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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第一部 Main stage

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Interlude-Shion 甘さとは(後)

「思い出したみたいだな」


 想起し終えた私に、ゼクスさまはお言葉をかけてこられる。


 私は首肯し、その上で再度問うた。


「あの時の話とこの(・・)クレームに、何の関連性があるのでしょうか?」


 苦情の内容は、とある貴族が道中にフォラナーダ領都へ寄った際、スリの被害を受けたというもの。調査によって事実確認は済んでおり、加害者は被害者貴族がその場で処断したと記されている。


 物騒ではあるが、特段変わった事件ではない。悲しくはあるけれど、物乞いが暴走して手を出す相手を間違えることは、往々にして発生し得るのだ。貴族側がその場で斬り捨てるのも、まったくもって問題ない。


 引っかかる項目があるとすれば、加害者の盗人が幼い子供だったという点か。


「いや、まさか……」


 嫌な想像をしてしまった。ゼクスさまに思い出せと指示されたことと今回の苦情を鑑みると、一つの結論が導き出されてしまう。


 私はその予想を受け入れられなかった――違う、受け入れたくなかった。


 しかし、ゼクスさまは、容赦なく現実を叩きつけてこられる。


「処断された盗人っていうのは、シオンが見逃した少女だよ」


「……」


 言葉もない。無慈悲な事実に、私は愕然としてしまった。


 あの時、あの子は「二度と盗みは働かない」と約束したのに。


 私が呆然としている間にも、ゼクスさまは滔々(とうとう)と語られる。


「当時はわざわざ言わなかったが、あの少女はスリに手慣れてた。スパイとして教育を受けていたシオンから、気づかれずに財布を奪えるくらいに。ただの町娘なのに、そこまでの技量を持つってことは、それだけ回数をこなした証左。何度も盗みを繰り返してきた人間が、たった一度の失敗で手を洗うわけがないんだよ。改心させたければ、法の裁きを受けさせ、徹底して『盗みイコール悪』を教え込むしかない」


「どうして教えてくださらなかったのですか……」


 少女の口にした謝罪が嘘だと看破していらっしゃったなら、指摘くださったら良かったのに。


 私は不敬と理解していながらも、やや非難染みた語調で呟いてしまう。


 彼は淡々と返された。


「それがシオンの選択だったからだ。もちろん、アドバイスを求められたら答えただろうけど、キミは自分の意思のみで決断した。オレはキミの意見を尊重したにすぎない」


「……」


 そうだ、見逃したのは私の決断。ゼクスさまに意見を乞える状況だったにも関わらず、何も尋ねなかったのは私の判断だった。私の意に沿わない結果だったからといって、彼を責める(いわ)れはないのだ。


 手厳しい彼の言葉に、私は何も言い返せなかった。


 気まずい沈黙が流れる。


 しばらくして、ゼクスさまが口を開かれる。


「これを教えたのは、そういった甘いところを少しでも克服してほしいからだ。また、甘さが招く現実を知ってほしかった。……オレの知るシオンなら、きっと、この弱点を乗り越えられるだろうと信じてる」


 そう話す彼の声は、どこまでも温かみに溢れていた。信頼と情を深く感じる。


 ただ、心の整理が未だについていない私は、上手く返事をできない。最適な言葉が思い浮かばない。


 だから――と言えば、言いわけになるのは承知している。それでも、そのセリフが口を衝いてしまった。


「甘いことは、悪いことなのでしょうか?」


 過去に指摘された時より、ずっと心の底にわだかまっていた考え。


 他人に甘くすることは、真に悪と言えるのだろうか。確かに、今回の一件のように望まぬ結果を招くこともある。だが、誰かを救えることもあるのではないかと、私は考えていた。


 真っすぐにゼクスさまを見据える。


 対し、彼も私を真っすぐ見つめられた。


 視線が交差し、再び沈黙の帳が下りる。


 そうして幾秒か。不意に、ゼクスさまは「嗚呼」と得心した風な声を漏らされる。その後、「なるほど、なるほど」と何度も頷かれた。


「シオンの考えは理解した。優しさ(・・・)は時として人を救う、それは正しい」


「なら」


 治す必要はないのでは、と口にしようとした。


 ――が、それは発せられない。その前に、ゼクスさまが言葉をかぶせられたために。


「その上で一つ訂正をしておく。甘さ(・・)優しさ(・・・)は、まるで違うものだ」


「甘さと優しさ……?」


 私は首を傾いでしまう。


 それは頭目()にも言われなかったセリフ。どのような意図の言葉なのか、頭の中で反芻(はんすう)して考えてみた。


 しかし、いくら時間をかけようと、ゼクスさまの仰る意味がよく理解できなかった。


 それを認められた彼は、小さく息を吐かれた。


「キミの甘いところは嫌いじゃないが、やはり、今後のためには克服した方がいい。色々と疑問を感じてるだろうけど、その答えは自分で見つけるんだ」


 それより先、ゼクスさまは二度とこの話題を口にはなさらなかった。宣言通り、自分で回答を見つけなくてはいけないらしい。


 甘さと優しさの違い。言葉遊びではなく、明確な差異がそこには存在するという。







 ――未だ、私は答えを見出せていない。

 

次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。

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― 新着の感想 ―
文の流れからそれほど脱線してないと思われるんだが、閑話休題という単語を入れすぎなんじゃないかな。
あえて憎まれ役をかってでも正道へ導くのか 目の前の軋轢を嫌って受容(甘やか)してしまうのか
[一言] 盗みをしているということは、まともに生活できる環境ではない(貧乏・家族がそもそも犯罪者)、心がけが歪んでいる(裕福でもスリルを味わいたいとか) そんな相手に盗みを止めさせたいなら、家庭環境…
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