Interlude-Caroline 愛を知らぬ彼女
本日より1月8日まで、幕間を投稿していきます。
幕間は、基本的に主人公以外の視点で進める予定です。よろしくお願いします。
今回は、原作ゲームのカロライン視点です。
私の名前はカロライン・フラメール・ユ・サリ・フォラナーダと申します。伯爵の長女で第二子です。以後、お見知りおきを。
自画自賛になってしまいますが、私はとても恵まれています。整った容姿、伯爵令嬢という立場と財力、光魔法適性という才能。あらゆるモノを私は所有しています。天は二物を与えずと世間では仰るらしいですが、私の場合は別でしょう。
自惚れるなと苦言を呈してくる方もいらっしゃいますが、何がいけないのでしょうか。私は事実を申し上げているだけです。私が他者より優れ、恵まれているのは事実なのですから。
周囲の皆が私を褒め称えます。それに私は応えていきました。勉学でも、魔法でも、芸事でも、武芸にだって良い成績を残しました。誰もが認める人物になるよう、研鑽を積んでいったつもりです。
そして、それは国にも認められました。何と、私の婚約者に、第二王子が名乗りをあげてくださったのです。
快挙でした。我がフォラナーダ家が、聖王家の親族に名を連ねるのです。これほどまでに名誉なことはないでしょう。
私はすぐさま応じる旨を返し、第二王子との面会となりました。
王子は些か気の強い性格をしておりましたが、大変容姿の整ったお方でした。まさに王の気風を備えており、このお方の伴侶になれるのは喜ばしい限りです。もしかしたら、私が国母になる未来もあり得るかもしれません。
そのような期待を胸に抱いておりましたが、王子の放ったお言葉で、一気に興が醒めてしまいました。
彼は言ったのです。「俺がお前を愛することはない。この婚約自体、俺は反対だった」と。そのセリフは真実のようで、面会時の彼は終始不機嫌そうでした。
何なのでしょうか、この無礼な男は。私は将来を期待されている光魔法師なのですよ? いくら第二王子とはいえ、もう少し敬意を払っても宜しいと思うのですが。
この婚約者と仲良くやっていけるのか、私はとても不安に感じるのでした。
嗚呼、そうでした。この間、獣人のオモチャが手に入ったし、アレでこの苛立ちを解消しましょう。それなら、誰にも迷惑をかけずにスッキリできるわ。
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本日は学園の始業式。国中の子どもたちが一堂に会するとあって、会場内は人で溢れています。
正直、貴族と平民を分けるべきだと思うのですが、我慢しましょう。今年は勇者と聖女が選定される年。一応、平民もその場に顔を出さなければいけません。
まぁ、聖女は私で決まりでしょう。何といったって光魔法適性持ちですから。まだ発動はできませんが、きっと間違いありません。
ふふふ、これで私の名声も高まるというもの。
聖女に選ばれなかった……。それどころか、選ばれたのは孤児院出身の小娘らしい。
ここまでコケにされたのは初めてのことです。怒りと悔しさで気持ちがグチャグチャして、まったく落ち着けそうにありません。
絶対に、あの小娘には落とし前をつけさせますッ!
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全然うまくいかない。小娘への報復だけではありません。それに連鎖するように、何もかも失敗続きでした。
勉学では、小娘に張り合ったせいでケアレスミスを起こし。光魔法は一向に発動する兆しがなく、『陽光の聖女』は名前負けだなどと陰で笑われ。芸事では、小娘が今までにない発想を展開する中、私は型に捕らわれすぎた旧式とバカにされ。しまいには、婚約者の第二王子が小娘へ懸想しているという。
もう踏んだり蹴ったりでした。すべては小娘のせいです。あの女さえいなければ、私は成功していたはずなのに!
私は認めません。あの小娘が聖女だなんて、私よりも上にいくだなんて、絶対に認めやしないッ!!
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「愛を知らない可愛そうな人」
小娘が最後に放った言葉が、脳裏を離れませんでした。体から熱がどんどん抜けていき、命の灯火が消えてしまうのも時間の問題だというのに、私は彼女の言葉の意味を考えていました。
愛を知らない? そのようなことはありません。私は幼い頃から多くの人に囲まれ、将来を期待されていました。愛されていたはずです。婚約者こそ小娘に奪われましたが、他の者には愛されていました。
『では、どうして、今のあなたは一人なの?』
幻聴が聞こえました。小娘はもう去ってしまったというのに、彼女の声が聞こえるのは、おかしな話です。
しかし、その幻聴は耳に痛いものでした。
そう。愛されていたのなら、私は孤独に倒れ伏してはいなかったでしょう。この何も存在しない闇の中で、死ぬのを待ってはいなかったでしょう。
……そうよ、あの小娘の言う通りよ。私は誰からも愛されていなかった。周囲の者は皆、私の才能や出自を愛していたのであって、私自身に興味はなかった。
でも、そんな悲しいこと、認められるわけがありません。死ぬまでに誰にも愛されなかっただなんて、そんな寂しい人生を送っていただなんて…………。
愛とは何なのでしょう?
分からない。想像すらできない。何故なら、私は愛を知らないから。これまでに一度も、愛に触れたことがないから。
小娘は愛に囲まれていました。恋人からも、仲間からも。形は千差万別でしたが、多くの人から愛を向けられていました。
私は、それが妬ましかったのでしょう。振り返ってみたから気づいたことですが、私は小娘に嫉妬していたのです。
愛されたかった。愛したかった。私は……愛を知りたかった。
死の間際に望んでも、どうしようもないこと。魔に堕ちた私を愛する者など、この世に存在するはずがありません。
「ほんとうに……わたくしの、じんせい、は……つまらないもの……でした、ね」
孤独の闇の中、私の意識は沈殿していく。愛という言葉を空虚に抱きながら。来世では愛を得られると願いながら。
次回の投稿は明日の12:00頃の予定です。
良いお年を!