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Chapter14-2 落ちこぼれの責任(3)

 翌朝、陽が昇るとともにオレは起床した。【身体強化】は自然回復の強化も行えるため、短時間の睡眠でも疲労は引きずらない。脳の方も、精神魔法で調整したので問題なかった。


 ちなみに、昨晩のうちにカロンたちとの定時連絡は済ませてある。災害を誘発する危険があるせいで長時間は語れなかったが、向こうは特段トラブルなく過ごせているよう。安心した。


 一つ気掛かりなのは、カロンのことだった。


 あの子、ブラコンをこじらせすぎて、長くオレとの触れ合いがないと禁断症状を起こすんだよ。体の震え、倦怠感、動悸が主かな。


 事前準備ナシでの別離だったから、五日が限界だと予想している。これでも以前よりはマシになったんだけどね。何とか堪えてほしいところだ。


 閑話休題。


 初日に、こちらを襲ってくる刺客は現れなかった。情報収集に徹しているんだろう。少なくとも、魔法なしでの察知範囲には入ってこなかった。


 一方のエコル側も、平和な夜を過ごせた様子。ノマからの緊急連絡がなかったことが証拠だ。


 正直、意外な結果だった。話を聞く限り、絶対に先走って手を出してくると踏んでいたんだが、思ったよりもカナカ王国は慎重派らしい。暗部の指令権を握っている者は、優秀な部類なのかもしれないな。


 支度を整えたオレは、エコルとノマのいる女子寮へ足を向ける。


 早朝の学内はとても静かだ。湖上の孤島という特性上、終日に渡って多くの人間が滞在しているはずだけど、この時間までは騒がしく活動していない。耳に届くのは小鳥の(さえず)りと若干遠い滝の落ちる音のみ。


 ――否。


「やっぱり、いるよなぁ」


 オレを注視する複数の気配が感じられた。


 相当距離を置いている上、ヒトとは異なるモノのため、気づくのが大分(だいぶ)遅れてしまった。


 魔法が使えないと、探知範囲がガタ落ちなんだよなぁ。百メートル以内まで近づいてくれれば、確実に気づけるんだけどさ。


 おそらく、使い魔を利用した監視方法だ。五感の一部を繋げる術は、昨日の資料で見かけていた。


 彼らは、校内に潜伏していた間者たち。カナカ王国以外の四ヵ国やその他組織の連中も含まれていると思われる。


 ()もありなん。初っ端から派手に暴れたからな。エコルに興味がなくとも、オレの実力を警戒するに決まっていた。


 また、現状では召喚に居合わせた生徒とロクーラ、校長しか、オレの力を目の当たりにしていない。どこまで真実なのかも探りたいんだろう。


 なかなかに新鮮な反応だった。何せ、元の大陸だったら、白髪がいくら暴れようと虚言だと断じられるもの。


 今でこそ、オレの存在を警戒する反応が見られるけど、以前は真っ先に侮られていた。髪の色だけで実力を判断されていた。


 この辺りの反応が、別大陸なんだなと強く実感する部分だった。魔力を持たない彼らは、髪や瞳の色を判断材料に含めていないんだ。身体的特徴の一種としか捉えていない。せいぜい、白髪の若者を珍しく思うだけだろう。


 とはいえ、嬉しい状況とは言い難いけど。油断してくれた方が、その隙を突きやすいし。


 今は敵意を感じないので、監視たちは放置する。隠すべきところは隠すが、すべてを遮断するつもりはない。


 そうこう考えているうちに、オレは女子寮前に到着した。二メートルほどの壁に囲われた内部には、二階建ての集合住宅が何棟も並んでいる。


 寮は身分差によって割り振られており、中心に近づくほど高位の貴族のようだ。この辺は男子寮も同じ。


 立場の弱いエコルは、当然一番外周の建物。しかも、門とは正反対の位置である。必然的に、女子寮敷地内を突っ切る必要があった。


 一応、部外者の侵入を防ぐ守衛等はいるが、長らくトラブルがなかったのか、かなり腑抜けている。魔法の使えないオレでも簡単に通り抜けられた。たぶん、目をつむっても容易いと思う。


 トップがトップなだけに、色々と杜撰(ずさん)だな。ディマの治める学園だったら、魔法を封じての侵入は不可能だし。


 ただ、一定以上の立場の者は、そういった腐敗も考慮済みのよう。中心に近い建物ほど、各自で用意した護衛が守っている割合が高かった。


「おや?」


 道中、閑静な空気の中に、僅かな熱気を感じた。


 闘争――ではない。争いごとにしては緊迫感が薄いもの。おそらく、何者かが訓練でも行っているんだろう。


 こんな朝方に? と思わなくもないが、ストイックな生徒ならあり得るか。早朝にしか時間を作れない人間もいる。


 どうやら、件の人物が取り組んでいるのはランニングの模様。五名の護衛とともに走る彼女らは、コチラへ徐々に近づきつつあった。くしくも、進行方向からである。


 絶賛不法侵入中なので、見つかっては面倒だ。かといって、遠回りするほどの手間はかけたくないため、一旦身を潜めることにした。近場の建物の屋上に飛び乗り、死角へと移動する。


 程なくして、五名の護衛を引きつれた少女が姿を現した。


 うわぁ、マジかッ。


 心のうちで、感嘆と呆れを混ぜた感想を抱く。


 何に対してかと言えば、ランニングする少女の容姿を見て、だった。


 聞いて驚け。少女は金髪ドリルだったんだ! しかも、かなり高貴な身分。


 走るのに適した簡素な服に身を包んでいるものの、彼女のまとう空気は紛うことなき高位貴族のそれ。


 ツリ目なのと、どことなく気位の高い雰囲気があるのもポイント高いな。まさしく、悪役令嬢のテンプレに則った容姿だった。


 オレの介入により、カロンは原作と完全に別人化したので、割と感激してしまったよ。


 まぁ、すべては見た目から判断した所感にすぎないため、実際の性格はまったく異なるかもしれないけど。


 というか、その可能性の方が高い。


 こんな早朝から自主練を行う子だぞ。性格の良し悪しはともかく、腐った貴族というのはあり得ないだろう。きちんと実力を認められるタイプだと思う。


 少女たちは、こちらに気が付くことなく走り去っていく。


 ある程度距離が開いたところで、建物より飛び降りた。


 オレは満足げに頷く。


「うん、いいものを見た」


 だいぶ薄れたと考えていたけど、オタクの(さが)は簡単に消えないらしい。


 少し高揚した気分のまま、エコルやノマとの合流を急ぐのだった。








「それはドオールさまだね」


 エコルと朝食を済ませた後。校舎へ向かう最中に今朝の少女の話をしたところ、彼女はそう答えた。


「ラウレア・マナロ・ドオールさま。モオ王国公爵家の令嬢で、アタシら四学年の首席。この間の召喚の授業では、希少種のリトル・フェアリードラゴンを呼び出したんだ」


「詳しいんだな」


 てっきり、エコルは貴族関連の知識に疎いと思っていたんだが。


 彼女は苦笑を溢した。


「そりゃね。クラスメイトだもん」


「そうなのか? 昨日の生徒の中に、ラウレア嬢はいなかったぞ」


「昨日のは補習。正規の授業中に使い魔を呼べなかった生徒が集まってたのさ」


「なるほど」


 エコルは落ちこぼれらしいし、納得の理由である。


 すると、彼女は不満げに唇を尖らせた。


「どうせ、アタシは不出来な生徒ですよーだ。反面、ドオールさまは何でも持ってるよね。貴族だし、頭良いし、魔術の腕も高いし、使い魔は竜だし、美人だし、胸もおっきいし」


 ペタペタと虚しそうに自身の胸部を触る彼女。


 まぁ、最後に関しては擁護できない。でも、カロンたちには敵わないものの、エコルも美人だ。身長は百七十と高くてスタイルも良い。容姿に関しては負けていないと思う。


 とはいえ、こういった話題は安易に触れるべきではないだろう。曖昧な笑みを浮かべてスルーするのが吉だ。


 エコルが気を持ち直すのに、それほど時間は要さなかった。すぐに元の明るい表情へと戻る。


「でも、性格はアタシに軍配が上がると思うんだよね! ドオールさまって、高圧的でプライドの高いヒトだし」


「自分で言うか?」


「……うん。言ってから恥ずかしくなった。というか、今のセリフを聞かれたら無礼打ちされそう。聞かなかったことにして?」


「はいはい。今度からは気を付けろよ」


「はーい」


 片手を挙げ、適当な返事をするエコル。


 実に調子の良い子だ。


「面白いよね、彼女」


 ふと、ノマが呟いた。


「同感だ」


 オレは小声で同意する。


 コロコロと表情が変わるのは、見ていて飽きない。自分の境遇に諦観は抱いていても、腐ってはいないので、全体的にサッパリした印象を受けるんだよな。だから、気持ち良く会話を進められる。


 そんな彼女が多くのヒトより虐げられているんだから、世の中は実に理不尽だ。せめて、オレのいる間は、安心できる学校生活を送ってほしい。


 そう思えるのも、エコルの人柄ゆえなんだろうね。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 帝国での異世界人達の召喚誘導でゼクスの前世の妹来ませんかね? そうしたら今ゼクスのいる大陸が何の世界か分かりそうな気がするんですが。金髪ドリルはテンプレ過ぎです(笑)。
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