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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter16-2 緊急依頼(5)

 スタンピードの原因を調査する部隊には、最終的に四名が選抜された。


 一人は主戦力のオレ。誰よりも対応できる幅が広いため、何があっても不思議ではない現状で、一番上手く動ける。調査隊に加わるのは当然だった。


 二人目は探知役のマリナ。水精霊のマイムと組んだ彼女は、オレ以上の精密な感知を可能とする。今回の目的に一番適しているので選抜された。


 三人目はトゥルエノ。彼女は調査に関わるというよりは、いざという時の保険である。何かしら強大な敵が立ちはだかった場合、トゥルエノが全速力で情報を持ち帰る予定だ。雷魔法の使い手である彼女が、表向きは一番足が速いからね。


 本当は【位相連結(ゲート)】を使えば良いんだけど、今のオレはシスなので、怪しまれないよう保険をかける他なかった。


 最後は道案内役の騎士。ガノンという名前で、二十五歳の男。騎士の中では新人だが、地元の地理に明るいらしいので選ばれた。


 選ばれなかった面々は、拠点の防衛に当たる。あれだけ魔獣が湧き出ていたんだ。一度止まったからと安心はできない。


「行ってくる」


「留守はお任せください!」


 防衛隊のリーダーであるベアードの見送りを背に、オレたち四人は出立した。


 馬車は使えないので、徒歩で目的に向かうわけだが、それでは時間がかかりすぎてしまう。雷魔法で加速できるトゥルエノはともかく、騎士ガノンは重装備だからね。


 事が事だけに、今回の調査は迅速な行動が求められる。そのため、オレは一工夫することにした。


 といっても、そんなに大したものではない。オレがガノンを背負って走る。それだけだ。


「うわあああああああああ」


「口を閉じろ。舌を噛むぞ」


「は、はぃ……ッぅううう。舌噛みましたぁ」


「ハァ」


 何とも騒がしい青年である。かなりの速度で走っているから、驚くのは無理ない。でも、もう少し大人しくはできないんだろうか?


 オレたちのやり取りを見て、やや後ろを走るマリナが笑声を溢した。


「ガノンさんは、ずいぶんお茶目なヒトみたいだねー」


 他人ごとだからと気軽に言ってくれる。


 まぁ、ガノンの人柄は、『騎士とは?』と問われて思い浮かべる人物像と正反対なのは確かだな。お調子者の道化と名乗られた方が、よっぽどしっくり来る。


 すると、マリナのさらに後ろ、殿を務めるトゥルエノが口を開いた。


「気が動転しても仕方ないと思うよ。だって、この高速移動だし。というか、私、必要だったかな?」


 悄然(しょうぜん)とした口調で呟く彼女。どうやら、自信を喪失しかけているらしい。足は止めていないものの、かなり意気消沈していた。


 無理もない。今の彼女、魔法を行使してギリギリ追いつけている感じだもの。対して、こちらは余裕がある。普通の魔法が得意ではないマリナでも、もう少し加速ができた。


 普通の強化魔法(バフ)と【身体強化】の差が、如実に表れているな。


 (たと)えるなら、『補助エンジンを付け加える』のが一般的な強化魔法(バフ)で、『機体すべてに強化パーツを施す』のが【身体強化】である。出力や限界値が全然違うんだ。


 オレは一応、フォローの言葉をかけておく。


「いざという時、オレは正面切って戦わなくちゃいけないし、マリナもガノンを守る役目がある。お前はきちんと必要な人材だよ」


「そうそう。魔法のお陰で今は走れてるけど、本来のわたしはそこまで運動神経は良くないからねぇ」


「そう、だよね。私、必要だよね?」


「必要必要」


「必要だよー」


「少なくとも、文字通りおんぶに抱っこの自分よりは必要ですよ!」


 気を持ち直す兆候が見られたので、この場にいる全員でヨイショした。


「そうだよね。私、必要だよね!」


 結果、トゥルエノは気勢を取り戻した。勢いあまって、バチバチと周囲に放電するほどだ。


 ガノン以外は雑な合いの手だったんだけど、彼女は気にならなかったよう。何て単純な子だろうか。いや、その方が楽だけど、それで良いのか、帝国のランクA冒険者……。


 よく見ると、トゥルエノの肩に乗る雷精霊も“やれやれ”と呆れている。こういった展開は初めてではないようだ。あっ、精霊がトゥルエノの頭を引っ叩いた。


「痛っ。何するの!」


「能天気なあなたに活を入れて上げたのよ、感謝しなさい」


「はぁ!? そんなことされなくても、私はしっかりしてるからッ」


「ハッ」


「鼻で笑った!?」


 初めて雷の精霊が会話しているところを認めたけど、高飛車な性格っぽいね。ツンツンしている。


 何となく感づいてはいたが、雷精霊の方が手綱を握っているみたいだ。ちょっと高圧的ながらも、真面目な雰囲気を感じる。色々と抜けているトゥルエノがランクAまで上り詰められたのも、相棒がしっかり者のお陰だろう。


 友だち感覚のオレとノマや親子に似た関係のマリナとマイム&エシとは違った関係性で、なかなか面白い。


 ただ、口ゲンカを始める場所は選んだ方が良いと思うぞ。


「急にブツブツと独り言を始めましたが、トゥルエノさんは大丈夫でしょうか? 覚えのない声も聞こえてきますし。……ハッ、まさかお化け!?」


 トゥルエノたちは小声で会話していたんだが、それでも耳に届いてしまったんだろう。背中にいるガノンが不気味がっていた。


 うーん。あのやり取りを日常的に行っていたんだとしたら、帝国の冒険者ギルドでも噂になっていたのでは? 『実力はあるけど、虚空に向かって話しかける変人』といった感じで。


 前言撤回。雷精霊も、いくらか抜けている性格のようだ。主従は似るのかもしれない。








 騎士ガノンの案内もあり、オレたちは午前中のうちに目的地へ辿り着いた。目の前には最初に被害を受けた村が広がっている。


 ただ、例のスタンピードが蹂躙した場所とあって、そこには何も残っていなかった。建物の残骸と思しき小さなガレキは転がっているものの、その他は荒野としか考えられない景色である。ガノンがいなければ、ここに村があったとは判断できなかっただろう。


 当の彼も、何も残っていない光景に衝撃を受けていた。


「そんな……」


 案内を任されたことから、壊滅する前の村に訪れた機会があったんだと思う。そのなれの果てがこれなんだから、ショックを受けても当然だった。


 ガノンに掛ける言葉を、オレたちは持っていない。当事者ではないオレたちが何を言っても、まったく慰めにならないだろう。


 彼は役目を終えた。であれば、今はそっとしておくのが最善かな。


「とりあえず、村の中を探索しよう。その後に、周辺一帯へ探索範囲を広げる」


「わかりました~」


「了解」


 オレはマリナとトゥルエノに指示を出して、村の跡地の探索を開始する。


 とはいえ、ここは襲撃を受けただけの場所なので、何かの物証を得られることはなかった。三十分もかからず、オレたちは集合し直す。


「何かあったか?」


「何もないですねぇ。肉眼でも、魔法でも、一切引っかかりません」


「同じく。まぁ、私はそこまで探知魔法は得意じゃないけど」


 マリナの感知能力でも見つけられないとなると、ここに何もないのは確定だな。


 オレたちは軽く情報共有をした後、予定通りに探索範囲を広げることにする。


「まず、オレが広範囲を探知する。何か見つかったら、マリナがその地点を精査してくれ」


「はーい」


 彼女の返事を聞いてから、オレは探知の範囲を拡大する。おおよそ半径三キロメートルをつぶさに調べた。


 その結果、判明したことは――


「九時の方角の森に、妙な反応があるな。でも……何だ、これ?」


 僅かな魔素の乱れを観測できたんだが、その原因が判然としなかった。魔力を乱すのは魔力なのに、その手の痕跡がまるで見つからない。正確には微かに魔力を感じるけど、この距離でかろうじて察知できる程度。とうてい、魔素を乱せるレベルではない。


 オレが首を捻っていると、マリナが声を上げる。


「九時の方向の森ですね、探知してみますー。マイムちゃん」


「あい」


 彼女の【位相隠し(カバーテクスチャ)】より現れた水精霊のマイム。勢い良く挙手する様は、相変わらず元気に溢れていた。見ていてホッコリする。


 間髪容れずに探知魔法を展開する二人。


 オレが彼女らを大人しく見守る一方、もう一人――いや、二人はそれどころではなかった。


「え? え? どこから現れたの?」


「大気中に、魔力として分散してた? そんなのあり得る?」


 トゥルエノと雷の精霊はかなり動揺していた。【位相隠し(カバーテクスチャ)】の存在を知らないため、マイムの突然の出現に理解が追いついていない模様。精霊の方が若干解析できているのは、さすがとしか言いようがない。


 魔術大陸の時もそうだったけど、最近ではこういう反応が逆に新鮮だよなぁ。フォラナーダや王都の連中は慣れてしまったのか、ほぼノーリアクションだし。


「終わりました~」


 十秒と置かず、マリナは調査が終わった旨を伝えてくる。


 オレは尋ねた。


「どうだった?」


「たくさんの鉄の破片が落ちてますねぇ。何らかの大型魔道具が、粉々に砕け散った感じっぽい?」


「魔道具の残骸か……」


 マリナの報告を聞き、腕を組んで思案を巡らせるオレ。


 真っ先に思い浮かんだのは、『魔道具によって周辺の魔獣を誘き寄せた』なんて謀略。


 不可能な手法ではない。かつて、催眠という技術を用いてスタンピードを引き起こした愚者がいた。


 だが、少し引っかかるんだよな。そんな安易な結論ではないと、オレの勘が告げている。


 確証はない。ゆえに、現場を調べるしかなかった。


「鉄の破片とやらを調べよう。何か分かるかもしれない」


「はい~」


「分かったよ」


 こちらの提案を、マリナたちはすぐに受け入れる。


 残るは、未だ呆けているガノンだった。


「ガノン。お前はどうする?」


「はい? えっと、自分は……」


「ここに残るか、調査に協力するか。二択だ。嗚呼、残った場合の安全は心配いらない。探知した限り、オレたちが助けに来るよりも早くここに辿り着ける敵はいないからな」


 即断できない彼に、オレは淡々と選択を迫る。


 同情はしているので多少は譲歩するが、いつまでもカカシになられては困るんだ。こちらも仕事である以上、きっちり線引きはする。


「……」


 ガノンは数秒ほど逡巡した。それから、おもむろに口を開く。


「すみません。一緒に行きます」


「分かった。早速だが、移動するぞ」


 依然として覚束ない雰囲気を湛えていたが、良しとしよう。そこまでの決断を求めるのは酷だ。


 オレはガノンを再度背負い、マリナの先導で、鉄片が散らばるという現場に向かって駆けた。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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