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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Interlude-Trueno 姉弟子

 どこまでも広がる森。その横を通る街道も果てなく続いている。


 右手には森、左手には草原。この道以外はヒトの手がまったく見当たらない自然の豊かさは、実に私――トゥルエノの心を穏やかにしてくれた。


 だというのに、すぐ隣に浮かぶ相棒はとてもやかましい。


「ここ、どこよ! また道に迷ったじゃないッ!」


 黄色の髪を振り乱し、キィキィうるさいのは、雷の精霊グロムだ。誠に遺憾ながら、私と契約を交わした精霊である。


 契約者同士は似るなんて話を聞くけど、絶対に嘘だ。私とグロムは正反対と言って良い。唯一似ているのは、根っからの方向音痴ってところだけ。


 私はさっきから騒がしいグロムに文句を返す。


「そんなに言うんだったら、グロムが道案内してよ。あっ、そっちも方向音痴だったね。無理なこと頼んじゃってゴメンね?」


 ”無理なこと”の部分をあえて強調する。


 案の定、グロムは怒った。


「ケンカ売ってるなら買うわよ?」


「先に仕掛けてきたのは、そっちじゃん。健忘症?」


「コロス!」


 グロムが雷撃を放ってくるけど、予想できていたので避ける。無駄にかっこつけて。


 それから、もう一度煽った。


「私の魔力使って、空打ちは止めてほしいなぁ」


「ッ!!」


 顔を真っ赤にした彼女は、周囲に雷柱を五本作り出した。


 ヤバ、ガチ切れだよ。煽りすぎた。


 その後、全力の雷撃が乱発され、私は必死に回避しまくるのだった。







 数分後。私は地面に大の字で寝転んでいた。


 魔力切れである。グロムがお構いなしに攻撃してきたせいで、スッカラカンになってしまった。これでは、今日は歩くこともままならない。野宿が確定した。


 一方のグロムも魔法の連発で疲れたのか、近くでゼェハァと息を荒げていた。


 私は怠い体を押して、上半身を起こす。


「あのさー、魔力配分くらいは考えてよ。もう、ここで泊るしかないじゃん」


「知らないわよ。精霊のアタシは、魔力があれば別に問題ないし」


「は? 何言ってんの。スッカラカンなんだから、魔力あげられるわけないじゃん」


 他の精霊なら適性にあった魔素を得るんだろうけど、グロムは雷の精霊。雷なんて現象と簡単に出会えるはずないので、私から魔力をもらうしかないんだ。


 というわけで、私は住が、グロムは食が不足する一夜となるんだ。


 再び口論が始まってしまうけど、それで困るのはグロムの方。エネルギーを無駄に消費して、フラフラになってしまえ!


 ふはははは。私だけに苦労をかけようだなんて、許さないんだからねッ。







○●○●○●○●







 騒々しい一夜を過ごし、ようやく魔力が十全に戻った。


 正直、ものすごく眠い。何もない場所に野宿して、ぐっすり眠れるはずがなかった。


 グロムに見張りを頼めば良かったって?


 無理無理。あの子、普通に寝るし。何なら、私よりも睡眠時間が長いよ。


 大きなアクビを溢しつつ、私たちは出発する。


 目的地は帝国の首都! ちょっと迷ってるけど大丈夫。行きは二ヶ月の旅程が七ヶ月に増えたと考えれば、二日程度の遅れは、まだまだ誤差だ。


 真っすぐ伸びる街道を進むことしばらく。代り映えしない景色に飽き飽きしてきた頃合い。幸運なことに、進行方向からコチラに歩いてくる人影があった。


「ラッキー。あのヒトに道を尋ねてみよう!」


 他人を頼るのは、方向音痴の処世術である。自力で解決するのは自殺行為だと、今までの人生で嫌というほど思い知っているからね。


「ちょっ、いきなり走り出さないでよ!」


 グロムが何か文句を垂れているけど、それを無視して私は駆ける。


 近づくにつれ、人影の正体が明確になっていった。


 女性だ。濃い赤――オックスブラッドのセミロングヘアと黒い瞳を持った女のヒト。年齢は二十代後半くらいかな? 結構美人だと思う。体つきも大人っぽい。身長は同程度のはずなのに……。


 ある程度近づいたところで、女性は呆れた風に溢した。


「やっと見つけた。方向音痴は相変わらずね。捜すのに苦労した」


「?」


 まるで私を知っているかのような物言いに、私は首を傾げる。


 その場で足を止めて、ジッと女性の顔を窺った。


 ……うん、見覚えのないヒトだ。少なくとも、軽口を叩けるような間柄に、彼女のようなヒトはいない。


 急に、目の前の女性が不気味に見えてきた。


 まさか、私の悪質なストーカー? 否定はできない。私、帝国では人気の冒険者だからね。


 そんな自画自賛を心のうちでしつつ、女性に対して警戒する。


 こちらが構えるのを見て、女性はキョトンと目を丸くした。


 しかし、すぐに「嗚呼」と小さく笑声を溢す。


「そういえば、記憶を消しっぱなしにしてたね。いや、あなたのことだから、術を解いても忘れてたりして? かれこれ、十年以上は会ってないもんねぇ」


「何なんですか、あなた? さっきから意味の分からないことばっかり」


「ふふ。そっちの精霊ちゃんなら、何か知ってるんじゃない?」


「え?」


 グロムのことが見えているのもそうだが、彼女に話を振ったことにも驚いた。この女性、どこまで私について調べているんだ?


 ますます警戒を強めていると、ちょうど追いついてきたグロムが、呆然とした声音で呟いた。


「アムネジア……アンタ、何で?」


「アム、ネジア? 知ってるの、グロム?」


「ハァ!? 知ってるも何も、アイツはアンタの姉弟子じゃない!」


「姉弟子?」


 意味不明だった。確かに、私には五年前まで師事していたヒトがいたけど、姉弟子なんていなかった。二人きりで世界各国を回っていたんだ。グロムの言葉が、全然理解できなかった。


 私が困惑しているのを察したんだろう。グロムは眉をひそめた。それから、女性――アムネジアに向かって怒鳴り声を上げる。


「アンタ、トゥルエノに何をしたの!?」


 普段の彼女よりも数倍怖い声だった。ガチ切れ以上の、本気の怒りを感じた。


 しかし、それを真正面から受けても、アムネジアはまったく動じていない。


「私に関する記憶を消したんだよ」


「何のために!」


「都合が良かったから。そんなに怒らないでよ。私のことを思い出せない以外、何の支障もないんだからさ」


「信用できないわね。ウチ、アンタのこと嫌いだから」


「直截な感想をありがとう。私も、記憶をいじれない精霊は嫌いだったよ」


 私を置いてけぼりにして、どんどん会話を進めていく二人。


 つまり、どういうこと? アムネジアってヒトは本当に姉弟子で、その記憶を私は奪われている状態ってこと?


 混乱は収まらない。突然、姉弟子だと言われて、記憶を奪われていたと言われて、落ち着けるはずがなかった。


 二人の口論――といっても、ほとんどグロムが一方的に怒鳴っているだけだけど――は数分ほど続いた。


 ところが、そのうちアムネジアが肩を竦める。


「いい加減、こっちの目的を果たさせてもらうよ」


 そう言うが否や、彼女の姿が消えた。


 ――いや、


「【イミタティオ】」


 目前まで迫ったアムネジアは、有無を言わさず私の頭を掴み、何かの魔法を唱えた。


 次の瞬間、激しい頭痛に襲われる私。


「う、ぐああああああああああ!!!!!!」


 情けなくも、叫び声をあげることしかできなかった。それほどの痛みが、私の頭に響き渡ったんだ。


 掴まれていた時間は、そんなに長くなかったと思う。でも、痛みが強烈すぎて、もはや私は満身創痍だった。開放されても、その場で突っ伏すしかない。手足に力が入らない。


「トゥルエノ!?」


 グロムが慌てて寄り添ってくれるけど、こちらに反応する余力は残っていなかった。


「ふむふむ。やっぱり、『魔王殺し』は規格外か。明確な弱点を見つけられたら良かったんだけど、さすがに高望みかな。まぁ、これだけ有用な記憶が手に入ったんだから、良しとしよう」


 おそらく、歯牙にもかけていないんだろう。私が聞いているにもかかわらず、アムネジアは何をしたのか呑気に呟く。


 その内容で、すべてを察した。


 この女、侯爵さまたちの情報を得るために、私の記憶を盗み取ったんだッ。


 彼女を放置すると、侯爵さまのみならず、マリナをはじめとした友人たちにも迷惑がかかる。


 それを理解した私は、気合を入れ直した。


「おぉぉぉ!!」


 雄叫びを上げ、魔法を唱える。


「【サンダーボルト】!」


 上級の風魔法。グロムに頼らない、私の独力で攻撃を放つ。


 至近距離の雷なら回避なんて不可能。向こうも、こちらが攻撃を仕掛けるとは予想していなかったはず。


 命中を確信した私だったが、それは容易く裏切られた。


 バシュッという間の抜けた音とともに、【サンダーボルト】は掻き消えてしまったんだ。カケラ一つ残っていない。


「何で……」


「無防備に立ってるはずないでしょ。呪いを周囲に散布してるから、しっかり固定してない魔法なんて、すぐに霧散するよ」


「チッ。グロム!」


「仕方ないわねッ」


 私とグロムは後方に飛びしさり、戦闘態勢を取った。


「友だちのためにも、あなたはここで止める!」


「あらまぁ。妹弟子のくせに、生意気なことを」


 対し、醜悪に笑むアムネジア。


 退くわけにはいかない。これは私が油断したせいで起こった問題なんだから。


「グロム、【ライトニングランス】!」


 繰り出される雷の槍によって、私たちの戦いは幕を開けるのだった。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーあ、こんな近い所しかも警戒中の国内で友人認定した者が大規模な魔法戦闘なんてやらかしたら怖ーい魔王殺しにバレてしまうでしょうに……
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