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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter18-3 鬼(7)

 こちらの接近に気づいたんだろう。男は閉じていたマブタを開いた。爬虫類にも似た縦に割れた瞳孔が、オレを射抜く。


 同時に、言い知れぬ威圧感が襲いかかってきた。前に出会った騎士が使っていた技に似ていたが、その威力は雲泥の差。たぶん、今のウィリアムでも気圧されるレベルだろう。


 気配の質から察するに、オレたちを監視していた奴らとこいつは仲間と見て間違いない。


 ただ、仲間うちで実力差が開きすぎている。監視に回っていた連中はともかく、目の前の鬼をウィリアムに任せるのは無理だな。


 実のところ、こいつらの暗躍はとっくの昔から気づいていた。以前に遭遇したミミズ型の鬼獣(きじゅう)は、奴らの差し金だったんだ。


 連中は、鬼獣(きじゅう)を自由に操る己道(こどう)を習得しているようで、それを使ってオレたちに鬼獣(きじゅう)をけしかけていたのである。


 本来なら、誰にもバレない完璧な暗躍なんだろうが、お生憎さま。こちらには精神魔法があった。己道(こどう)の詳細は分からずとも、敵意の元は辿れる。黒幕を暴くなんて造作もなかった。


 今まで放置していた理由は二つ。


 一つは、敵が帝都にいたから。こいつらのためにウィリアムたちと別れ、移動速度を上げるのは面倒だった。せっかくの縁を捨てるのは、もったいなさすぎる。


 もう一つは、ウィリアムの成長の糧になると考えたから。目前の敵以外は、ウィリアムの相手としてちょうど良いレベル。彼の試金石になってもらう算段だった。


 本当は、目の前の奴もウィリアムに丸投げするつもりだったんだけど、思ったより強そうな気配を感じたので、オレが出張ったわけである。


 純粋な測定ではないが、相対した感じ、ディマと同等の実力はありそうかな。魔法制限下だと、結構手こずりそうだ。


 威圧を受けても平然としているのが、さぞ不思議だったんだろう。男は眉根を寄せ、口を開いた。


『お主、何者だ?』


 不思議な声だった。頭の中に反響する独特な音。


 たぶん、声に生命力を乗せているんだと思う。先程の視線よりも、威圧の効果が強いと予想できた。オレには通じないけど。


『ふむ。これも通じないか。改めて問おう。何者だ?』


 ようやく、男はオレを真っすぐ見据えた。


 オレはわざと鼻で笑う。


「他人に名を訊くなら、まず自分から名乗れよ」


 向こうはどう返すだろうか?


 素直に応じるなら良し。いくらか話の通じる相手ならば、情報を搾り取る際、誘導尋問という手が使える。


 問答無用で襲いかかってくるも良し。情報収集の手間は増えるものの、その程度で心乱す奴なら簡単に倒せる。差し引きゼロだ。


 はたして、彼はどちらか。


『……』


 明らかに、不機嫌そうに眉をひそめる男だったが、おもむろに語り出した。


『我が名は万豪(ばんごう)三鬼人衆(さんきじんしゅう)の一鬼であり、天格(てんかく)鬼人(きじん)だ』


 鬼人(きじん)天格(てんかく)ねぇ。


 状況から、どういった意味合いなのかは察しがつく。


 鬼人(きじん)とは、ヒトが鬼獣(きじゅう)化した存在だろう。そして、天格(てんかく)は上位種を指す単語だと見た。


 だが、判明したのは、その二つだけではなかった。


 鬼獣(きじゅう)たちと相対している時も感じていた違和感。それが万豪(ばんごう)と向かい合ったことで、確信に変わった。


 鬼獣(きじゅう)鬼人(きじん)は、魔獣の己道(こどう)版なんかではない。


 こいつら、中身に何かが混ざっている。オレでも観測できない黒い何かが、内に抱える生命力と混ざり合っていた。


 便宜上、暗黒物質(ダークマター)とでも称しておくか。あれも正体不明の物質だし。


 暗黒物質(ダークマター)が、彼らの体を変形させているのは間違いない。


 というか、よくよく考えてみれば、当たり前の結論だった。


 魔獣とは、魔素を体内に蓄積しすぎた野生動物の末路。それと同じ原理なら、鬼獣(きじゅう)は生命力を貯め込み過ぎた結果となってしまう。自らの発するエネルギーであそこまで変貌するなんて、不自然極まりない現象だ。


 今の今までその不自然さに気が付かなかったとは、新しい大陸の旅に浮かれていたのかもしれない。反省しよう。


 オレが心のうちで自省していると、万豪(ばんごう)が鋭い眼光を向けてくる。


『我は名乗ったぞ。お主も名乗れ』


 彼は、大人しくこちらの名乗りを待っていたらしい。意外と律儀な性格の模様。


 そこまで求められては、応えないのは無粋。


 オレは大仰に一礼した。


「ゼクス。ゼクス・レヴィト・ガン・フォラナーダが、オレの名前だ。自他ともに認める世界最強の存在さ」


『お主が最強? クハハハハハハハハハッ』


 大笑いする万豪(ばんごう)


 どうやら、冗談か何かだと勘違いされてしまった様子。


 無理もないか。生命力しか感知できない彼にとって、オレは雑魚に等しいだろう。だから、その“笑い”を咎めはしない。


『面白い奴だ。――が、我の前に立った以上、生かしてはおけん。恨むなら、自らの運のなさを恨め』


 笑い終えた万豪(ばんごう)は、悠然と語る。


 対し、オレは肩を竦めた。


「死にたくはないから抗わせてもらうよ。嗚呼、全力は出さない。安心してくれ」


『抜かせッ!』


 次の瞬間、万豪(ばんごう)は目前に迫っていた。その極太の右腕を振り上げ、こちらの脳天目掛けて振り下ろそうとしている。


 三倍強化程度だと、目で追い切れないか。相手の身体能力、十倍強化と同等はありそうだ。


 とはいえ、速くて強いだけでは、オレを倒すことは不可能である。


 ブレる敵の拳。瞬く間に脳天を穿つだろうそれは、オレの右隣に突き刺さった。地面に深い穴が開き、僅かばかりの残骸が宙を舞う。


 ふむ。力任せの攻撃ではなかったらしい。穴が無駄に広がらなかったことから、ダメージを上手く一点に集中させているのが理解できた。


 思いのほか、技巧にも長けていたようだ。前言撤回しよう。速くて強くて、ほんの少し巧みなだけでは、オレを倒すことは不可能だ。


『は?』


 自分の拳が当たらなかった事実に、目を丸くする万豪(ばんごう)。若干、呆けた気配も感じられる。


 おそらく、何をされたのか理解できていないんだろう。


 オレが実行したことは、そう難しくない。振り下ろされた拳を、手のひらで受け流したんだ。


 相手の動きは見えなかったのではないかって?


 どこを狙っているのか丸分かり、かつ速度が分かっているなら、軌道と到達時間を予想するのは容易い。この程度、精神魔法による思考速度の強化や【先読み】がなくとも対処できる。


 パワー差を覆す受け流しに関しては、純粋な研鑽だな。


 たいていは力で解決するオレだけど、技術もきちんと磨いている。というか、力押しでアカツキに勝てるわけがないんだよ。


 ニナの偽神化に対し、普通の【身体強化】でも対応できるくらいには、オレは各種近接戦闘技術を極めていた。まぁ、さすがに剣術はニナに及ばないけども。


 では、反撃と行きますか。


 現状、万豪(ばんごう)の右腕がオレの右側を貫いた状態。つまり、彼は右半身を無防備にさらしているんだ。


 次の行動に移そうにも、ワンテンポ遅れるのは必至。しかも、彼我の距離は十センチメートルも開いていない。あちらにとって、致命的すぎる距離と状況である。


 その隙を、オレは見逃さない。


 さらし出された右肩を瞬時に掴み、抑え込む。身体能力差があれど、この不安定な姿勢では抵抗できないだろう。より前のめりになって、さらに姿勢維持が難しくなるし。


 あとは簡単だ。体重を支える棒と化した右腕を捻り上げ、万豪(ばんごう)を地面に叩きつける。それから、瞬時に自らの短剣を抜き、捻っていた右腕を斬り飛ばした。


『うおおおおおお!!!!』


 右腕を切断され、いよいよマズイと理解した様子。万豪(ばんごう)は雄叫びを上げ、周囲に生命力を拡散させた。エネルギーの奔流は、オレの体を弾き飛ばす。


 宙で体勢を整え、ひらりと着地するオレ。


 それと同時に、万豪(ばんごう)も体を起こしていた。


 ボタボタと血を流す右肩に目を向けた彼は、顔を盛大にしかめる。


『強いな、お主。正直、想像以上だった。だが、簡単には終わらせんッ』


 フン! と気合の入った声を出す万豪(ばんごう)


 すると、ボコボコと右腕が生えてきたではないか。治癒というより再生か? 先程よりも生命力の量が減っている気がする。


 何度も使える技ではなさそうだけど、これは厄介だな。魔法なしの現状、あの再生力を上回る攻撃は難しい。


「はぁ」


 持久戦の予感に、オレは溜息を吐かざるを得なかった。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] この大陸で学ぶべきは「未知の力が存在してる以上は自らの探知を過信しない」でしょうけど……まあアカツキやら別大陸やら知ってるから今更ですかね
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