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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第一部 Main stage

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Chapter2-4 奴隷(2)

 エントランスは普通の商店と変わらない。受付があり、その奥に、仕切りによって区切られた応接用のスペースが存在する。


 受付に立っていたのは凡庸な容姿の男。彼はオレという来客を認めると、にこやかに声をかけてきた。


「いらっしゃいませ、ホアカ奴隷商店へようこそ。本日はどのようなご用件でお越しくださったのでしょうか?」


「奴隷を買いに来た」


「それはそれは。我が商店をお選びいただき、誠にありがとうございます。ご希望の奴隷の詳細をお聞きしたいので、そちらのソファにお座りください」


 おおらかに対応しているが、彼の瞳はこちらを値踏みするそれ(・・)だった。きちんと奴隷を購入できるのか、どのレベルの奴隷まで購入できるのか。そういった辺りを観察しているんだと思われる。


 この油断ない視線は、商人独特のものだ。おそらく、彼が奴隷商店の店主なんだろう。


「まずは自己紹介をいたしましょう。私はグミン・ファーフル・ホアカと申します。ここの店主を務めております。よろしくお願いいたします」


 予想通り、店主だったらしい。


 オレは頷きつつ、名乗り返す。


「冒険者のシスだ。普段はフォラナーダで活動をしてる」


「ほう、フォラナーダですか。わざわざ遠く離れたシャーグ領までお越しくださるとは。何か目当ての商品でも?」


 店主は目を(すが)めて尋ねてきた。笑顔は崩れていないが、放つ雰囲気は剣呑さを含んでいる。


 また、店の奥の扉や出入口の方より、それなりに強そうな者らの存在を感知できる。この店が雇っている護衛だな。オレの言動が怪しいため、襲撃の準備をさせた模様。


「嗚呼、その通りだ。例の内乱で捕らわれた元貴族の娘が、ここにいると耳にしてな。その少女を買い取りたい」


 想定通りの反応だったため、オレは特段気にしない。むしろ、やましいところは一切ないと明け透けに本命を語る。


 それに対し、店主はジッとこちらを見つめる。嘘はないかと探ろうとしてくる。


 オレは端然と見つめ返した。


 しばらく沈黙が続き、視線が交差する。


 先にそれらを破ったのは、店主の方だった。


「かしこまりました。お望みの商品の元へご案内いたしましょう。しかし、彼女は未だ反抗的な態度で、奴隷としては使いものになりませんよ?」


「構わない」


 というか、奴隷として心折れている方が困る。オレは彼女を保護するために訪れたのであって、奴隷にするために買い取るわけではないんだから。


 オレの翻意はないと理解したのか、店主は苦笑いしながら立ち上がった。このまま彼女の元へ案内するというので、素直についていく。


 店の奥にあった扉の先は、奴隷たちを隔離した牢屋だった。牢屋といっても鉄格子が存在するだけで、中は普通の部屋と変わらないんだが、どこか圧迫感を覚える。


 調教中の彼女は特別房とやらに収監されているらしく、オレたちは店の最奥まで足を運んだ。


 重厚な鉄扉があり、その中に目的の彼女がいるという。


 扉の錠を外す間、店主は注意事項を述べていく。


「一応、鎖で手足を縛っていますが、できるだけ近づかないようにお願いします。この商品は反骨心が強く、誰にでも噛みついてきますので」


 彼が話し終える頃、ようやく扉が開かれる。


「彼女が、お客さまのお目当ての商品でしょう」


 店主の指し示す先、部屋の中には、一人の少女がうずくまっていた。茶髪茶目の狼の獣人でオレと同い年。アザだらけの全身とこびりついた(・・・・・・)汚れのせいで、本来なら可愛らしい容姿が台無しだった。


 目を逸らしたくなるほど痛々しいありさまだが、少女の瞳は死んでいなかった。むしろ、『まだまだ抗ってやる!』と言わんばかりに、鋭い眼光をこちらへ向けてくる。


 これほどまでに反抗的だからこそ、ボロボロになるまで痛めつけられたんだと察しがついた。


 ゲーム知識通りの様相に、オレは思わず溜息を漏らす。


「この商品名は、ニナ・ゴシラネ・ハーネウス。元子爵家の娘で、歳は八です。魔法適正は土ですが、獣人とあって、そこまで魔力量は高くありません。……かなり痛々しい見た目ではありますが、“初めて”は無事です。そこは保証いたします」


「間違いない。彼女を買おう」


 店主の最後のセリフはスルーして、オレは購入する旨を伝える。


 すると、今の会話を聞いていた少女――ニナが、にわかに騒がしくなった。縛られていることなんてお構いなしに暴れ、ガチャガチャと鎖の()れる音が鳴り響く。猿ぐつわのせいで言葉は聞き取れないが、ウーウーと必死に唸り上げてもいた。


 よっぽど買われるのが嫌らしい。とはいえ、放っておく選択肢はない。オレがここで介入しないと、彼女は死んでしまうんだから。


 店主の方は慣れているようで、ニナの騒々しさに眉ひとつ動かさず、手続きの書類をまとめ始めていた。


 程なくして全資料が揃い、オレは用意していた金を店主へ渡す。それから、揃えられた資料に自らのサインを書き記した。


 店主はにこやかに言う。


「はい。この瞬間より、そこの奴隷はシスさまの所有物となりました。この度は我が商店をご利用してくださり、誠にありがとうございました」


「いや。こちらも、いい買いものができた」


「それは、ようございました」


「では、連れて行くぞ。嗚呼、鎖は借りてってもいいか?」


 さすがに、暴れ回るニナを、拘束具なしで運ぶのは骨が折れる。せめて、落ち着ける場所までは縛ったままで移動したかった。


 こちらの考えは理解できたみたいで、店主は鷹揚に頷く。


「鎖は差し上げます。ここまで厳重に拘束する必要のある奴隷は、そうそう現れませんので。サービスとでも思っていただければ」


 彼に含むところはなさそうだった。本当にサービスのつもりらしい。


 であれば、遠慮する必要はない。


「分かった。ありがたくいただいてこう」


「はい。毎度ありがとうございました」


 オレは鎖で縛られたニナを脇腹に抱え、ギュッと首の辺りを絞めつける。【身体強化】によって跳ね上がっている腕力に八歳の少女が叶うはずもなく、彼女はスンナリ気絶した。


 それを認めたオレは、早々に奴隷商店を後にする。


 さっさとニナを風呂に突っ込みたかったんだ。だいぶ長い間、体を洗っていなかったようで、かなり臭気が漂っている。


 行きと同じ道を通って部下と合流し、軽く情報を共有してから、フォラナーダへと帰還した。


 ただ、城に帰るわけではない。ニナに関してやることが、まだまだ大量に残っていた。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
やっぱ獣人って魔法苦手なんだ 偽装で見た目と実際の身長が違う状態でニナを抱え込んだら周りからはどう見えるんだ?
[良い点] いやー暗黒時代!
[良い点] えっ、身分はちゃんと偽装したけど、奴隷店主という油断ならない職業の相手に目的を正直に言うですか? ゼクスさんレベルなら鎖なしで運ぶのも難しくないだと思います。 しかし、国内に獣人の扱いがヤ…
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