Interlude-Caron 愛を知る彼女(後)
お兄さまが冒険者をなさっていると耳にし、オルカと突撃しました。
ずるいです、お兄さま。魔獣狩りなんて面白そうなことを一人でなさっているなんて。私たちも混ぜてください!
お兄さまは渋っていらっしゃいましたが、条件つきながらも、最後には押し切ることに成功いたしました。ハイタッチです、オルカ。
魔獣狩りへの同行は正解でした。新鮮でしたし、自分の実力を確認できましたし、さらに強くなれたように思えます。
しかも、お兄さまの戦闘シーンを堪能できました!
お兄さま、恰好良すぎます。これだけで白米――お兄さまが好んで食べる穀物――を何杯も食べられそうです。おっと、鼻血が。
やはり、お兄さまは天才です。世間的には無属性は弱いと軽んじられているのに、それを苦ともせず、ご自身を高められています。誰も到達し得ていない技の数々を開発し、さらには聞いたこともないような知識を披露してくださいます。
私やオルカもその一端の恩恵を受け、同年代では敵うものがいないほどの実力を獲得できました。本当に、お兄さまは素晴らしいお方です。
最近では、オルカと共にお兄さまを讃える会話ができるので、とても楽しい毎日が送れています。これもすべて、お兄さまのお陰ですね。
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オルカのご実家に危機が訪れたようです。伯爵家の利益を考えて援軍は出さないと決断されたお兄さまですが、そのお顔はとても辛そうでした。当然、オルカも意気消沈しています。
お兄さまもオルカも――他の皆も、口では納得したと言いつつ、まったく納得した表情をしておりません。
本当に、このまま何もせずにいて良いのでしょうか?
いえ、そのようなことはありません。絶対に行動を起こすべきです。お兄さまの語られた物語の主人公たちは、こういう時でも動いていらっしゃいました。利益など度外視で、心の準ずるままに行動しておられました。
今こそ、私がお兄さまを支える番です!
私は重役の方々に話しかけて回りました。初めてお話する方もいて緊張しましたが、何とか全員に手回しができました。あとは、お兄さまを説得するだけです。
私の予想通り、お兄さまは伯爵家と己が感情で板挟みになっていらっしゃいました。一介の令嬢にすぎない私には、家を背負うことの重みを真に理解はできません。とても悔しいですが、諦めるしかないことです。
しかし、私は説得します。かつてお兄さまが仰った「兄妹は支え合うものだ」という文言を出し、翻意を促します。きっと、心に従った方が、お兄さまには良い未来が待っていると思うから。
必死の説得の甲斐あり、お兄さまは援軍を出す決断を下してくださいました。もちろん、私も同行いたします。
翌朝に事実を知ったオルカは心底驚いていましたが、嬉しそうでもありました。
戦争とは、ここまで醜いモノなのかと、我が目を疑いました。
到着したビャクダイ男爵領の姿は惨いモノでした。あらゆるものは燃え尽き、生きている者は何一つ存在しない。地獄の如き世界が広がっていました。
あまりの凄惨さに目を背けたくなりますが、我慢します。この展開は、あらかじめお兄さまに伝えられていました。その上で、しっかり受け止めるよう言われていました。
無理はするなとも仰っていましたが、私にとってもオルカにとっても、逃げてはならぬことなのでしょう。であれば、目を逸らしません。
オルカもそれが理解できているようで、まっすぐ自らの故郷を見つめていました。そんな彼の背中を、私は優しく撫でます。
生存者は残っていました、男爵の領城に四十人ほど。
とても少ない人数……。貴族の勉強を始めたばかりの私でも理解できます。男爵領は、もはや存続できないでしょう。領地運営には、圧倒的に人手が不足しています。おそらく、オルカのお兄さまは爵位を返上するに違いありません。
それでも、命は繋がりました。敵兵の相手をお兄さまが買って出た以上、城内は安全です。何の心配もいりません。余計な心配はせず、私は私のできることをしましょう。
まず、ケガ人を集めさせ、治療に務めました。重傷者を優先して【上位治癒】を施し、軽傷者たちは一斉に【広域治癒】で治します。今日まで鍛錬を続けていた甲斐あり、すべてのケガ人を治療できました。城内にうめき声はなくなり、ほんの少しだけ笑顔が戻ります。
治療の後は、オルカと同じ雑務のお手伝いや、顔色の悪そうな人への声かけを行いました。
後者は必要かと疑問に思う方もいらっしゃるでしょうが、結構侮れません。
お兄さまの精神魔法の研究を、僅かですがお手伝いしている私は知っています。精神の与える影響は計り知れないのです。一つの思い込みが、身体へ多大な変化を与えます。時には体調を悪くし、時には難病を治してしまうことも。
だから、内乱のせいで気の滅入っている人へ、明るく言葉を投げかけるのです。私の笑顔一つで誰かが救われるなら、これ以上の喜びはありませんから。
困ったことになりました。いえ、誰かが倒れたとか、戦況が悪くなったとか、そういう類の難事ではありません。他者からすれば、ほんの些細な困りごとです。
というのも、男爵領の皆さまが、私のことを『陽光の聖女』などと呼称し始めたのです。
私、聖女などと呼ばれるほど立派な人間ではありません。喜びや照れくささを置き去りにして、ただただ困惑するばかりです。
お兄さまが護衛に付けてくださったシオンへ相談しましたら、「お嬢さまのなさっていることは、聖女と呼ぶに相応しいものです。胸を張ってください」と返されてしまいました。他の騎士の方も同様。まったく役に立ちません。
私は、お兄さまがお褒めくださるだけで十分なのに……。
いくら訂正しようとも、聖女呼びが変わる兆しは見られなかったので、諦めました。もう良いですよ、聖女で。お好きに呼んでください。
そうこうしているうちに、領城前で行われていた戦闘が決着したようです。何でも、お兄さまが敵将を討ち取ったとか。さすがはお兄さま!
早速、武功を上げたお兄さまを労おうとしたのですが、残念ながら叶いませんでした。今のお兄さまは冒険者シスとして活動しているので、必要以上に親しくしてはいけないようです。
依頼人の娘として謝意を述べるのは? それもダメですか。無念です。
その後もお兄さまと接触できる機会は巡ってこず、結局は帰りの馬車の中が久々の再会でした。無論、思いっきり抱き締めましたとも。絶対に離しません!
後日談と申しましょうか。内乱関連で、あとあと聞いた話です。
どうにも元男爵領の方々が領城での出来事を喧伝したらしく、『陽光の聖女』が私の正式な通称になってしまいました。恥ずかしくて表を歩けません。まぁ、城下町を【偽装】なしで歩いたことはありませんが。
あと、どうしても許せないことがあります。
何と、お兄さまの悪い噂が流れていると言うではありませんか! どこの誰が流し始めたか知りませんが、いつか見つけ出して灰燼に帰してやります。絶対にですッ。
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私の日々はお兄さまで彩られています。お兄さまがおられない生活など考えられなくて……もし、あの方がおられない世界があるのだとしたら、きっと灰色でつまらない日常なのでしょう。
私はお兄さまを愛しています。心の底よりお慕いしております。なくてはならない存在です。
この感情が家族へ向けるものなのか、以前の書物で読んだ”恋”という代物なのか。それは幼い私には判然としません。
しかし、これだけは断言できます。
私は、ずっとお兄さまのお傍にいます。立ち続けます。たとえ世界が敵として立ちはだかろうとも、私はお兄さまの妹なのです。
次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。




