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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter16-3 忘れ去られた部屋(5)

 それ(・・)が見つかったのは、地下室を潰し始めてからすぐのことだった。


「ここ、おかしい」


「そうだね。何か流れが変?」


 探知で壊す箇所を探っていたマイムとマリナが、床の一部を指して首を傾げたんだ。


 地下室は広々とした土間だった。整地はしてあったものの土がむき出しで、経年劣化によって所々が荒れている。


 おそらく、かつては物置として使われていたんだと思う。今はガランドウの殺風景な場所だが。


 マリナたちが指示した場所も、ただの地面だった。見た目は何の変哲もなく、オレの探知術にも怪しい点は発見できない。


 魔力に依らないギミックか?


 そういった考えが頭を過るけど、即座に否定した。物理的な仕掛けが施されているのなら、その手の機構が発見できるはずだ。ここまで近距離にいるのであれば、さすがに気づく。


 オレが眉根を寄せている間にも、話は進む。


「どうしたの?」


「ここの水の流れが変なんだよね」


 トゥルエノが不思議そうに問うと、マリナは先程の場所を指しながら答えた。


 ただ、それだけでは言葉が不足していたようで、トゥルエノはキョトンとしたままだった。


「水の流れ?」


「何て言ったらいいのかなぁ。たいていのモノって、水気(みずけ)を帯びてるんだよ。生物は当然、金属みたいな水とは無関係そうなものもね。水とも言えない小さな小さな粒が、必ず存在するんだ」


「そうなの?」


「うん。金属とかの場合は、物質そのものが保有してる水分というより、大気中のがまとわりついてる(・・・・・・・・)感じだけど」


「へぇ」


 マリナの説明に、トゥルエノは簡素な返事をする。


 あれは理解を放棄したな。彼女には、今の話は難しすぎたらしい。


 話を聞いた限り、マリナたちが感知しているのは、湿度のようなモノかもしれない。下手したら、分子とか原子レベルの“何か”を読み取っている可能性もある。


 前々からオレ以上の精密な感知能力を持っていたが、これほどまで上達するなんて予想外だった。先日行使した【母なる海(マリナ・オリーゴ)】と言い、彼女の伸びがすさまじい。


 いくら精霊魔法に関する才能があるとはいえ、急激すぎる成長だ。きっと、マリナたちは並々ならぬ努力を重ねてきたんだろう。あとで、目いっぱい褒めてあげなくては。


 そんなことを心に誓いつつ、オレはマリナに問う。


「具体的には、どんな感じなんだ?」


「えっと~」


 マリナはアゴに人差し指を当て、やや上に視線をさ迷わせた。どう言語化すれば良いか考えているんだと思われる。


 しばらくして、彼女は再び口を開いた。


「水って、基本的に流れが一定なんですよ、上流から下流に~って感じでー。でも、ここはグチャグチャ。粘土をこねくり回したみたいに、分散しちゃってるんですよねぇ」


「誰かが耕したってことか?」


「耕しただけなら、時間経過で水の流れも戻るんですよ。それが戻ってないってことは、魔法か何かで固定したんだと思います~」


「なるほど……」


 マリナの説明を聞いたオレは、口元を片手で覆い、ジッと(くだん)の地面を見つめる。


 何者かがこの場所に術を施したのは、ほぼ間違いないだろう。マリナが嘘を吐くはずないし、その実力も信頼している。


 ただ、オレの探知には、魔法が使われた痕跡は全然引っかからないんだよな。魔力を微塵も感じない。


 考えられる可能性は二つ。


 一つは、『施された術が魔法ではない』という説。


 この世界には魄術(びゃくじゅつ)己道(こどう)といった、魔力に由来しない異能が存在する。先日も、未知の電気系能力の痕跡を見つけたばかりだ。この仮説を否定することはできなかった。


 もう一つは、『魔力が欠片も残らないほど、遥か昔に使われた魔法である』という説。


 魔法によっては、魔法が消えても状態を維持するものも存在する。たとえば、『変化した状態を基本形態に書き換える』といったもの。ノマの使う、土地の栄養を回復させる魔法もそれだな。あれも、魔法自体は一瞬で終わっているけど、栄養付与は維持される。


 長い年月を置けば魔力の残滓も散ってしまうため、オレの探知でも見つけられないわけだ。


 どちらが正解かは――


「今の情報では分からない、か」


 マリナとマイムのお陰で、ギリギリ発見できた引っかかりだ。それ以上の真実を明らかにするのは難しすぎる。


 なれば、無理やりにでも情報を集めるしかあるまい。


 一旦目をつむり、魔眼【白煌鮮魔(びゃっこうせんま)】を起動した。トゥルエノという部外者もいるので、【偽装】などで眼は隠しておく。


 そして、再び(くだん)の場所を見た。


 すべてを看破するまで、時間はそう掛からなかった。


「はぁ」


 三秒程度で調査を終えたオレは、溜息とともに魔眼を解除した。


「何か分かったんですか~?」


 こちらが魔眼を使ったのを察したようで、マリナが神妙な面持ちで尋ねてくる。


「何とも、単純な真相だったよ」


 オレは苦笑を溢し、そのまま説明を始める。


「この下に独立した空間――いわゆる隠し部屋があったんだ。だいたい、三百メートルくらい下に」


「「三百ッ!?」」


 想定以上の数字に瞠目(どうもく)するトゥルエノとグロム。


 それとは対照的に、マリナは冷静だった。


「ここが隠し部屋への出入り口だったってことですか~?」


 まぁ、普通はそう考えるよね。


 オレは首を横に振った。


「違うよ。そんな仕掛けだったら、オレが気づかないはずない」


 出入り口なんて理知的な代物だったら、どんなに良かったことか。


 自分の推測が外れるとは考えていなかったらしく、ここで初めてマリナの顔に困惑が浮かんだ。


 戸惑う彼女に、オレは答える。


「ここを出入り口として利用していたのは正しい。でも、出入り口として確立してなかったんだよ」


「えっ、どういう……?」


 ますます戸惑うマリナ。


 うん。自分で言っておいて何だけど、意味不明な説明だったね。


 ゴホンと咳払いしてから、オレは言葉を選び直した。


「つまり、隠し部屋の主は、隠し部屋に向かう都度、この地面を無理やり抉じ開けてたのさ。おそらく、土魔法師なんだろうな」


 『フタのない貯金箱からお金を取り出すため、いちいち叩き割る』という手法が、感覚としては近いかな。普通なら二度と使えなくなるけど、隠し部屋の主は魔法によって再利用を可能としていた。


 原始的かつ力技である。脳筋とは少し違うけど、似たタイプの人種の発想だよ、これは。妙に仕掛けを施さなかったからこそ、オレの探知を掻い潜れたんだ。


 こちらの説明を聞いた面々は、幼いマイムを除いてドン引きした顔をする。


「毎回、三百メートルを掘り返してたって……」


「土に特化した魔法師でも、なかなか難しいんじゃ?」


「普通、魔力が持たないわね」


 彼女らの言う通り、効率が悪すぎる。最初に通路を作り、出入り口だけ隠蔽しておく方が、圧倒的に行き来がしやすいのは当然だった。


 それを行わないのは、明らかに怪しいのである。オレたちのような、探知に優れた魔法師を警戒していたのは確かだろう。


 ゆえに、オレは結論を下す。


「埋め立てる前に、隠し部屋を調べよう。さすがに見過ごせない」


 魔力の残滓さえも残っていないので、ずっと使われていないのは分かっている。すでに放棄された場所で、もぬけの殻の可能性は非常に高い。


 しかし、見て見ぬ振りはできなかった。何らかの危険因子が眠っている見込みが少しでもある以上、貴族として、元帥として、放置はできない。


 何より、秘された何かが、カロンやマリナといった大切な人たちに牙をむくかもしれない。危険の芽は、あらかじめ潰しておきたかった。


「分かりました。もちろん、ご一緒します~」


「マイムも一緒!」


 マリナとマイムは小気味好い返事をくれた。


 一方のトゥルエノたちも、


「依頼とは関係ないことですけど……付き合うよ。何があるのか、私もちょっと気になるもん」


「『好奇心は猫をも殺す』って言うけど、まぁ付き合うわよ。乗りかかった船だし」


 前者の二人ほどではないが、調査を承諾してくれた。


 助かる。これはトゥルエノたちの引き受けた依頼。その中断には、彼女たちの説得が必須だったからね。


「少し離れてくれ」


 念のため、【念話】で部下に経過報告を伝えた後、オレは【コンプレッスキューブ】を発動する。隠し部屋までの地面を囲って圧縮。続けて、そこに開いた大穴を結界で補強。一瞬で降下口が完成した。


 本当はノマに手伝ってもらいたかったんだが、タイミング悪く外出中だったんだ。


「「……」」


 瞬く間に出現した穴に、トゥルエノとグロムは心底驚いた様子。


 そういえば、ゼクスとしてマトモに魔法を使ったのは、出会い頭の【位相連結(ゲート)】以来か。


 どうせ、すぐに正気を取り戻すだろう。


 そう踏んだオレは二人を放置し、隠し部屋に向けて探知を放った。それから、全員に向けて告げる。


「それじゃあ、下に降りようか」


 吉が出るか凶が出るか。できれば、吉報を願いたいところだ。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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