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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第二部 Ex stage

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Interlude-Ekolu 友を名乗れるように

「エコル」


「ふぇ?」


 ふと、アタシ――エコルに声が掛けられた。


 振り向けば、そこには豊かな渦巻き髪を湛えたラウレアが立っていた。ドオール公爵家のご令嬢で、同年代の中でもとびきり優秀な少女。そんな彼女と友人だなんて、未だに信じられない気持ちがある。


「どうかした?」


 アタシが首を傾ぐと、ラウレアは眉根を寄せた。


「『どうしたの?』ではありませんわ。依頼を見繕ってきたのですから、ボーッとしていないでサッサと立ってくださいな」


「あっ、そっか。ごめんごめん」


 今日はラウレアが選ぶ番だからと、アタシは待機していたんだった。色々考えていたせいで、すっかり忘れてたよ。


「大丈夫ですか? 調子が悪いのなら、一日くらい休んでも大丈夫ですわよ?」


 両手を合わせて謝罪すると、彼女は心配そうに訊いてきた。


 アタシは慌てて首を横に振る。


「そんな必要はないから! 本当に大丈夫。ちょっと考えごとをしてただけだし」


「考えごと、ですか?」


「うん。……って、話は後にしよう。依頼を受理しちゃわないと」


「そうですね。詳細は道すがらにでもお聞きしましょう」


「あ、そこは聞くんだ」


「当然ですわ」


 ――なんてやり取りを交わしつつ、アタシたちはギルドの建物を後にする。


 ちなみに、美人のラウレアに突っかかってくる人間は誰もいない。公爵令嬢という立場が知れ渡っているのもそうだけど、手を出したら痛い目を見ると情報共有されているためだ。


 ゼクス監修の試験期間中、例のピンキーをボコボコにしたんだよね……カロンが。


 あれから一ヶ月近く経過しているけど、鮮明に思い出せるよ。完全な後衛職だと思っていた彼女が、金級狩人の彼らをタコ殴りにしたんだもん。その場に居合わせた狩人たち全員がドン引きしていたね。


 ともあれ、そういった経緯もあり、アタシたちに粉をかけるのはギルド内で一種のタブーになっている。しばらくは平穏は保たれるんじゃないかな。


 王都の外へ向かう道すがら、ラウレアから依頼の内容を確認する。たぶん、いつもと同じベアラット――クマ大のネズミ――の討伐だと思うけど。


「今日の依頼は?」


「ベアラットですわ」


「やっぱり」


「銀級の依頼の中では、一番コスパが良いですからね」


 ベアラットは森を食い荒らしかねない魔獣なので、優先討伐対象として報酬が美味しいんだ。加えて、素材も良い値段で売れる。


 その分だけ難度も高かったりするんだけど、アタシたちは問題ない。あの修行(地獄)を潜り抜けたアタシたちなら、ね……。


 たわいない雑談を挟みつつ、ラウレアがついに訊いてくる。


「それで、先程は何をボーッと考えていたのでしょう?」


「結局訊くんだ?」


「当然ですわ」


 よほど興味をそそられているのか、小気味良い返事だった。


 アタシは「うーん」と少し悩む。言いにくいとかではなく、そこまで大した内容じゃないためだ。


 まぁ、ここで変に誤魔化すと、余計な心配をさせてしまう。素直に話すしかなかった。


「ゼクスたちのことを考えてたんだよ」


「フォラナーダ殿たちのこと?」


「うん。何だか懐かしいなって」


「まだ一ヶ月しか経っておりませんわよ?」


 呆れた様子のラウレアに、アタシは苦笑を溢す。


「そうなんだけどさ。ゼクスと出会ってからは色々と濃い毎日だったし」


 ゼクスを召喚してしまった日を境に、アタシの人生は大きく変わった。大変なことは多かったけど、苦労ばかりだった日常に楽しむ余裕が生まれたんだ。


 彼を呼び出したことに関しては、今でも申しわけなく感じている。ただ、それと同じくらい『呼んだのがゼクスで良かった』とも思っていた。彼のお陰で今のアタシがいると実感していた。


 ゼクスが隣にいない日が続くにつれて、寂しい気持ちが溢れてくるんだ。彼はアタシの恩人で、師匠で、初めての友だち。いろんな意味で、思い入れ深いヒトだったから。


 『濃い毎日』の部分に強く共感したのか、ラウレアは苦笑いを浮かべる。


「確かに、あの方々との日々は退屈しませんでしたね。一週間に満たない付き合いでも、驚きの連続でしたわ」


「だよね。ビックリ箱かって思うほど、よく分からないもののオンパレードだったよ」


「エコルも十分にトラブルメーカーですが、フォラナーダ殿も他人のことをとやかく仰れる方ではございませんでしたわ」


「そうそう……って、アタシはトラブルメーカーじゃないよ!?」


「えっ、自覚がございませんでしたの?」


 本気で目を丸くするラウレアに、アタシは憤慨する。


「違うから! 何か知らないけど、問題が向こうからやってくるんだよッ」


「それをトラブルメーカーと仰るのでしょうに……」


 何故か彼女は呆れ顔を浮かべるが、断じて違うよ。この一ヶ月も色々大変だったけど、アタシはトラブルメーカーじゃない!


「分かりました。分かりましたから、落ち着いてください」


「失礼しちゃうよ!」


 最終的に折れたのは向こうだった。若干の溜息が混じっているものの、こちらの勝ちは勝ちだもんね。


 フフンと得意げに鼻を鳴らすと、ラウレアが不意に尋ねてくる。


「それで、フォラナーダ殿方は、いつお呼びになるのですか?」


 それは当然の質問だった。寂しいと語ったんだから、連絡を取り合うのは自然な流れだよね。


 でも――


「しばらくは声をかけないつもり」


 アタシは自ら連絡を取るつもりはなかった。


 ラウレアは怪訝そうに首を傾げる。


「何故でしょう?」


「『胸を張って、ゼクスの友だちだって言えるようになりたいから』かな」


 今のアタシは弱い。何もかもが不足していて、彼に頼りっぱなしだ。借りばかりが増えている。


 それが健全な友人関係だとは、とうてい思えなかった。これまで友だちのいなかったアタシでも、それくらいは理解できた。


 だからこそ、アタシは強くなりたい。立派な大人に成長したい。次にゼクスと会った時、何の憂いもなく”彼の友だちです”と名乗れるようになりたい。


 そのために、しばらくは自分なりに頑張ろうと考えた。


「たぶん、アタシ一人で出来ることなんて限られてて、色々なヒトに力を借りることにはなるんだろうけど……それでも、ゼクスに頼らず突き進みたいんだよね」


「そうですか」


 アタシが語り終えると、ラウレアは静かに頷いた。


 そして、笑顔で返してくる。


「でしたら、共に頑張らせていただきましょう。(わたくし)もフォラナーダ殿には大きな借りがありますもの」


「いいの?」


「もちろん。(わたくし)たちも友人同士。遠慮なく頼ってください」


「ありがとう、ラウレア! そっちも遠慮なくアタシに頼ってね」


「ええ。その時はよろしくお願いいたしますわ」


 アタシとラウレアは笑い合う。


 自分の置かれている境遇は決して甘いものじゃないけど、全力で頑張っていきたいと思う。いつか訪れるだろう、優しい未来を目指して。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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ドオール公爵は、なぜエウレア置いて急いで帰ったんだろう?
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