本当に嬉しかったんだよ」


「それは……」


 ウィリアムにも心当たりがあった。自分の対戦相手も権威欲に目がくらんでいる者ばかりだった、と。


 ローランは実に楽しそうに笑う。


「すぐに分かったよ。キミも私と同じ、聖剣を求める同志だ。どちらが夢に一歩近づけるか、尋常に勝負しよう!」


「ッ!? 望むところだ!」


 同志と呼ばれ、ウィリアムの心に熱いものが宿る。


 これから行われるのは、これまでと同様の淡々とした試合ではない。お互いの夢を懸けた、心のぶつかり合いなのだと察したのだ。


 だからこそ滾る。全身全霊をもって戦えることを、ウィリアムは心から喜ぶ。


「決勝戦、はじめ!」


 試合開始の合図とともに、二人は駆けた。お互いに剣を握り締め、魂を込めた刃を振るう。




 どちらの選手も楽しそうに剣を振るっていたと、後に観客は語る。







○●○●○●○●







 Chapter18-3 鬼(10) 武士勢力闘技大会にて




 大帝国の闘技大会でも、ウィリアムは無事に優勝した。観客たちの祝福を受けながら、優勝を示すバッジの授与を受ける。某姫の狂喜乱舞した声が聞こえてくるが、何かの間違いだろう。


 バッジを受け取り、いっそう盛り上がる会場。


 しかし、その歓声は長く続かなかった。


 二つの影が、会場に落ちてきたのだ。額に一本の角を生やす赤黒い肌を持つ男二人が、突如として乱入してきたのだ。


 鬼人(きじん)。それはこの大陸の人々にとって伝説の存在でありながらも、確かに存在する恐怖の対象。


 ゆえに、観客がパニックに(おちい)るのは必然だった。悲鳴から始まり、我先に逃げ出そうとするもので溢れる。逃亡者は観客だけではない。警備の兵も、ウィリアムと一緒に表彰されていた準優勝者や三位入賞の選手も、大会関係者も、来賓として訪れていた貴族も。皆一様に走り出していた。


 たった一瞬で、会場内の空気は一変した。それだけ、鬼人(きじん)が畏れられている証左。


 惑う有象無象を眺める鬼人(きじん)二人の目は、酷く冷めている。彼らにとって、逃亡者たちは路肩のゴミと変わらなかった。


「ゴミは掃除せねばなるまい。なぁ、桜羅(おうら)よ」


「まったくもって同感だ、祇涯(ぎがい)


 鬼人(きじん)たちは動き出す。手始めに、逃げ遅れた愚民どもを皆殺しにしようと、その大きな両手に生命力を集め始めた。


 ところが、その暴力が彼らに振るわれることはない。


 何故なら、


「お前たちの相手は俺だ!」


 ウィリアムが、二人の前に立ちはだかったからだ。剣を構え、鬼人(きじん)たちに交戦の意思を伝えた。


 彼を見て、桜羅(おうら)と呼ばれた方の鬼人(きじん)が鼻で笑う。


「フン。手が震えているではないか。強がりはよせ、愚か者よ」


 そう。ウィリアムは他の者たちと同様に恐怖していた。鬼人(きじん)の恐ろしさを知るのは、この大陸出身である彼も例外ではなかったのだ。


 それでも、彼は戦おうと決めた。戦える者たちが真っ先に逃げてしまった今、多くの人々を守れるのは自分しかいないと奮起していた。


 もう一人の鬼人(きじん)――祇涯(ぎがい)が、桜羅(おうら)を制する。


「良いではないか。愚者が愚者なりに勇気をやらを振り絞ったのだ。逃げるしか能のない輩よりは、よっぽどマシと言えよう」


「確かに、マシではあるな。では、尋常に勝負してやろう」


 桜羅(おうら)は首を縦に振ると、その屈強な胸を張った。


「我が名は桜羅(おうら)三鬼人衆(さんきじんしゅう)一鬼(いっき)。階級は地格(ちかく)である」


「同じく三鬼人衆(さんきじんしゅう)地格(ちかく)祇涯(ぎがい)だ。短い間だろうが、よろしく頼むぞ」


 祇涯(ぎがい)も名乗りを上げ、二人は一気に戦意を高めた。


「ぐっ」


 会場中を覆い尽くすほどの強烈な気配に、さしものウィリアムも怯む。


 一方、ただの一般人でしかない民衆や貴族たちは、揃ってその場に倒れ伏した。これでもう、彼らは逃げられない。


 ――覚悟を決めるしかない。


 歯を食いしばるウィリアムは、努めて戦意を高める。心が折れれば、二度と立ち上がれないと分かっていたがために。


 そして、いよいよ戦端が開かれようとした瞬間、


「がぎゃ」


 短い悲鳴とともに、桜羅(おうら)の頭が吹き飛んだ。血飛沫が舞い、周囲一帯を赤黒く染めていく。


 静まり返る場。誰もが、何が起こったのか正しく認識できていなかった。


 そんな中、呑気な声が響く。


「ウィリアム、そっちは一人で倒して。師匠からの課題」


 見れば、貴賓室から身を乗り出すニナの姿があった。


 どうやら、彼女が桜羅(おうら)を殺したらしい。どうやったかは、ウィリアムの知るところではないが。


 恐怖の対象が一撃で仕留められたことに、驚けば良いのか、悲しめば良いのか、笑えば良いのか。ウィリアムの感情はグチャグチャだった。


 ただ、不思議と体の強張りは解けた。あれだけ強いヒトの修行を乗り越えてきたのだと、確かな自信が心の底から湧いてきた。


 ウィリアムが我に返るのと同時に、残された祇涯(ぎがい)も正気を取り戻したよう。怒気を含んだ声を上げる。


「貴様、不意打ちとは卑怯ではないか!」


「戦いに卑怯も何もない。それに、卑怯というのなら、いきなり攻め込んできたそっちも卑怯」


 対し、淡々と答えるニナ。


「ッ!?」


 正論すぎる言葉に、祇涯(ぎがい)は何も反論できなかった。


 とはいえ、そこで黙る鬼人(きじん)ではない。湛えた怒りをニナへ振り下ろすため、足に力を込める。


 しかし、その行動は実行に移されない。何故なら、ウィリアムがいるから。


「お前の相手は俺だと言った!」


「チッ」


 正面に回り込む彼を見て、うっとうしそうに舌を打つ祇涯(ぎがい)


「ならば、貴様から始末してくれるッ」


 そう雄叫びを上げ、二人の戦いは始まった。


 新たな英雄の誕生を、地に伏した者たちは目撃することとなる。







○●○●○●○●







 Chapter18-4 恐怖(1) 帝城跡にて




 星々の輝く夜。明かりの灯らない半壊した帝城の前で、ウィリアムと白雪は並んで立っていた。


 逢瀬、という雰囲気ではない。緊張感とは異なる、張り詰めた空気が二人の間には流れていた。


「白雪、俺は――」


 痛い沈黙を裂くように、ウィリアムが口を開く。


 しかし、それを白雪が遮った。


「仰らないでください」


「でも――」


「それ以上は、何も仰らないでください」


 彼女は、ウィリアムが何を言おうとしていたのか察しているよう。頑なに、彼の言葉を最後まで聞こうとしない。


 そのうち、ウィリアムも諦める。小さな溜息とともに開きかけていた口を閉じた。


 再び沈黙が場を支配する。


 壊れた町には虫の音さえもなく、真の静寂が辺りを包んでいた。


 しばらくして、今度は白雪が言葉を紡ぐ。


「ウィリアムは夢を追ってください。私たちが心配なのは分かりますが、このようなことで妥協してはいけません」


「このようなことって言うなよ。国の一大事じゃないか」


「だからといって、この国の民でもないウィリアムが復興のために留まり、聖剣の儀への挑戦を諦めるのは違います」


 そう。ウィリアムは帝都の惨事を目の当たりにしたせいで、今後の行動に迷っていた。


 夢と言えば聞こえは良いけれど、その実態は自身の欲望である。欲望のために困っているヒトを見捨てるなど、彼は許せなかったのだ。


 ウィリアムは返す。


「諦めるわけじゃない。来年、また挑戦すればいい」


 聖剣の儀は毎年開催される。チャンスは一度きりではない。


 しかし、白雪は首を縦に振らなかった。


「二つの大会で優勝し、聖剣の儀までリーチをかける。この幸運が、来年も訪れるとは限りません。無論、ウィリアムの実力なら何度でも優勝を狙えるのでしょうが、聖剣の儀への道は戦う力だけでは切り開けません。それは、あなたが一番理解しているはずです」


「……」


 ウィリアムは口を噤む。


 白雪の言う通りだった。大会で優勝できる実力のみを試されているのであれば、聖剣の儀に挑む人間はもっと多いはずだ。何せ、各国で闘技大会は開かれている。強者のいない小規模大会を狙えば、三勢力での優勝はそう難しくない。


 だのに、聖剣の儀に挑戦できる者が少ないのは、試されているのが戦力だけではないから。三勢力を期間内に移動する力は無論、トラブルやケガに見舞われない運も必要。


 ウィリアムの幸運が来年も続くとは限らないのだ。挑戦するチャンスこそ何度もあるけれど、それが本当に聖剣の儀に繋がるかは未知数だった。


 白雪はウィリアムの両手を握る。そして、彼を真っすぐ見つめた。


「私は、あなたの足手まといにはなりたくありません。本音を言えば、ずっと一緒にいたいと思っております。しかし、ウィリアムの長年の夢を邪魔したくない」


「白雪……」


「帝都の民も同じ気持ちでしょう。英雄の足を引っ張りたくないと考えているはずです。鬼人(きじん)を倒してくれただけで、私たちは十分救われています。ですから、遠慮なさらないでください」


「……」


 心の底から紡がれた言葉に、ウィリアムは何も言い返せない。


 これ以上の反論は自己満足にすぎないと、彼は悟った。


 ウィリアムは大きく深呼吸し、自分の想いを咀嚼する。


 それから、おもむろに語った。


「分かった。白雪や帝都のヒトたちの想いに応えるよ。でも、これだけは覚えておいてほしい。必ず、キミの下に戻ると」


「ウィリアム!」


 ひしと抱き着く白雪。


 それを抱き返すウィリアム。


 甘く優しい空気が、二人の間に広がっていた。


 そんな青春の一幕は、スライムの襲撃があるまで続くのだった。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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