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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Chapter16-1 帝国の冒険者(仮)(3)

一話分を飛ばしてしまったため、昨日は「帝国の冒険者(仮)(1)」を割り込み投稿いたしました。

お手数をおかけしまして、誠に申しわけございません。

 トゥルエノへの『親しみやすい性格』という評価は当たっていたと、王都に辿り着く道中で確信した。何故なら、最初こそ警戒していた彼女だけど、当たり障りのない雑談をしていくうちに、あっという間に気を許してしまったんだもの。ある意味、即落ちである。


 あまりの緊張感のなさに、相棒の精霊からビシバシと頭を叩かれていた。二人の関係性が何となく掴めてきたよ。


 帝国または森国(しんこく)のスパイかと疑っていたんだが、聖王国と並ぶ大国が、ここまでチョロい人材を送り込んでくるとは考えられない。今のところ、そういった危険因子の可能性は低そうだった。


 ただし、一応の身辺調査は行う予定だ。


 というのも、


「帝国で成功を収めてたのに、どうして聖王国に来たの?」


「噂になってる『魔王殺し』と人間の精霊魔法師を一目見ようと思ってね。そしたら迷っちゃって、あんな森の中で蜘蛛退治だよ。参った参った~」


 ニナが来訪の目的を問うたところ、そんな答えを返してきたためだった。


 前者がオレで、後者がマリナを指しているのは間違いない。


 では、オレたちに興味を抱くことの何がマズイのか。


 エルフがマリナに注目しているという状況が、警戒を払う要因だった。


 マリナが登場するまで、精霊魔法師はエルフの特権のようなものだった。少なくとも、表舞台に立つ精霊魔法師は、すべてエルフだった。


 理由は歴然。魔法大陸に根付く人類のうち、エルフのみが精霊を目視できるからである。


 ここで問題だ。プライドの高い森国(しんこく)のエルフたちは、一種の特権を崩された現状をどう感じるだろうか?


 答えは、論ずるまでもないと思う。


 実は、今春以降、エルフの密偵が多数目撃されているんだよね。マリナに関する情報収集のみに徹していたので、ウィームレイたちと相談した上で泳がせていたんだ。


 そういった事情があるため、マリナが目的のエルフというだけで、警戒するには十分だった。


 まぁ、話せば話すほど、トゥルエノがスパイとは縁遠い人種だと明らかになるわけだけど。


 そうこうしているうちに、オレたちは王都の冒険者ギルドに到着した。


 初めての王都に終始はしゃぎっぱなしのトゥルエノだったが、観光は後でゆっくりやってほしい。


「ちょっといい?」


「これはニナさま、ゼクスさま。もう依頼を終わらせたのでしょうか?」


 ニナが受付嬢に声をかけると、彼女からはそんな言葉が返ってきた。


 オレたちが依頼を受注して二時間も経過していない。普通なら、依頼達成よりも何かトラブルがあったと考えるんだけど……これも厚い信頼と思うべきか。


 ニナは首を横に振る。


「違う。トラブル」


「えっ、トラブルですか!?」


 彼女の返しに、心底驚く受付嬢。


 察するに、オレたちがトラブル程度で引き返すとは全然考えていなかった様子。信頼が厚いなぁ。


 オレが若干遠い目をしている間も、ニナたちの話し合いは進む。


「アタシたちが現場に着く前に、討伐対象が全滅してた。こっちが証人」


「ごめんなさい。依頼が出てるって知らずに、全部倒しちゃったんだ。こっちが私のギルドカードで、こっちが討伐証明だよ」


「拝見いたします。……帝国の冒険者、トゥルエノさんですね。事情は把握いたしました。しばしお待ちいただけますか? 上の者に経緯を説明して参りますので」


「構わない」


「大丈夫です」


 内容が内容だけに、上司に確認を取ってくるらしい。受付嬢はバックヤードに引っ込んでいった。


 ちなみに、オレもジェスチャーで彼女の離席を了承しているので悪しからず。


 受付嬢は、そう時間を掛けずに戻ってきた。


「お待たせいたしました。本件は当ギルドの規則に則り、報酬の十分の一をニナさまに、残りを当ギルドが得る形となります。トゥルエノさんは、何かしらの損害が生じていた場合、申告してくだされば、聞き取り調査の後に一部補填を行えます」


 実際に魔獣を討伐してないオレたちは手間賃のみ。横入りとなったトゥルエノは儲けナシか。妥当な落としどころだな。


 ギルドが一番得しているけど、それがもっとも角が立たないんだよね。依頼の横取りを横行させないためには、冒険者側を儲けさせてはいけないわけだ。


「ご質問はございますか?」


「ない」


「ないよ。あと、補填も必要ない。特に損害は受けてないし、消耗品の類も使ってないから」


 受付嬢の最終確認にニナは短く答え、トゥルエノも首を横に振った。


「そうですか。では、通常通りの処理をいたしますね。こちらがニナさまへの見舞金となります。ご確認ください」


 ニナは、硬貨の入った袋の中身を手早く確認する。問題はなかったようで、すぐに懐へと仕舞った。


 これで受付での処理は終わったんだが、オレたちは即座に離脱することはなかった。


「しかし、今回は運が悪かったですね。バッティングは稀に発生しますけど、ランクBの依頼では珍しいですよ。しかも、場所が森の中ですし」


「確かに、フォレストスパイダーの群れをわざわざ相手するヒトはいないね。まぁ、誰が悪いってわけでもない。諦める」


「ですねぇ。今回は誰も悪くありません」


 こんな風に雑談を始めるニナと受付嬢。他に利用客もいないので、二人の口が止まることはない。


 彼女たちの様子に、第三者であるトゥルエノは完全に戸惑っていた。「え? え?」と挙動不審に目を泳がせている。


 無理もない。先程までの真剣な空気が、和気藹々としたものに一転したんだからね。慣れていない者だとついていけないだろう。


「二人とも、トゥルエノが困ってるぞ。ちょっとは加減をしてあげろ」


「ごめん」


「も、申しわけございません」


 オレがたしなめると、ニナたちは各々頭を下げた。


 対してトゥルエノは、混乱しつつも質問を投じる。


「い、いや、気にしないでいいよ。それにしても、二人は仲がいいんだね」


「うん。友だち」


「ニナさまが当ギルドを利用され始めてからですので……かれこれ二年以上の付き合いですね。プライベートでも、たまに遊びに誘ってくださってくれるんです」


 そう言って笑い合う二人。


 それを見て、トゥルエノは意外そうに呟く。


「へぇ、珍しいね」


「そうなの?」


「一概には言えないけど、職務以上に冒険者と仲良くするギルド職員は少ないかな。情が移りすぎると、もしもの時にツライんだってさ」


 トゥルエノの発言に、受付嬢も同意を示す。


「トゥルエノさんの仰る通りですね。必要以上に踏み込まないようにする職員は多いです。私も、フォラナーダの方々以外とはプライベートでの接触は持ちませんから」


「そうなんだ」


 初耳だったんだろう。ニナは僅かに目を丸くしていた。


 納得できる理屈ではある。騎士にも通ずるところはあるが、魔獣や盗賊を相手取る冒険者たちに、必ず生きて帰れる保証はない。依頼に出てから帰ってこないなんて事例、枚挙にいとまがないはずだ。


 だからこそ、冒険者とは必要以上に仲良くしないという暗黙の了解が、冒険者ギルドの職員には生まれているのかもしれないな。いちいち悲しんでいては、心を病んでしまう。


 ただ、その細やかな決まりごとも、オレたちフォラナーダ相手だと例外となるようだ。オレの確認している限り、冒険者として活動している面々は職員と仲が良いもの。


 それだけ、オレたちの強さが周知されているということだな。絶対に安全なんてあり得ないんだけど……彼女たちの交友範囲が増えるのは良いことだ。部外者にまで、厳しい言葉を投げかける必要もあるまい。


 オレが内心で苦笑を溢していると、唐突にトゥルエノが大声を上げた。


「えっ、フォラナーダ!?」


 慌てた様子でオレとニナを見る彼女。


 突然の行動に驚くオレたちだったが、トゥルエノが何を焦っているのか、すぐに察しがついた。


 ニナが呆れた風に言う。


「まさか、気づいてなかった?」


「もしかしなくても、そうだと思うぞ」


 オレも彼女に同意する。


 要するに、トゥルエノはオレたちの素性を把握していなかったんだ。


 確かにオレは名乗っていなかったけど――道中は『助手くん』と呼ばれていた――、それにしたって鈍感すぎる。何せ、この白髪はそのままだし、ニナは普通に名乗っていたわけだから。


 とはいえ、ここまで気づかなかった者がいるのも事実。


「ちょっと自惚れてたのかも」


「かもなぁ」


 まるで、『テレビに引っ張りだこなのに、正体を気づいてもらえなかったアイドル』みたいな気分だよ。肩透かし感が半端ない。


「知らずに一緒にいたんですか!?」


 受付嬢も驚きの声を上げると、トゥルエノはバツが悪そうな表情を浮かべる。


「それはその……『魔王殺し』と『人間の精霊魔法師』っていう肩書きと、フォラナーダ関係者っていう情報しか知らなかったもので」


「その『魔王殺し』こそ、目の前にいらっしゃる方ですよ?」


「えっ!?」


「どうも、『魔王殺し』です」


「えええええええ!?」


 受付嬢のダメ押しに悪乗りしたところ、トゥルエノはその場で腰を抜かしてしまった。アウアウと口を開閉し、丸くした目でオレを凝視してくる。


 想像以上のリアクションに、こちらも困惑した。他の冒険者がいなくて助かった。でなければ、『フォラナーダ侯爵が女性を押し倒した』なんて面白おかしい噂が広がっていたかもしれない。


 職員に関しては心配してない。何せ、彼らは公務員だ。上司たる貴族の風聞を流すはずがない。流せば速攻で首になる。


「悪乗りが過ぎた。すまない」


 オレは謝罪をしつつ、トゥルエノに手を差し出した。


「いえ、あの、大丈夫、です」


 彼女は混乱しながらも手を握り、立ち上がる。


 きちんと立ったのを認めたオレは、今さらながら正式に名乗りを上げた。


「私の名前はゼクス・レヴィト・ガン・フォラナーダ。先程まではプライベートゆえに、正式に名乗らなかったんだ。結果的に騙し討ちのようなことになってしまい、申しわけない。許してほしい」


 こちらが頭を下げると、トゥルエノは慌てた。


「あ、ああ、頭を上げてッ。謝罪は受け入れるから、すぐに頭を上げて。すっごく居心地が悪い」


 めちゃくちゃ挙動不審に(おちい)ったので、素早く姿勢を正す。


 ここまで取り乱すとは、どこかの貴族の横暴に振り回された経験があるんだろうか? だとしたら、悪いことをしたな。


 謝ると再度慌てふためきそうなので、心の中で謝罪をしておく。


「というわけで、キミが興味を抱いてた『魔王殺し』がオレだ。実際に対面してみて、どうかな?」


 オレが肩を竦めると、トゥルエノは頬を引きつらせる。


「どうも何も、全然強そうな気配を感じなかった……じゃない、感じませんでした」


「さっきも言ったけど、今はプライベートだ。無理に敬語を使わなくていいよ」


「えっと、ありがとう」


 口調に関する許可を出した後、オレは口元に手を当てる。


「しかし、『強そうな気配を感じない』か……」


「な、何か問題でも?」


「いや、そういうんじゃないから安心してくれ」


 おそらく、トゥルエノの魔力感知はかなり高性能なんだろう。それを活用し、相手の強さを魔力量によって測っているんだと思う。それも無自覚で。


 オレは普段から【魔力隠蔽】を自身に施しているため、その辺の感覚が狂っていたんだと察しがついた。


 魔力で実力を測る輩といえば、魔族や精霊が思い起こされる。人類でその手の測定を行ったのは、トゥルエノが初めてだった。


 そう考えると、結構希少な人材だな、彼女は。努力次第では、今後の成長に期待できる。


 結局、その後もトゥルエノはなかなか落ち着かなかった。不意打ちで『魔王殺し』であり貴族であるオレに出会ったのが、相当ショックだったらしい。


 しばらく王都に滞在するというので、また今度話をしようと約束して解散となった。今回のお詫びも兼ねて、その時は何かを(おご)ろう。


 でも、今その前に――


「ちょうどいい依頼もないし、今日は王都でのデートに変更しようか。色々見て回ろう」


「食べ歩きを所望する」


「いいよ。せっかくだから、新規開拓といこうか」


「楽しみ」


 今は、ニナとのデートを思いっきり楽しもうと思う。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 若干ポンコツ臭は漂うけど性格良さそう なんかポンコツ多くね?ゼクスの周り
[一言] 人格も実力も申し分ない。これは身内への引き込み案件ですが……さて……。何も無ければ良いんですが
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